勧誘ドキュメンタリー


以前勤務していた先で、とても素直でスレたところが一切ない大学生のバイトの女の子がいた。赤ちゃんのような純粋無垢さがあり、いつもへらへらと笑い、嫌なことでも笑いながら引き受けてしまうタイプの子だった。

ある時、少し年配の仕事仲間からうちに遊びにおいでと誘われたと言う。そのオバハンは某宗教の信者で、度々勧誘をしてるらしいと聞いたことがある。

あんたまさか、ついてったんじゃないよね?と聞くと、彼女はやはりへらへらと笑いながら、断れなくて行ったんですぅ、と答えた。


彼女が言うには、広い和室に通され、そこには祭壇のようなものがあり、お供えがたくさん置かれていたという。

お茶やお菓子を出され、最初は世間話をしていたのだが、しばらくすると、知らないオバハン二人がヅカヅカと部屋に入ってきて、強烈な勧誘話が始まったのだとか。オバハン3人がかりで迫られ、とにかく笑うしかなかった彼女は、へらへらしながらも逃げ切ってきたらしい。

あれは、やばかったです、とやはりへらへら笑いながら勧誘話を報告してくれた。どんな姿であったか眼に浮かぶ。

それ以降そのオバハンのことはそういう目でしか見れなくなったが、結局自分が勧誘されることは一度もなかった。人を見ているのか、と思った。


以前住んでいた家には、よくポストに新興宗教系のチラシが入れられており、たまにインターホンごしに勧誘してくることがあった。

だいたいは、結構です、と早々に断るのだが、一度どんなことを言ってくるのか、聞いてみようじゃないかと、インターホンごしにオバハンの話を本腰を入れて聞いてみたことがあった。ちなみにわたしの信仰心は年に数回神社に行って「金がほしいです」と手を合わせるくらいの程度である。

内容はとりあえずその神様を信じたら救われるといったものだったが、わたしは全部聞き終えた上で、こう言ってみた。

「私は自分しか信じていません。自分の中に神はいるんです。あなた知っていますか?あなた自身が神なんですよ!」

と、まさかの逆説法をしてみたら、オバハンの声は軽く震えた。

はあ、、と言ったきり、黙って去っていってしまったのである。この家はやばい、と思われたのだろうか。



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