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そっと触れると、少し驚いたように見える。
水気を含んだ冷たくも柔らかな存在。

「なんだか元気ないね」

よく知った古い友人と電話を交わすように、話し掛けていた。

「あ、新しい葉っぱ出てたね」

ここに居るのが当たり前で、気付くことに遅くなる。

「大丈夫、ちょっと待っていてね」

折れた茎をそっと持ち上げて、お隣さんに支えて貰った。

雨の日が続くと、窓の外を見て、どこか遠い故郷を思うような顔をしている。

太陽の出るほうを向いては、ずっと待っている。

一緒に居るのに遠く感じるのは、きっとこっちを向いてくれない、その所為かもしれない。

だけど、どこかで共存することを認めてくれていて、わたしに新しい生命を見せてくれたりする。

遠くても思ってくれる友人のような不思議な距離がここにある。

あの人に手紙を書こう。

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多肉やシダのような、少し変わった植物が好きです。

国内旅行で見つけて持って帰って来たものや、
前のおうちの近所の方が分けてくださったもの、
大家さんに戴いたもの、
待ち合わせた駅の花屋さんで目が合ったもの、
以前のお店のオープンにお友達が持ってきてくれたものなど、ひとつひとつ思い出があります。


残念ながら枯れてしまった子もいますが、枯れたと思っても捨てられずに冬を越すと、冬眠から起きて新しい顔を見せてくれた子もいます。

そんなときは嬉しくて、声を掛けて迎えます。

そんなに数はないと思っても、引っ越しの度に我が家のミニバンを移動植物園にしてしまいます。

いつも家の中にいるので、景色と化してしまっていて、それでもじっと見ていると、日によって違う表情をしています。

植物に声を掛けたとき、古い友人と電話で話しているような錯覚を覚えました。


暫く連絡を取っていないけど、
元気にやっていますか。

わたしたちは少しずつ、
理想の未来へ進んでいるようです。

あのときお話していたことが、
もうすぐ かたちになりそうです。


夫婦ふたりの時間が出来ると、よく色んな人のことを思い出し、思い出話に花が咲きます。
色んな花の色が、心を彩ります。


あの子、元気かな

あの方とこんなお話ししたよね

夫婦で仕事をすることは、遠慮なくものを言ってしまうこともあって、大変なときもありました。

今となっては、こうやって誰かのことをいっしょに振り返る機会も多くあって、
それがわたしたちの財産だと思います。

きっとそれはこれから、
もっともっと増える大切な記憶。

「ありがとう」をしたためられる人になりたいので、今年の誕生日には万年筆をお願いしました。

誕生日当日は風邪をひいて、近所のケーキ屋さんまでシュークリームを買いに夫婦で散歩した、なんでもない日でした。

何でもないことが、何よりも大切なことだと感じたりするのです。

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