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将来の選択

 美容室で働き続けると、そのお客様一人一人の節目を垣間見ることがある。学生から社会人。恋人ができた。結婚を予定することになった。引っ越しをすることになった。離婚届を出した。など、その人その人の人生と共に歩んでいける。
 その中で、多いのが仕事を変える、ことだろうか。今まで勤めていた職場を変えて新たな環境へ自分自身を投じるのは不安や楽しみなど、様々な感情が揺れ動くだろう。
 オープン当初から通っていただいているkさんは今の仕事を辞めたいという。
「クレープ屋で働きたいんです」
 今の仕事がつらくて。や、もっと条件のいいところがよくて。などはよく聞く話ではあるが、クレープ屋で働きたい、は私も初めて聞く理由であった。
「どうしてクレープ屋で働きたいんですか?」
「すっごく仲のいい友達から、クレープ屋で働いてみたらいいいじゃん、みたいな話になって、その時にハッてなったんですよね。わたし、クレープ屋で働きたいって」
 まわりの影響で自分自身の夢や目標ができることはよくあることだと思う。それがクレープ屋だというのがまた良い。
 高校の文化祭のときにクレープを焼いていたのを思い出す。クレープ生地をちょうどよい厚さにすることにこだわっていた。厚すぎてもよくないし薄すぎても破けてしまう。もくもくと作り続けて文化祭初日の午後すぎにやっと安定した厚みのクレープ生地が焼き上げられるようになる。
 そんなことを思い出しつつ、クレープ屋で働くことを目標にするKさんの髪を綺麗にしていく。
 私自身この美容師という仕事を選んだのは両親の影響だ。大学生で就職活動をしていた時に、どういった仕事をするか決めかねていた時にふと美容師である両親の姿を思い出し、大学を中退、美容の専門学校に入りなおしたのが始まりだ。なんとか今まで続けている(まわりのみなさまの支えがあってのことだろう)が、人生何が起こるかわからないし、気持ちがどう変化するかもわからない。けれども、今は美容師、美容室経営としての仕事を行っている身であるからこそ、そこに一生懸命でありたいと思う。
 Kさんがクレープ屋で働くようになり、クレープを食べに行ったとき、一生懸命にクレープを作る姿を見て、これが今のKさんの思い描いてきた姿のだと私自身嬉しくなった。
 クレープの味はおいしく、生地の厚さはちょうどよいものだった。


父の背が大きく存在し続ける春の就職センター抜けて


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