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掌編小説

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#一駅ぶんのおどろき

リボルバー

リボルバー

 一年ぶりに出した石油ストーブの光は、あの日、私達の影を浮かばせた夕陽とよく似ている。
 二人きりで下校するのが初めてだった私達は、緊張で何も話すことが出来なかった。足元から伸びた影に引きずられるように、私達は並んで歩いていた。何も話せないならせめてと、あなたの左手の影に、私の右手の影を重ねて、影だけは恋人同士にさせていたっけ。
 あれから二十年。
 私が石油ストーブの光に目を細めている間、あなた

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雪の手紙

雪の手紙

「お元気ですが。俺は元気です。今日、初雪が降りました。って言っても吹雪だったんだけど。お前がこの町を出て行ってから一ヵ月後に、俺はこの町に戻りました。交代制なのかよ。何から、この町を守るんだよ。ともあれ、元気にお過ごしください」

「お元気ですか。俺は元気です。今年もまた、初雪が降りました。去年みたいな吹雪ではなく、粉雪でした。お前が勤めていた駅前のホテルだけど、取り壊されて、大きな病院が出来まし

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リボルバー

リボルバー

手にしたスマートフォンの光に目にくらむ、愚かな男がおりました。

切りすぎた前髪を人差し指で弄び、昔話風に呟いております。

愛した男に気づかれない哀れな前髪。

触れる指先には、美しいネイルが施されております。

ベランダの窓を開けると、ネイルと同じ色に滲む朧月夜です。

あなたの額が好きでした。

私のわがままに困る皺が好きでした。

だから、あなたの、額に向けたのです。

朧月夜

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