父のしつけ


未だに人に言うとびっくりされるのだが、小学生の頃何か悪いことをした際に、お仕置きとして正座させられ、お灸をすえられていた。

それが当たり前だが熱いのである。反省も何もへったくれもない。お灸をすえられるくらいのことだから、相当悪いことをしたのだと思うが、肝心の何をしたかは全く覚えていないので、お灸をすえた意味ってあったのかと今更ながら思う。


またある晩、わたしと3歳上の兄は父の言いつけを破って、夜9時過ぎまで起きていた。怒った父は、「表で頭を冷やしてこい!」とうちから兄妹を放り出した。

兄は黙って俯き、反省した表情なのだが、妹のわたしは悪びれることなく、夜の景色を楽しんでいた。

そしてふと、名案が浮かんだのである。

丁度その日は母親が婦人会の集まりで、近所の公民館へ出かけている。

「お兄ちゃんいいこと思いついた!お母さん迎えに公民館まで行こう!」

わたしの名案に、兄は浮かない表情をして、「暗いし危ないから、よそうよう」と言って全然乗り気ではない。

「大丈夫や!夜の探検だ!行こう!」としつこく誘うと、しぶしぶ兄はついてきた。

子どもだけで夜道を歩くことにわくわくした。小さな枠の中から飛び出たような爽快感があり、わたしは鼻歌交じりに散歩を楽しんでいた。後ろを振り返ると、やはり不安げな兄がいたが、気にせずに公民館までの道のりをどんどん進む。

公民館に着き、しばらくすると母が出てきて、わたしたち兄妹を見てびっくりした表情を見せた。不安そうな怯えた兄と、ニコニコ笑って楽し気な妹が立って待っていたのだから。

帰り道、母と「お父さん心配してるかな」と呑気に話しながら歩いていると、遠くの方で灯りが光って見えた。

よくよく見てみると、懐中電灯片手に、自転車を立ち漕ぎで、必死になってわたしたちを探してる父親の姿だったのだ。後にも先にもあんなに焦った顔の父親は見たことがない。

聞くと父親は、五分ほど反省させたら、うちの中に入れてやろうと思っていたのだったが、いざ外に出ると兄妹が消えていたので、あちこち探し回っていたということである。

家に戻ると父はぐったりと疲れていた。兄は安心そうな顔をしている。そして妹のわたしは、「夜の冒険楽しかったなあ」と内心思いながら、まったく反省の色なしであった。


以降、外へ放り出されるというお仕置きは我が家からは消えたのである。




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