めろんぱん

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最近の記事

水たまりで息をする/高瀬隼子

▫️あらすじ 「風呂に入らない」。ある夜、夫がそう告げた。問うと、水が臭くて体につくと痒くなるという。何日経っても風呂に入らない彼は、ペットボトルの水で体を濯ぐことも拒み、やがて雨が降るたび外に出て雨に打たれに行くようになる。結婚して10年、この先も穏やかな生活が続くと思っていた衣津実は、夫と自分を隔てる亀裂に気づき__。誰しもが感じ得る、今を生きる息苦しさを掬い取った意欲作。 ▫️感想 ある日を境に夫が風呂に入らなくなり、順調に進んでいたはずの夫婦生活の歯車が歪み始める。

    • プレーンソング/保坂和志

      ▫️あらすじ うっかり動作を中断してしまったその瞬間の子猫の頭のカラッポがそのまま顔と何よりも真ん丸の瞳にあらわれてしまい、世界もつられてうっかり時間の流れるのを忘れてしまったようになる…。猫と競馬と、四人の若者のゆっくりと過ぎる奇妙な共同生活。冬の終わりから初夏、そして真夏の、海へ行く日まで。 ▫️感想 何か大きな事件が起こるわけではなく、さざなみのように、静かに、淡々と日常が進んでいく。ただ「日常」がテーマとなっている物語はたくさんあるけれども、差別化されている点がある

      • 妊娠カレンダー/小川洋子

        ▫️あらすじ 出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹……妊娠をきっかけとした心理と生理のゆらぎを描く芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」。謎に包まれた寂しい学生寮の物語「ドミトリイ」、小学校の給食室に魅せられた男の告白「夕暮れの給食室と雨のプール」。透きとおった悪夢のようにあざやかな三篇の小説。 ▫️感想 表題作「妊娠カレンダー」の、情景描写の精巧さと登場人物の無機質さのアンバランスさが新鮮だった。妹や姉の夫の姉に対する対応は果たして優しさなのか。自分には乾いた優しさ

        • あひる/今村夏子

          ▫️あらすじ あひるを飼い始めてから子供がうちによく遊びにくるようになった。あひるの名前はのりたまといって、前に飼っていた人が付けたので、名前の由来をわたしは知らない__。わたしの生活に入り込んできたあひると子供たち。だがあひるが病気になり病院に運ばれると、子供は姿を見せなくなる。2週間後、帰ってきたあひるは以前よりも小さくなっていて……。日常に潜む不安と恐怖をユーモアで切り取った、河合隼雄物語賞受賞作。 ▫️感想 初めての今村作品。ぞわぞわとした余韻が凄い…。書かれている

        水たまりで息をする/高瀬隼子

          「好き」を言語化する技術/三宅香帆

          ▫️あらすじ すごく感動したのに「おもしろかった」しか言葉がでてこない……‼︎16万部突破『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でバズり中の著者が教える文章術の本、待望のハンディ版! ▫️感想 自分の言葉で本の感想をまとめたいと思い、この本を購入。ハッと驚くような新しい知識が手に入るというよりは、自分が日頃無意識的に行なっているポイントが言語化されており、これまでの自分の文章も間違いではなかったのだなと勇気付けられた。感想を綴る前に、同じ本を読んだ他者は、どのような感想を

          「好き」を言語化する技術/三宅香帆

          御社のチャラ男/絲山秋子

          ▫️あらすじ ジョルジュ食品はオイル、ビネガーなどの商品を扱う地方の小さな会社だ。社長のコネでやってきた三芳部長は、社内でひそやかにチャラ男と呼ばれている。自分には自分がないと語る三芳と、彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この社会に生きる私たちの現実。すべての働くひとに贈る傑作“会社員”小説。 ▫️感想 舞台はジョルジュ食品と呼ばれる地方の食品会社。タイトルにもなっている“チャラ男”こと三芳部長とその周りの人々の独白形式で話は進んでいく。特徴的な物語の形式により

          御社のチャラ男/絲山秋子

          ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい/大前粟生

          ▫️あらすじ 恋愛を楽しめないの、僕だけ?大学生の七森は、“男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手。入学してすぐ仲良くなった麦戸ちゃんと、ぬいぐるみサークルを見学に行くと___。鈍感でいられない人間たち、ぬいぐるみとのコミュニケーションが、痛みややさしさの意味を問い直していく。切なくも熱い共感を呼んだ表題作に、短編三作を加えた不世出の傑作小説集。 ▫️感想 漠然と「性別」や「ルッキズム」への言葉にならない違和感や、生きにくさみたいなものを日々感じることがあるからこそ共感できると

          ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい/大前粟生

          時をかけるゆとり/朝井リョウ

          ▫️あらすじ 就活活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初エッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』改題。 ▫️感想 著者の学生時代〜社会人の印象的な出来事や、著者を表す特徴的なエピソードを面白おかしくくだらなく書かれたエッセイ。先に次作のエッセイ「風と共にゆとりぬ」を読破した

