あまやどり出版 (自分出版社協同組合)

やっとのことであまやどりしても、雨や濁流に力及ばず流されることも。 必死にあっぷあっぷ…

あまやどり出版 (自分出版社協同組合)

やっとのことであまやどりしても、雨や濁流に力及ばず流されることも。 必死にあっぷあっぷしたあとに、ふと顔を上げた先に新たなあまやどりできる場所がある。 この出版社がそんな存在になればいいな。 自分出版社協同組合https://note.com/jibunsyuppan

マガジン

  • 毎週水曜更新『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 1978

    1978年、中学2年生になった高藤哲治は勉強が大の苦手。受験戦争についていけない哲治は新しくオープンしたゲームセンターでインベーダーゲームと出会う…。 神経症の両親が作る「心をがんじがらめに縛り付ける家庭」で、条件付きの愛情しか与えられずに育った哲治が、外の世界で友情を培う中でどう変わっていくのかを、家族の視点を交えながら丁寧に描いていきます。 3部構成の第2部がついにスタート。毎週水曜日に更新する予定です。気に入った方はフォローお願いします!

  • 「自分出版社協同組合」新刊のご紹介

    • 19本

    「自分出版社協同組合」から発行された新しい本の紹介をしています。

  • 編集者のありったけ!

    編集者として活動してきた筆者が、培った経験やスキルについてありったけ語るマガジンです。不定期更新ですが、役立つ情報を意識して書いています。よかったらフォローお願いします~。

  • あまやどり出版 新刊のご案内

    • 11本

    あまやどり出版から出版されている本をまとめて見られるマガジンです。 最新刊が気になる方はこちらをフォローよろしくお願いします。

  • 毎週水曜更新『Egg〈神経症一族の物語〉』第1部 1964

    1964年、アジア発の東京オリンピックが開催される中、高藤恵美は望まぬ男児を出産する。 我が子を愛せない恵美と、自分の父親に服従を強いられる夫の隆治。神経症持ちの二人が、高度経済成長を遂げる日本でいかに前世代のDNAを引き継いでいったのかを彼らの心理に寄り添ってとことん描きます。 3部構成の第1部。毎週水曜日に更新する予定です。気に入った方はフォローお願いします!

最近の記事

『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第一章

 東京都町田市のはずれの山と田んぼの間に、鶴川街道とつながる予定の道路がある。通称「16メーター道路」という場所だ。鶴川街道が大きくカーブして険しい山道に入る地点に接して作られたのだが、なぜかいまだ開通せず、太い丸太と鉄線でバリケードが張られている一直線の幅広の道路だ。  バリケードの周りは人家もほとんどない。唯一あるのは「ふくちゃん」というそこに住んでいるおばあちゃんがやっている雑貨屋ぐらいのものだ。  オレは高藤哲司。中学2年生だ。1学期の終業式の日、オレはお父さんに

    • 出版に憧れていた人に本を出してもらうプロジェクトやってます

      つい先日、こんな本がAmazon Kindleで出版されました。 これは楓ゆかりさんが、お医者様の高橋優三先生に高度経済成長時代の体験談を語っていただいた内容をまとめた本です。 「あまやどり出版」で出版までのサポートをさせていただきました。 「自分出版社協同組合」のnoteでも新刊紹介をしています。 楓さんは今まで編集者だったわけではありません。出版に憧れを持ちつつも、出版社は狭き門で、専門的な技量もないから自分には本なんて出せっこない、と諦めていらっしゃる方でした。

      • コーポレート・レベルズ: Make Work More Fun

        「世界にはもっと仕事が楽しい職場があるはずだ」世界にある先進的な企業を訪問しまくる冒険の旅に出た二人の青年たちの記録が、令三社の山田裕嗣さんの手で日本語版として刊行されました! 実は「あまやどり出版」も校正とkindle出版でお手伝いさせていただきました。 そこで中身を知ってる私から、この本のオススメのポイントをお伝えしちゃいます! 1.現場で仕事のあり方を変える方法が、様々な側面から語られている!  最初の一歩の踏み出し方から大きなジャンプアップの方法まで、リアルな話

