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セルビアLGBTQ備忘録

私は「日本は遅れている! ヨーロッパ進んでる!」とは決して単純には言わないが、実体験からのメモ。

外国(セルビア共和国)に赴任していたときの目からウロコだったことの一つがトイレの利用。

私が赴任していたのは文学部(と言っても日本で言うとちょうど外国語大学のような感じ)だったので、女子率がとても高かった。

女子トイレは混みがちだったが、混んでいるとさっさと男子トイレの個室を使う女子が結構いた。男子の個室は圧倒的に空いているし、(あまり使われないから)きれいだし、紙もある!(女子トイレは便座が取れてしまって無くて座れないことも!)

他にも、「するときの音」を全く気にしない!(ただし、日本に留学すると「音姫病」にかかってしまう!😅)

男女共用のトイレも多いが、洗面台の真横に男子用の立ってする便器があったりして男子が立ってするときはモノが丸見え!(なぜかお互いあまり気にしない!)

先生用には特別な男女共用のトイレがあって鍵を渡されていて開けて使っていた(特権と言うよりも、そうでないと授業に遅れてしまうから)。

ちなみに国は異なるが、もっとずっと昔(1996年頃)のイギリスのユースホステルは男女共用で、うず高くサニタリーボックスにモノが積まれてあふれ出していた(男子は気にならないのだろうかと気になったが、気にしている様子はなかった。当たり前という感覚なのかなと思った)。

いずれにせよ、気にしない国は気にしないんだなぁ、と開眼した。

公衆トイレはセルビアなどはあまりないのだが、少なくとも大学内でもなにか問題が起きたということは聞いたことはなかった。夜間の女子の独り歩きは日本よりも安全だった。もちろん、性犯罪がない国ではないのでそれなりには気をつけているが、いわゆる「トイレ問題」はほぼなかった。

セルビアはLGBTQに特別に優しい国でもなんでもなくどちらかと言えばヨーロッパでは一番遅れていて同性婚も出生証明書の変更もできなかったが、首相はオープンかつ事実上公認されたレズビアンであり、結婚(事実婚)していて在任中に子どももパートナーに生まれていた。

法律婚はしたければできるという程度で、する必要はなく、わざわざ夫婦別姓という制度もない(そもそもが全くご自由にだから)。あくまでも婚姻しているという意思や事実があるかどうかが問題であり(配偶者控除とかはそもそもない)、子どもがいれば、親の状況は無関係にあくまでも子どもの保護が第一で、非嫡出子とかそういう概念がそもそもなかった。どの子どもも家庭の事情には関係なく平等の権利を享受できる。(ただし、ロマの子どもは義務教育を受けるのは半分程度という歴史的問題は残ったまま。)

国民の80%以上はセルビア正教徒(キリスト教)であり、表面上は古い価値観は根強く残っているし、LGBTQの法律面では遅れてはいる。国の政治への宗教の介入も非常に大きいが、前述のように首相がレズビアンだろうが、それは関係はなかった(有能かどうかが大切。「あの人は『男』だから!」と、その有能さを褒めるのかけなすのかわからないような事を言う人もいた)。

SRSは国民健康保険(家族の誰かが仕事をしていれば入れる。いくらなのかはよく分からなかったが所得税に保険税は含まれていて病院は公立なら無料だが、薬には保険が効くとは限らず安くはない。私も国民健康保険に自動的に入っていた)ではカバーされていないが、15年ほど前にトランスジェンダーたちが熱心に国に直訴して、政府がセルビア国籍者に対してはSRS費用の65%を出すということになっていた(民主主義の国というよりコネとデモと賄賂と直訴の国に近い。なお、年収は日本の10分の1程度なので35%の自己負担はかなりきつい)。

セルビアは第一次世界大戦時に国民の約4分の1が死亡し、女性の兵士(義勇兵)や子どもの将軍すらいたので、世界でもかなり早いうちに女性参政権が実現されていた。成人男性の2人に1人は戦死して、負傷者も多数出たので、男性器の再建術が発展し、再建術やSRSの技術には歴史が長く技術力は高い。費用は原則自己負担だが、外国人から見れば安いので、例えば、アメリカ人は国内でSRSを受けるよりもセルビアでSRSを受ける人のほうが2倍もいた(他の分野でも医療ツーリズムが発展している)。大学の教授が泌尿器及びSRSの専門の現代的で高機能なきれいな病院を持っていて、アテンドは病院が直接してくれる(空港まで迎えに来てくれ、英語でアテンドしてくれる)。日本人は過去にFtMが2人SRSを受けた記録がある(担当教授が日本で講演をしたのを聞いて受けに来たとのこと。ちなみに、極めて愛日国である)。

私は大学の教室内では完全にオープンにしていたのだが、LGBTQの相談が結構多く寄せられ、LGBTQの割合は日本とほとんど変わらなかった。クローゼットの学生も多いが、熱心に相談はしてくる(その代わり、絶対秘密にしてくださいとも相談者には言われることもあった)。

無論、良い点だけではなく、特にMtFだとまだまだ職業の選択肢はほとんどなく、夜の水商売や風俗系が多かった(とは言え、私のように大学の先生をしている者や首相すらいたので、機会が完全に奪われているというわけではない)。

男子学生よりも女子学生のほうがLGBTQ運動にはおおむね熱心で、レインボーパレードの主催者が教え子にいた。FtMの教え子からパレードへ誘われて私は参加してみたが、首相も参加するような大きなイベントでメインストリートをパレード用に歩行者天国にして行われるほどだった。

宗教的にLGBには厳しく、TとIには優しい感じだった(とは言え、法整備としては差別禁止法がとりあえずあるだけで、EUにも加盟していないので、特段実効性はなかった。前述のように出生証明書の修正はまだできない)。レインボーパレードでも一部の過激な反対者は反対のパレードも並行しておこなっていて、レズビアンの首相が出る前は暴力沙汰にもなってしばらくはパレードができない期間があった。パレードには警察官が保護に付いていた。

周辺のハンガリーやポーランドでは法的整備は進んでいたが、反動が起き、現在は国が反LGBTQ化している。決してヨーロッパもLGBTQにとっては安住の地ではない。

(甘利実乃・あまりみの 初出2023年8月4日Twitter/X有料版)

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