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セレクトショップと時代の終わり

アメリカ、ニューヨーク発のセレクトショップ「オープニングセレモニー」(Opening Ceremony。略: OC。)が全店舗を2020年内に閉店する。そのニュースは、2020年1月14日火曜日、メジャーなファッションウェブサイトのヘッドラインを飾った。

私がこのニュースを知ったのは、彼らのInstagramでの3つにわたる投稿をみてのことだった。

3つのうちの最初の投稿。写真はニューヨークのソーホー地区にあるOCの初の実店舗。私がはじめてオープニングセレモニーを訪れたのも、この店舗であった。

そこは、今までわたしが知っていた「セレクトショップ」という場所とは、まったく違う空間であった。

セレクトショップというと、どこか姿勢を正して、頭の上から足先までデザイナーの洋服を纏っていないと入れない、見定められているような緊張感と強制的な見えない圧力が常にあるような気がしていた。

しかし、オープニングセレモニーではその緊張感がいい意味でなかったのだ。友人のアートスタジオにでも来たかのような気軽さと、心地よさと、なにか面白いものに出会えるかも?という期待で胸がいっぱいになるお店であった。

お店のインテリアは統一感があるというよりは、つい童心に返って「触ってみたい」と思った瞬間に手が伸びているようなおもちゃ箱のような空間。

上のフロアへと続く細い階段は、連続した木の枠のアーチになっていた。まるで、自分と数人の仲間たちしか知らない秘密基地に来たような気分にさせてくれる。

商品を陳列するショーケースは、ダチョウの背中に乗っている。

洋服をディスプレイするマネキンの顔は、ポップな眼球になっている。

ファッションに興味がない人も、この空間に足を踏み入れたらワクワクして、お店の隅々まで見てみよう!という気がおきるような仕組みがそこら中に秘められているのだ。

私がソーホーのオープニングセレモニーに通っていた当時は、Instagramがサービスをはじめる前で(Instagram のリリース日は、2010年10月6日、今年で10周年!)リリース後爆発的に人気なアプリにはなったが、今ほど充実したコンテンツではなかった。日本ではまだInstagramって何?という声の方が、多く返ってきた頃であった。

2020年現在、誰でもInstagramで簡単に情報を発信でき、色んな情報を簡単に手に入れられた。しかし、Instagram以前の世界では、インターネットに情報はあったとしても、今ほど多くなかった。

「Google it」(ググれ) なんて言葉が、当たり前に使われるようになっていた頃だった。それでも、名前を知らないモノ、世の中の人がまだ知らないモノはGoogleで検索できない。まだ名前も知らない、何か素敵なモノを探しに行こうと、わたしたちはオープニングセレモニーに通ったのだった。

ランダムに情報を入れるために、セレクトショップという場所が最高の場所だったのだと思う。そして店舗に行けない時は、オープニングセレモニーのECサイトで、おもしろい洋服やデザイナーを探した。情報は、まだまだ能動的に動かなければ、入ってこなかったのだ。

一応学生だったということもあり、買い物なんて(ごめんなさい)ほとんどしてません(できません)。ですが、オープニングセレモニーに行くことは、勉強であり、刺激であり、ニューヨークの街を知る行為の一環であったとも思っています。

しかし、Instagramが世の中に浸透して、どのファッションブランドも自社のPRをInstagramではじめました。わたしたちは、フォローさえしてしまえば、受動的でいても気になる情報が入ってくるシステムを全員が手にしました。

気がつけば、わたしもオープニングセレモニーをはじめ、セレクトショップに行かないし、オンラインサイトも見なくなりました。

最新の情報源はInstagramで得ていて、そこから気になった情報は調べたり、外部のリンクに飛んだりしています。

商品で実際手にしたいものや、試着がしたいものがあったとしても、セレクトショップには行かず、そのデザイナーのお店に直接行くことが増えました。

2枚目の投稿でも、人々の買い物の仕方がとても大きく変わった。と書かれていましたが、本当にその通りだなあと、自分の行動を振り返っても思いました。

昨年の夏にチャプター11(日本でいう民事再生法)を申請したBerneys New Yorkに続き、オープニングセレモニーも全店閉店。セレクトショップという場所で、様々な洋服とブランドとの出会いがありました。そんな時代が...もう終わったのだな。そう強く感じた出来事でした。

そう思うと、やはりさびしいですね。

どうせなら...

この、大きなバッグ買っとくべきでした。

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