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高架線/滝口悠生

▫️あらすじ
池袋から二つ目の地上駅、東長崎にある古アパート「かたばみ荘」では、出るときに次の入居者を自分で探してくることになっていた。部屋を引き継いだ住人がある日失踪して……。高架の下に広がる町に人々が暮らし、小さなドラマが繰り広げられる。住人と関係者の記憶と語りで綴られていく、十六年間の物語。

▫️感想
駅から徒歩五分で築年数は古いが、風呂・トイレ付きの家賃三万円のアパート「かたばみ荘」。家賃が激安な理由は、退去する時に次の住人を連れてこなければいけないというルールがある。そんな「かたばみ荘」に住んでいた住民や友人、恋人、その他関わりのある人々が、「かたばみ荘」であったあれこれを会話調で語っていく物語である。
なんといっても会話がくだらなくて引き込まれていく。基本は、「かたばみ荘」であった出来事が語られていくが、途中で話が脱線して、「え?何の話してるの?」とクスッと笑ってしまうこともしばしば。しかし、一見「かたばみ荘」に関係なさそうに聞こえてきた話も物語が進んでいくと繋がってきたり、こなかったり。
「語り」を通じて登場人物の性格とか心情とか、もっと細かい部分まで(他の人のことを語っていたはずなのに、話が逸れて自分の話をしちゃうとか)読者に伝わってきて、自分も物語の中に溶け込んでいるような感覚になる。最後は時間を忘れるくらい物語に没頭でき、素敵な読書時間になった。

▫️心に残った文章
P109 私は誰の結婚式に行っても泣いてしまう。どこの家庭も、どこの親子も、大抵はつまらない狭い料簡のなかで生きていて、しかし現実がそこにあればやっぱりそれだけで感動する。

P175 けれど、私が柚子ちゃんにはじめて向けた怒りは世界を動かさない、単なる悪意だった。
私にあの時あったのは、ただ柚子ちゃんを怖がらせたい気持ちだった。

▫️こんな人におすすめ
・物語の世界に没頭したい方
・会話調の小説を堪能したい方
・東京の土地、生活について興味がある方

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