          時をかけるゆとり/朝井リョウ

          ハヅキさんのこと/川上弘美

          ▫️あらすじ かりん、という琺瑯の響き。温泉につかったあと、すっぴん風に描く眉。立ち飲みで味わう「今日のサービス珈琲」。四十八歳、既婚者で「中途半端」な私が夢中になった深い愛__さりげない日常、男と女の心のふれあいやすれ違いなど、著者独自の空気が穏やかに立ち上がる。虚と実のあわいを描いた掌編小説集。 ▫️感想 一つの短編が10ページ未満であり、気づいたら読み終わっているという不思議な感覚に落ち入る。どの短編も共通してふんわりとした穏やかな雰囲気が流れており、読んでいて心地よ

          ハヅキさんのこと/川上弘美

          乳と卵/川上未映子

          ▫️あらすじ 娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取り憑かれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった、芥川賞受賞作。 ▫️感想 地の文も会話文も、読点が少なく、読みにくい印象を受けるが、話がまとまらず感情のままに語っている様子が伝わってくる。タイトル通り、「乳=胸」と「卵=卵子(

          乳と卵/川上未映子

          風と共にゆとりぬ/朝井リョウ

          ▫️あらすじ 『桐島、部活辞めるってよ』で鮮烈なデビューを飾り、『何者」で戦後最年少の直木賞受賞作家となった著者が、「ゆとり世代」の日々を描くエッセイシリーズ 雑誌・新聞連載のエッセイに加え、悶絶の痔瘻手術体験を綴った「肛門記」を収録。後日談「肛門記〜Eternal〜」は文庫オリジナル。ひたすら楽しいだけの読書体験をあなたに。 ▫️感想 すごい、ただただすごい。こんなにずっと楽しい・面白いエッセイなんてあっただろうか。個人的にエッセイというジャンルは、著者の考えや感想を自由

          風と共にゆとりぬ/朝井リョウ

          推し、燃ゆ/宇佐美りん

          ▫️あらすじ 「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」高校生のあかりは、アイドル上野真幸を解釈することに心血を注ぎ、学校も家族もバイトもうまくいかない毎日をなんとか生きている。そんなある日、推しが炎上し__。第164回芥川賞のベストセラー。時代を映す永遠の青春文学。 ▫️感想 「推し」がいる自分がこの本を読んだら、共感性羞恥というか、負の感情を感じてしまうのではないかと勝手に考えており、ずっと前から気になっていたがなかなか手に取れていなかった一冊。正直、主人公であるあかりは

          推し、燃ゆ/宇佐美りん

          高架線/滝口悠生

          ▫️あらすじ 池袋から二つ目の地上駅、東長崎にある古アパート「かたばみ荘」では、出るときに次の入居者を自分で探してくることになっていた。部屋を引き継いだ住人がある日失踪して……。高架の下に広がる町に人々が暮らし、小さなドラマが繰り広げられる。住人と関係者の記憶と語りで綴られていく、十六年間の物語。 ▫️感想 駅から徒歩五分で築年数は古いが、風呂・トイレ付きの家賃三万円のアパート「かたばみ荘」。家賃が激安な理由は、退去する時に次の住人を連れてこなければいけないというルールがあ

          高架線/滝口悠生

          コンビニ人間/村田沙耶香

          ▫️あらすじ 「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて……。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。 ▫️感想 まず「コンビニ」という一つの題材で、ここまでぞわぞわと心がざわっとする物語が書けるのかと感嘆した。「コンビニ」という知らない人がいない、誰にとっても身近な

          コンビニ人間/村田沙耶香

          ぼくの死体をよろしくたのむ /川上弘美

          ▫️あらすじ うしろ姿が美しい男に恋をし、銀色のダンベルをもらう。掌大の小さな人を救うため、銀座で猫と死闘。きれいな魂の匂いをかぎ、夜には天罰を科す儀式に勤しむ。精神年齢の外見で暮らし、一晩中ワルツを踊っては、味の安定しない茶を飲む。きっちり半分まで食べ進めて交換する駅弁、日曜日のお昼のそうめん。恋でも恋じゃなくても、大切な誰かを思う熱情がそっと心に染み渡る、18編の物語。 ▫️感想 個人的、この本を語るのに欠かせないキーワードは、「生と死」「SF」「人との繋がり」であると

          ぼくの死体をよろしくたのむ /川上弘美

          おいしいものと恋のはなし

          おいしいものと恋のはなし/田辺聖子 ▫️あらすじ 別れた恋人と食べるアツアツ の葱やき、結婚する気のない男との一泊旅行で買った駅弁、恋の悩みを打ち明ける女友だちとつつく焼肉、浮気夫のために作るビフテキ……男女の仲に欠かせない「おいしい料理」と「恋」は表裏一体。すれ違いつつも寄り添おうとする男と女たちの、せつなくてかわいくて、ちょっとビターな9つの恋の物語。 ▫️感想 一言で表すと、大人な男女の様々な恋愛の場面を切り取った短編集。ただ他の恋愛短編集と異なる点は、「こってこて

          おいしいものと恋のはなし