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第3回:『監獄に生きる君たちへ』はミステリーで現状の問題を学べる良作

おはようございます、あみのです。

今回の本は、松村涼哉さんのライト文芸作品『監獄に生きる君たちへ』(KADOKAWA、メディアワークス文庫)です。ライト文芸のレーベルから出版されている作品ですが、レーベルの枠組み関係なく様々な世代の人に手にして頂きたい1冊です。

まず個人的に松村さんの作品で「凄いなぁ」と思うのが、比較的明るく気軽に読める内容が多いライト文芸(あるいはラノベ)として出版されているにも関わらず、この作家さんは社会の現状や枠組みへの疑問をミステリー要素を交えてシリアスに描いている作品が多いところです。
これまで読んできた松村さんの作品はどれもいい意味で「面白い」とは判断はできないけれど、でも世の中を知るきっかけとして「読んでみてよかった」と読後必ず感じさせてくれるところが最大の魅力だと思います。

あらすじ(カバーからの引用)

それは死者からの招待状。心揺さぶる衝撃ミステリー!
 廃屋に閉じ込められた六人の高校生たち。あるのは僅かな食糧と、一通の手紙———。
【私を殺した犯人を暴け】
 差出人は真鶴茜。七年前の花火の夜、ここで死んだ恩人だった。謎の残る不審な自己。だが今更誰が何のために?
 恐怖の中、脱出のため彼らはあの夜の証言を重ねていく。児童福祉司だった茜に救われた過去。みんなと見た花火の感動。その裏側の誰かの不審な行動。見え隠れする嘘と秘密……この中に犯人がいる?
 全ての証言が終わる時、衝撃の真実が暴かれる。

感想

まず今作の主なテーマは「児童相談所」の過酷な現状でした。作中には、あらすじにも書かれている茜という児童福祉司の女性がキーパーソンとして登場します。物語は家庭に問題のある少年少女たちが茜と出会ったきっかけや自分しか知らない茜との秘密を告白する形で進んでいき、この告白の中で彼女によって「救われた」子どももいれば、逆に生活が悪化してしまった子どももいたことが判明します。

子どもたちが見た「真鶴茜」という人物を善と見るか、悪と見るかは彼らの価値観によって大分左右されていたと思うのですが、一方で本人は過酷な家庭環境(作中では「監獄」という表現が頻繁に使われていました)で生きる子どもたちを一人でも多く救いたいと日々願っていたことは確かであったことを読んでいて強く感じとれました。「監獄」で生きる子どもたちへの茜の祈りは、彼らだけでなく私の心にもグッと刺さりました。

茜の行動によって「監獄」から子どもたちが救われていく瞬間へのやりがい、その裏に潜む想像以上の数の子どもたちを救えないことへのストレスとの対比の描かれ方が印象的で、児童福祉司という仕事の厳しさと専門性、虐待に対する考え方の変化、そして度々メディアでも報道される「児童相談所が子どもたちを救えない」理由を学ぶことができた1冊でした。

最後に、確かに今作もこれまでの松村作品と同様、ミステリーとしてのエンタメ性はありながらもテーマがテーマなので、やっぱりいい意味で「面白い」とは判断しにくいなぁと思いました。とはいえテーマはシリアスながらも、クローズドサークルもののミステリーとして描かれていたので、謎解きもしつつサクサクと読み進めることができました。作品を追っていくごとにエンタメ性は増している印象はありますね。

次作はどのようなテーマを選び、私たちに何を伝えるのか、今後の作品も引き続き読んでいきたい作家さんです。

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