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2022年よんだ本を思いだせるだけ 後半13冊

作品の重要な展開には触れていないつもりです。

●レインボー・ローウェル『エレナーとパーク』

スクールバスもの! 乗ったことないくせにスクールバスに弱い。そういえば今年大好きになった小説、チョン・セラン『アンダー、サンダー、テンダー』もちょっとスクールバスものっぽかった(あっちは実際は路線バスだけど)。ティーンズが詰め込まれる乗り物って青春装置っぽくていい。

ボーイミーツガールものでもある。
生育環境が違いすぎるふたりのボーイミーツガール(ガールミーツボーイ)である、というところでこれも今年読んだブレイディみかこの『両手にトカレフ』を強く連想した。どちらも「しっかりしろ!子どもの福祉ィィ!!」と叫びたくなるお話なんだけど、わたしの国の現実も「息をしろ!子どもの福祉ィィ!!!」と叫びたくなるようなものなので、響く。

●トーベ・ヤンソン『トーベ・ヤンソン・コレクション(7) フェアプレイ』

島の丁寧な暮らしのお話かな、いいなーと思って読んだら、えーっ! と何度も驚かされた連作短編集。
おかしみが詰まっていて最高。

●チョン・セラン『屋上で会いましょう』

チョン・セラン作品を読むにあたってもはや不安とかない。身をゆだねて読書できる作家の作品がこの世にあるありがたさよ。
表題作とてもよかった。

●カルメン・マリア・マチャド『イン・ザ・ドリームハウス』

駆り立てられるようにページをグイグイめくりながらも一体自分が何を読んでいるのかわからなくて頭の中が「???」だらけで、こんな読書ははじめてだ。と思った。

最後まで読んで何を読んできたのかわかったかといえばやっぱりよくわからなくて、でもまさにそこが魅力的な読書だった。この著者の作品はどんな形式であれ他のものも必ず読もうと思った。

●古谷田奈月『無限の玄/風下の朱』

「無限の玄」は2022年読んだ小説の中でわたし的ベスト。しかしこちらはすでに『早稲田文学女性号』に収録のものを読んでいたので、この本は「風下の朱」目当てで図書館から借り出してきたものだった。
「風下の朱」もすごくよかった。「無限の玄」があれだけ力あるお話なのにそれと並べて収録される(しかもどっちも表題作)ってどんな話よ、わたしまた心を動かされすぎてしまうのでは…とおそれつつ読み、おそれていた通りにまんまと心が揺り動かされすぎた。喫茶店で泣いてしまった。遠い町の喫茶店でよかった。
この二作品が一冊の本に収録されている気持ちよさもあり、忘れられない本になりそうだ。まったく世界観の違う話でもありつつペアとして完璧なのだ。すごすぎてポカンとしちゃった。

●上間陽子『海をあげる』

上間陽子氏についても本の内容についてもほとんど知らぬままに読んだ。かなりファンになり、ラジオにゲスト出演していた放送回を聴き漁ったりなどした。文章でも音声でもこの方の語り口が好き。

●文・斉藤倫、絵・花松あゆみ『新月の子どもたち』

図書館で子どもに読む絵本を探しているときにこの美しい装丁の児童書が目に飛び込んできた。わたし的好みの装丁オブザイヤー。
児童書だし挿絵もあるし、と子ども(4さい)と読みはじめてみたのだが、冒頭から「死刑囚」「ぼくはしぬ」などの不穏ワードが出てきて子どもはポカンだったし読み聞かせていたわたしもあせった。どうやら小学校高学年〜くらいが対象の本のようだった。
一方でわたしには不穏ワードがクリーンヒットしたので、夜な夜なたのしみにひとりで読むことにした。
読みおわったとき、布団にあおむけにバサっと倒れて、こんなん、対象年齢で読んだら人生変わっちゃうレベルのやつだよー。と思った。30代でも人生変わりかねないが。

●イ・ラン『アヒル命名会議』

ことばの使いかたがすごく面白かった。小説におけることばの使いかたの「型」を、ぶっこわそうとしている、のか、ぐにゃぐにゃ曲げて拡げようとしている、のか、茶化している、のか? わからずとも、書き手の「とらわれていなさ」に爽快感がある短編集だった。

●佐藤愛子『その時がきた』

昭和のラブコメ! 地獄編! という感じ。
解説やあとがきによると、「女が女でなくなるときの話」ということだった。そのふれこみだけで男とか女とかについての強い言葉全般苦手な我にはウッとなるようなものなんだけど、登場人物のドタバタっぷりに謎のほほえましさがあり、いや地獄なんだけど、おかしくて。楽しくズイズイ読めていた。

読んでいて「えーっそうだったんだ?」と思ったのは、女の若さの象徴としてムチムチの太腿が出てくること。対して、老いによる現象としては太腿と太腿の間に隙間ができることが挙げられていて。今とちょっと価値観違うな? と思った。今って、インスタに「ふとももにスキマをつくるエクササイズ!」みたいなの無限に出てくるじゃん。
美とか若さの定義って半世紀くらいでコロっと変わってたりするんだなー、うっすらとはわかっていたけど、思ったよりそのサイクルは短そう。ますます、現行のメジャーな美の定義に振り回されなくてよさそうーと思って、希望あった。意図されていなかったところに希望を見出してしまった。むかしの小説はこういうところ面白い。