        • 『Egg〈神経症一族の物語〉』第十五章

           大量の荷物を両手に提げ、抱っこひもで息子の高藤哲治を抱っこした恵美は、実家に迎えに来た夫の隆治と一緒に、にぎやかな東京の街に帰ってきた。人であふれる夕方の街からは、商店街の売り子の威勢のいい声や、夕餉の支度の匂い、お母さんが子供を叱る声がひっきりなしに聞こえてくる。  カンカンと音を立てて、2階建ての木造アパートの外側についた鉄骨の階段を上がると、ドアの隣に脱水用ローラーが付いた洗濯機が置いてある我が家が目に入った。台所と四畳半一つのつつましい家だが、3か月ぶりに帰ってきた

        『Egg〈神経症一族の物語〉』第2部 第一章

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          19本
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          7本
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        • 毎週水曜更新『Egg〈神経症一族の物語〉』第1部 1964
          16本
        • 小説『抹茶ミルク』脱稿版
          17本

        記事

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十四章

           1月2日。奮発して大阪から新幹線ひかりに乗り、東京にわずか4時間で戻った高藤隆治は、その足で五十嵐編集長の自宅に顔を出した。夕飯までにはまだ時間があるときで、奥さんと小学生の子供たちは公園で凧揚げをしている。隆治は五十嵐の自宅のリビングに向かい合って座った。 「あけましておめでとうございます」 「おう。大阪の方は片付いたか?」  隆治が持参した御年賀の日本酒を受け取りながら五十嵐が尋ねた。隆治が答える。 「はい。妹の弘子は昨日大阪を立ちました。ご迷惑をおかけいたしました」

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十四章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十三章

          「ああーん! 白組が優勝しちゃった~!」  高藤隆治が取材のために宿泊している大阪のアパートで、NHKの「紅白歌合戦」を食い入るように見ていた義理の妹の高藤弘子が無念そうに呟いた。 「美空ひばりの『柔』がトリだから、絶対紅組が優勝すると思ってたのに」  四畳半の木造アパートで、隆治は妹の弘子と二人、お正月を迎えようとしていた。小さな白黒テレビの中では、NHKの建物と日本にできたばかりの高速道路の舞台セットを背景に、歌手たちが視聴者に手を振っている。二人が座っている小さなコタ

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十三章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十二章

          「カッちゃん、様子はどうだったい?」  7人も入ればいっぱいになってしまう小さな飲み屋のカウンターで熱燗をちびりちびりとやりながら、『激動』編集長の五十嵐重雄は、大阪から東京に戻ったばかりの部下である加藤実に、大阪で取材をしている同じく部下の高藤隆治について質問した。 「なんかねえ……。ちょっと前から、妹が大阪に来てるらしいんすよ」 と、加藤は口にくわえた煙草に火をつけながら答えた。 「たしか妹さんって……」 と、副編集長の矢田健が焼き鳥をかじりながら呟く。 「そう。捨て子な

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十二章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十一章

           松本駅の近くに、大きな門構えで四方をぐるりと高い塀で囲った立派なお屋敷が立っている。門番の男たちが必ず2,3人いるのだが、腕や背中に入れ墨のあるガラの悪い連中が多い。そして屋敷の隣には豪華な成金好きのする派手なバーがあり、そのバーから駅に向かって走る一本道の両側には小さな飲み屋が軒を連ねている。日が暮れると、この一帯は夜の街に変貌する。  ここは中越一帯をしきる高藤組の本拠地だ。組長の高藤誉の妻いちは、毎日大量の家事とバーの切り盛りで慌ただしく生活していた。今もバーで出す

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十一章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十章

          「シキュウ デンワクレ」  実家から父である高藤誉の名前で、大阪のアパートに電報が届いたのは、弘子が来て5日も経った頃だった。  高藤隆治は仕事の合間を縫って、十円玉を大量に用意して、街角の煙草屋に立ち寄った。煙草屋の前に出されている赤電話に近寄ると、店のレジスペースに静かに座っている老婆がひざの上のトラネコを撫でながら、こっちをじいっと見つめてきた。隆治はなぜか悪いような気がして、 「すみません。電話をお借りしてもいいですか?」 と丁寧に尋ねてみた。するとその老婆はしげしげ

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第十章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第九章

          「やばい9時だ。くっ! 頭が痛え…」  大阪に取材に来ている高藤隆治は、カーテンが閉まった薄暗い部屋でのろのろと体を起こし、けたたましく鳴っている目覚まし時計を止めた。  ここは編集長の五十嵐が大阪で借りている四畳半のアパートの一室だ。昨晩は大阪の商工会から情報をもらおうと接待をしていた。やっとのことでセッティングできた商工会会長との席であったし、会長から勧められた酒を飲まないという粗相はできない。隆治は酒を浴びるように飲んだ。しかし2次会、3次会と席が進むにつれ、ちゃんぽん

