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【詩の雑感】 福永武彦「火の島」

 今回取り上げる詩は福永武彦「火の島」。1943年に書かれたものである。

死の馬車のゆらぎ行く日はめぐる
旅のはて いにしへの美に通ひ
花と香料と夜とは眠る
不可思議な遠い風土の憩ひ

漆黒の森は無窮をとざし
夢をこえ樹樹はみどりを歌ふ
約束を染める微笑の日射
この生の長いわだちを洗ふ

明星のしるす時劫を離れ
忘却の灰よしずかにくだれ
幾たびの夏のこよみの上に

火の島に燃える夕べは香り
あこがれの幸をささやく小鳥
暮れのこる空に羽むれるまでに

福永武彦「火の島」

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