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FOVE_ZINGARO日記 / 自分が何者なのかを知ろうとする大切さ

先ずこの公演の実現までに、本当に様々にご協力くださった皆様に心から感謝申し上げます。近藤良平氏プロデュース『ダンスのある星に生まれて』と題したオープンシアターに音楽団体として招いてくださり、照明や舞台など貴重な環境でリハから作り上げてくださった彩の国さいたま芸術劇場の温かいサポート無くしては、公演の成功はありませんでした。

そして、ご来場の皆様。本当にありがとうございました。
皆様の物凄い熱気、そして拍手の嵐を一生忘れません!

Ensemble FOVE 今回の前進とは

さて、以下のリハーサル写真を見て、何かお気づきになるでしょうか。

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まあもちろん、歩きながら弾くとか、コントラバス座って弾けるの!?とか、横から照明当てると壁に映ってかっこいい!など色々ありますが・・・

そう、譜面台が無いんです。

暗譜?全員が?大なり小なりオーケストラ編成で譜面台がない公演って見たことありますか?私はあります(あるんかい)とはいえハンガリーのロマ大合奏団が、何十年と自分たちのレパートリーを弾いている感じのやつ。あと、常設の弦楽四重奏団も、団の気合度によっては膨大なレパートリーを暗譜されてたりしますね。

でも、日本全国忙しく駆け回る21人の若手奏者による暗譜アンサンブルは、完全に初体験。わたしゃあ良いんですよ、メロディが主だから。覚えやすいし、2年前に録音した曲ばかりだし。でもベースラインとか、内声(和音を充実させたりメロディに沿う担当)なんて、普通に仕事してたら楽譜見るのが当たり前なんですね。今回、編曲だけでなくプロデュースを務めた作曲家の坂東祐大が「皆さん譜面できましたよ!かっこいい舞台にしたいから後半の1曲め、チャールダシュまでは暗譜しましょうね♡」とメールで連絡していた頃には、みんなに会ってもいないのにメンバーの頭上に『??!?』という暗雲が立ち込めているのをエスパー尾池は感じ取っていましたよ。

”譜面を見て演奏するもの”という固定概念を超えるだけでもかなりの精神的努力を要するのですが、皆さすがプロでした。一度やって見ると、譜面を読むという脳の8割を占める視覚の情報から解放されて、みんな動ける動ける❤️ あの楽しさは、譜面を見ながらでは不可能だった!いつもながら満面の笑みで無茶振りをする坂東(下画像)を良い塩梅で恨みつつ、また一つ前進することができたと思います。

ピアニカ吹いてる時と、無茶振りする時が一番楽しそうな坂東

(ピアニカ吹いてる時と、無茶振りする時が一番楽しそうな坂東先生)

クラシック最大のテーマ『譜面の解釈』も、致しました

もちろん譜面を見ることでうまくいく曲もやりました。モーリス・ラヴェルのツィガーヌ〜演奏会用狂詩曲〜本日のメインディッシュです。伝説のヴァイオリニスト、ハイフェッツが若かりし頃、ラヴェルの前でツィガーヌを弾いてあれこれ質問したところ『君はどうして僕の書いたとおりに弾かないんだ』とピシャリと言い放った、とはハイフェッツの弟子で私の師匠アモイヤル先生から聞いたエピソード。
ロマ音楽はゆっくりから段々早くなっていくのが慣例ですが、ラヴェルの手の入ったツィガーヌ(ロマ / ジプシーと同義)は、どのくらい遅く〜どこで加速開始〜加速やめ〜ちょい遅く!〜再加速!!〜ハイそこでテンポキープそのまま終われー!!!って全部指定してくるんですね。こりゃ譜面見ないと計画通りにはいきません。

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さすがは『スイスの時計職人』と称されるラヴェル。書かれたとぉぉぉぉりに演奏すると無茶苦茶カッコいいんです。よくある『一般的にここでいったん遅くするよね...あ今回もそうね...あ書いてないけどこっから加速ね』みたいな慣習は、今回撤廃しました。