●チョン・セラン『地球でハナだけ』

なんて軽やかなSF〜!
てかチョン・セラン作品の登場人物、みんな最初は普通そうに見えるんだけど、どたんばで吐くせりふとか、追い詰められてとる行動がどこかおかしくて。それがすごく魅力的なんだよな。人間がここぞというときに発揮する弾力性とか突破力みたいなものが、物語の中でヤバい光を放っているというか。作家が人間の力を信じているからこそできるキャラ造形というかんじがする。
あー楽しかった。

●國分功一郎『暇と退屈の倫理学』

読んでいる間じゅうずっとぜいたくな時間だった。人間の暇と退屈について、その起源から対処法まで問う本書の、冒頭にいきなり書かれている「人はパンだけで生きるべきではない。私たちはパンだけでなく、バラも求めよう」はほぼ結論だが、本書をゆっくり読んでいた時間こそがわたしには薔薇のようだった。
この読書は、人がものごとを考える道すじをすっかり見せてもらったようで、得がたい体験だった。自分の頭で考えるってこんなふうなんだ。先人がどう考えたか学び、ある部分は受けとめ、ある部分は否定し、また別の先人の考えを学び……を繰り返して、自分自身の哲学を作り上げていくんだ! 果てしなーい! と思った。何を隠そう、わたしは考えるのが苦手なのだ。
わたしは考えるのが苦手で、この本は簡単というわけでもない。それでも読めてしまった。まえがきには「哲学を勉強したことがない人でも(略)最後まできちんと読み通せる本として書かれている」とあり、わたしは「またまたぁ〜」と思ったものだが、ほんとうに読めたので嬉しかった。

●エリザベス・シーガー『ラーマーヤナ』

インドの長編叙事詩、の児童向け版。
当時映画RRRを観てがぜん盛り上がっていたわたしは、インド映画的大げさアクションを読書でも摂取できないだろうか? と考え、ラーマーヤナを手に取った。映画RRRでもラーマーヤナへのオマージュ的台詞やシーンがあったから気になっていたのもある。
結果、インド的大げさ表現(一度に千の矢を射る、とか)を存分に味わえてサイコーだったのだが、中盤ではたと気がついた。ラーマーヤナの世界、あまりにも女性の生きる道が少なすぎていま読むのけっこうつらいかも。
男性キャラは神から悪魔までまじ魅力的でバリエーション豊富。りっぱな王様、まっすぐな王子、正しい聖人、強くてちょっと忘れっぽい猿の王、ワルいけど魅力あふれる悪魔。ところが女に用意されてるのは「美しく貞淑な妻」さもなくば「醜い魔女」、以上。って感じだ。途中から貞淑貞淑うるせーーーって文句たれながら読んでいた。この古典はとにかく男の物語なんだなあと思った。むかしの少年マンガ読んでるつもりでいたら楽しい。女は物語を展開させるために(男たちの活躍を引き出すために)誘拐される。誘拐されかたもちょっと愚かだ。美しく賢いシータも、男より賢くあってはいけなかったんだろう。物語が要請する女。
読み終わったときには更に複雑な気持ちになった。まばゆいばかりのハッピーエンドなんだろうがわたしにはちっともハッピーエンドじゃなかったから。
もっとも、編集した人の意図も色濃く反映されているかもしれない。このバージョンのラーマーヤナは児童向けにめちゃめちゃコンパクトにまとめられているっぽいし。別の版のラーマーヤナも読んで確かめないことには「はいはいラーマーヤナも男尊女卑おつ〜」で終わらせるのはまだ早いって気がする。

このラーマーヤナ読んで思ったことは、そういえばRRRでも女の役割ってそんな感じだったなあと。とばっちりかな? でもけっこうそう思う。男の物語を展開させるために存在する女たち。マッリもジェニーも。大好きな映画だけどそこだけは引っかかっている。

●温又柔『真ん中の子どもたち』

地の文に日本語と中国語と台湾語(カタカナ表記)などが混じり合っている。読んでいてなんだか旅行をしているみたいな頭になる。
言語はチャンポン状態なのに軽やかに読み進められるのがなんだか不思議だった。
複数の文化にルーツを持つ子どもたち(真ん中の子どもたち)が成長する過程で直面することってこんなに色々あるんだ、というのを少し見せてもらった感じ。日本で日本だけにルーツを持つ人々とばかりふれあってきたわたしはほとんど考えたことがなかった。

作者の温又柔氏がラジオ出演時に言っていた、日本のニュースでよく聞く『なお犠牲となった人の中に日本人はいませんでした』に考え込んでしまう、自分が海外で事故に遭ったらどう報道されるんだろうか……という話をよく思い出す。

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