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第九章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第八章

           東京に比べてひんやりとした空気。刈り取りが終わり水がなくなった田んぼ。白菜やネギが等間隔ですくすくと育っている畑。その奥に紅葉した赤城山がくっきりと見える。  季節に歩調を合わせて冬支度を始めている民家の軒下では、干し柿が簾のように大量に吊り下がっている。  そんな懐かしい地元の風景を車窓から眺めながら、高藤恵美は息子の哲治を抱いて実家に戻ってきた。車を降りて門をくぐると、兄の妻である鈴木麻子が広々とした玄関口からかっぽう着姿でパタパタと小走りに駆け寄ってきて、恵美と哲治

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第八章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第七章

          第七章   一晩ぐっすり眠ったことで、高藤恵美はすっかり落ち着きを取り戻していた。頬に血色も戻り、看護婦さんとも微笑んで話す。その様子を見て、母の正子はほっと胸をなでおろした。 ――――いつまでも子供みたいなところがあるから心配していたけど、このまま母親としての自覚が出てくれば、大丈夫かもねえ……――――  赤ん坊の哲治を抱っこして哺乳瓶で授乳を始めた娘の姿を見て、正子はよっこらしょと立ち上がった。 「ちょいと清太郎に電話をしてくるよ」 「お兄ちゃん?」 「ああ、退

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第七章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第六章

          第六章  「え? 年明けまで大阪に行くの?」  夜遅く病院にやってきた隆治の言葉を聞いて、恵美は思わず泣きそうになった。  母がいてくれるとはいえ、慣れない育児。新生児室で預かってくれる時間はあるものの、深夜に2~3時間起きに赤ん坊は泣き、そのたびおしめを変え、哺乳瓶にミルクを作り、抱っこして飲ませ、げっぷをさせて…。 ようやく眠り始めたと思って布団にそうっと置くと、途端に火が付いたように泣き騒ぐ。それで慌てて抱っこしなおしては、部屋中を歩き回ったり、ゆすってみたり、

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第六章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第五章

          「隆ちゃん、国際博覧会条約が動くらしいぞ」  編集長の五十嵐重雄が高藤隆治を呼び止めた。 「え? それ本当ですか?」  隆治は校正の手を取めて五十嵐を見る。  このでっぷり太った四十代、『月刊激動』の編集長は、東京オリンピック記念のピースを箱から一本抜きとって、ライターで火をつけると、おもむろに話を続けた。 「ああ。去年、大平外務大臣が博覧会国際事務局のレオン・バレティ会長から、国際博覧会条約加盟について示唆されたろ。  今回のオリンピックで、万博開催の機運が高まったことか

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第五章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第四章

          「恵美、おめでとう。しっかりした顔つきの男の子でねえの」  高藤恵美の母、鈴木正子が産後の荷物をまとめて病院に戻ってきたのは、夕方遅くなってからのことであった。  病室はこざっぱりとした個室で、恵美の隣で小さな巻き毛の赤ちゃんがすやすやと眠っている。  神経質な娘は、個室の方が気も休まるだろうが、大部屋よりだいぶ値の張る個室代をポンと払える隆治さんは何とも頼もしい、と正子は改めて義理の息子に良い感情を抱いた。 「お母さん。遅かったじゃないの」 と恵美が口を尖らせて文句を言

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第四章

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第三章

           病室で恵美がぐっすり眠っている間に、隆治は両親を連れて新生児室をのぞきに行った。 「えーと…高藤恵美。あった、ほら、あそこだよ」  隆治が指さした先には、黒々とした立派な巻き毛の生えた赤ちゃんがすやすやと眠っている。 「おおう…。恵美さんでかしたな。儂の跡継ぎの誕生じゃわい」  先ほどまでの息まいた様子が嘘だったかのように、誉は目を細めて、好好爺の笑みを浮かべた。 「隆治と同じ、黒い巻き毛だねえ。やっぱり遺伝なのねえ」 と、のんびりした口調でいちがしみじみ呟く。 「高藤家の

          『Egg〈神経症一族の物語〉』第三章