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譜面見つつも、各パートがソロを務める時にはちゃーんと前に出てきてくれて絡めるので、ソロが孤立せず最高に楽しい。
ラヴェルが精密機器の様な技法でフルオーケストラのために書いた楽譜、これを小編成の室内合奏版にと手を入れるのは、ラヴェル本人が怒らない様に徹底しなければならない。長大なヴァイオリン・ソロからオケがにゅ〜〜っと入るところで奏者が歩いたり、各所を誇張したり、私たちの想像力で足した音や声もある。でも、願わくばこれが発端となって色々なソリストに弾いて欲しい良いアレンジになったと思う。
天国のラヴェル先生、今日の公演はどの様にご覧になりましたか。
時を超えて心の対話ができることが、自分が音楽を続けたいと思う大きな要素かもしれない。

自己実現の瞬間。動きながら弾くということ。

私の人生は何をどう差し引いてもヴァイオリンが傍にある。ヴァイオリンを手にしつつヴァイオリン以外を知らなすぎて紆余曲折、転ばないとゴールを見つけられないタイプ(タイプとかあるのか)感情の振れ幅は底へ、底へと掘り下げてから上を見上げる感じ...。そんなだけど、進むべき道はいつも音が導いてくれた。練習中はなぜか知らないけど部屋を歩き回ってしまう。歩きながらバッハを弾くのが好き。コロナ以前はよく客席に降りて通路を通りながらアンコールを弾いていた。それが自分そのものだった。お客さんの近くに。より近くに。心を一つに。だって心は本来一つだから。争いや分断はただただ、生存本能が生み出す恐怖からやってくるのだから。恐怖を取り払って、聴いてくれてる人の心に近づこう。心を一つに・・・

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(フルート多久さんアレンジのアンコール、最後にチラシのジャンプしてねとしっかり振っていただいた。FOVE恒例最後の曲だけ撮影可、ということでお客様から拝借したジャンプ写真)

今回のプログラムは必ず再演したい。皆に会うならこの状態が一番自然だ。この自分が居てこそ家にいる自分も自分でいられる。自分が何者なのかにやっと気付けつつある。これを経た自分なら子供に叱らずに済むかもしれな(いやそれは無理かでも何かは前進した)い。また前を向いて頑張ろう。

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彩の国さいたま芸術劇場。
FOVE_ZINGAROがここで生まれることができて、本当によかった。

全国のイベント主催団体各位、これからもFOVE_ZINGAROが成長する機会を与えてくださいます様よろしくお願い申し上げます!


いつもながら各奏者がすごすぎるので

だれ、と特筆せずに全員のメンバーの名前を最後に載せます。それぞれのお名前を検索してぜひ普段の活動をチェックしてください!

多久潤一朗(フルート)、浅原由香* (オーボエ)、東 紗衣* (クラリネット)、
中川ヒデ鷹(ファゴット)、上野耕平(サクソフォン)、佐藤采香* (ユーフォニアム)、
田村優弥* (チューバ)、大家一将(打楽器)、池城菜香* (ハープ)、
戸原 直、町田 匡、大光嘉理人*、山本佳輝* (ヴァイオリン)、
三国レイチェル由依*、對馬佳祐* (ヴィオラ)、
小畠幸法、飯島哲蔵* (チェロ)、篠崎和紀、地代所悠(コントラバス)   
坂東祐大(企画・プロデュース)前久保 諒(インスペクター、舞台監督他)   *Guest Member

曲目
バルトーク:ワラキアの踊り(「44のデュオ」より 第40番)
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
ロシア民謡:黒い瞳
ディニーク:ホラ・マルツィショルルイ
バルトーク:足踏み踊り(「ルーマニア民俗舞曲」より)
     :悲しみ (「44のデュオ」より 第28番)*
     :冗談の歌 (「44のデュオ」より 第24番)*
     :アラビアの歌 (「44のデュオ」より 第42番)*
モンティ:チャールダーシュ
ブラームス:ハンガリー舞曲
ドヴォルザーク:母が教え給いし歌
ラヴェル:ツィガーヌ (Ensemble FOVE Edition)

編曲:坂東祐大、Ensemble FOVE
*多久潤一朗

【アンコール曲】
ディニーク:ひばり
パガニーニ(多久潤一朗編):「24の奇想曲」より第24番


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