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蛙化現象って「めっちゃキュートになっちゃう現象」じゃないっぽい

蛙化現象という言葉がある、らしい。

「ずっと好意を寄せていた相手が自分に振り向いてくれた途端に、急に生理的に気持ち悪く思えてしまう」という意味なのだという。グリム童話『かえるの王子様』からとられたの言葉らしいが、あれは美女と野獣型の童話なので、なんともしっくりこないネーミングに思えてしまう。たとえツッコミが下手くそな人のたとえツッコミみたいな、何かズレた感じというか、居心地の悪さを感じる言葉である。個人的には。あくまで、私の感覚では。(こんなエクスキューズを連発しているのは、いわゆる若者言葉らしいので、私も名実ともに老害になってしまったというわけだろうか……という引け目があるからだ)

この蛙化現象、なんでも「若者を悩ませている現象」だそうで。SNSで使用例を眺めていると「自己肯定感が低い女性が~」みたいな文脈で使われるみたいだ。高嶺の花だったはずの相手が、自分なんかに振り向いてしまった。両思いになってしまった。自分なんかを好きになるなんて、とか。嫌われてしまうのが怖い、とか。色々なもっともらしい理由や持論が語られているようだ。

蛙化現象。要するに「幻滅」である。恋愛にせよ友情にせよ、人間は自分の抱いた幻想を相手の中に見出している。相手を好きになっているわけではなくて、自分勝手に作り上げた「幻」に恋慕したり友愛を抱いたりしちゃっているわけだ。これは若者特有のものではなくて、老若男女だれもが相手に多かれ少なかれ幻像を求めている。幻は私を傷つけることはないし、美しくて儚くて、砂糖菓子のように脆い。「推し活」だって同じことだ。この「幻滅」のシチュエーションを限定したものが蛙化現象なのだろうが、やっぱりネーミングがちょっとオシャレじゃないような気がする。だって、相手が両生類になったわけではなくて、勝手に抱いた幻が消滅してしまっただけなのだから。すっきりシャープな二字熟語「幻滅」のほうが、実体に近いような気がするけれど。

いつかは幻が壊れると知っていて、恋においても友情においても人は片思いを繰り返す。その幻が砕け散った先にあるものに「幻滅」するか、その「カエル」に向き合って再び情を抱いてキスをするかは場合によるのだろうけれど、やっとそこから人付き合いというものが始まるわけだ。とても、ありふれた現象。繰り返されてきた事象である。

ところで、蛙田アメコなんていうペンネームで活動するくらいにはカエルさんが好きだ。あのチュルリとしたテクスチャーも、ぽこぽこの表皮も、のっぺりした表情も、きゅるんとした黒目も、とってもキュートだ。だから、白状してしまうと、ようは「なんか生理的にキモく感じる」みたいな現象にカエルを引用されてしまうとちょっと悲しい気持ちになったりして、蛙化現象という言葉があんまり好きではないのだ。蛙化現象なるものを「めっちゃキュートになっちゃう現象」だと思いたかった。だってそうじゃないか。カエルってあんなに可愛いのに!……という幻想を、私はカエルさんに対して抱いている。

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