甘利実乃(あまりみの)

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最近の記事

トランス女性のスポーツ参加問題:多様な意見が交錯する中で建設的な議論を

トランス女性の女性スポーツ参加という複雑で繊細な問題について、簡単に結論を出すことは難しいでしょう。この問題には様々な立場や意見が絡み合っており、一筋縄ではいかないのが実情です。 よく見られる論説の1つに、スポーツにおける性別区分は身体的性差に基づいているため、身体的性別で出場を決めるべきだ、というものがあります。これには一定の論理性がありますが、トランスジェンダーの権利や尊厳への配慮という点では不十分と言わざるを得ません。 また、トランス女性が女性スポーツで圧倒的な強さ

    • 「『批判する人は中身読んでいない』脅迫されたトランスジェンダー本監訳者『学術価値高い』」(産経新聞電子版, 2024/4/4 11:00)を基にした再論考

      1. はじめに1.1 問題の所在と本論説の目的 近年、トランスジェンダーの人々の人権をめぐる議論が国際的に活発化しています。自認する性別と出生時に割り当てられた性別が一致しないトランスジェンダーの人々は、長きにわたり偏見や差別に晒されてきました。医療アクセスの確保をはじめ、雇用や教育の場での不当な扱いなど、基本的人権の享受を阻む様々な障壁が立ちはだかっているのが実情です。 こうした中、欧米を中心に、トランスジェンダーの権利擁護を求める運動が高まりを見せています。世界保健

      • 「わらしべ方式」で切り拓いた、私の自分らしい人生~トランスジェンダーが歩んだ、希望への道のり~

        皆さん、こんにちは。今日は、私の人生経験から学んだことを皆さんにお話ししたいと思います。私は、トランスジェンダーであり、また障害を抱えながら生きてきました。30年前、私は性別にとらわれない生き方を選択しましたが、その結果、社会のルールから大きく外れてしまったのです。就職の道も閉ざされ、できることが限られている中で、私は絶望的な状況に追い込まれていました。 しかし、そんな私を救ってくれたのは、同じような境遇で独立独歩の人生を歩んでこられた先輩方との出会いでした。数は少なかった

        • トランス女性のスポーツ参加を巡る議論:多様性と公正性の調和を目指して

          はじめにトランスジェンダーとは、自分の性自認(内面で認識している性)と出生時に割り当てられた性が一致しない人々のことを指します。特に、男性として生まれながら女性としての性自認を持つトランス女性のスポーツ参加を巡っては、近年、激しい議論が交わされています。この問題は、スポーツにおける公正性と多様性のバランスをどう取るべきかという難しい課題を突きつけています。本稿では、この複雑な問題について、多角的な視点から丁寧に論じていきたいと思います。 スポーツにおける公正性と多様性公正

        トランス女性のスポーツ参加問題:多様な意見が交錯する中で建設的な議論を

          「元◯◯」と言うなかれ︎

          はじめに トランスジェンダーの方々が自身を表現する際に用いる「元◯◯」という言葉について、その言葉の持つ意味合いや影響について十分に議論されてきたとは言い難いのが現状です。本論説では、「元◯◯」という言葉の使用が、トランスジェンダーの方々にとって本当に適切なのかどうかを、様々な角度から検討していきます。 「元◯◯」という言葉の意味と問題点 「元◯◯」という言葉は、過去の性別を明確に示すとともに、現在はその性別ではないことを強調しています。しかし、性別とは単に身体的特徴

          「元◯◯」と言うなかれ︎

          トランスジェンダーへのメッセージ:逆境からの成長(PTG)が導く、自分らしい人生の歩み方

          はじめに 私は、性分化疾患によって性別不合(MtF)を抱え、加えて重い心臓疾患や脊髄損傷、ADHDなどの様々な身体的・精神的困難を抱えながらも、研究者や学生として充実した日々を送り、留学生支援という社会貢献活動にも喜びを感じながら取り組んでいます。重い心臓疾患は常に命の不安と隣り合わせの状態をもたらし、脊髄損傷は慢性的な痛みと機能制限を伴います。一見すると不可能に思えるこの生き方は、実は心理学の研究で「PTG(Posttraumatic Growth)」と呼ばれる概念に裏打

          トランスジェンダーへのメッセージ:逆境からの成長(PTG)が導く、自分らしい人生の歩み方

          「女性スペース守る連絡会 性同一性障害特例法の改正案私案で集会 外観要件議論に危機感」(03/19 11:35 産経新聞)に対する、東京大学法学部卒業生からの意見表明

          性的マイノリティの人たちが直面する過酷な現実・性的マイノリティの人たちは、今この瞬間も、私たちが想像する以上の差別や偏見に苦しんでいます。職場や学校、地域社会で、排除やハラスメントに晒され、深く傷ついています。 ・自分の性自認に沿って生きることができず、毎日が生き辛く、自分らしく生きる喜びを奪われています。自暴自棄になったり、自殺を考えたりするほどの絶望の中にいる人たちがいるのです。 ・この残酷な現実を直視するとき、私たちは性的マイノリティの人権を守ることの緊急性を痛感

          「女性スペース守る連絡会 性同一性障害特例法の改正案私案で集会 外観要件議論に危機感」(03/19 11:35 産経新聞)に対する、東京大学法学部卒業生からの意見表明

          トランスジェンダーMtFへの励ましのメッセージ

          はじめに:皆さんへの心からのメッセージ 皆さん、こんにちは。今日は、トランスジェンダーMtFの方々へ、私からのメッセージをお伝えしたいと思います。私は厳密には典型的なトランスジェンダーではありませんが、性分化疾患のMtFに属する者として、皆さんと同じような立場にあると感じています。私たちの経験や感じていることは、一見すると似て非なるものかもしれませんが、根本的なところで繋がっていると思っています。 今日、私が話したいのは、主に声についてです。声は私たちが社会と繋がる重要

          トランスジェンダーMtFへの励ましのメッセージ

          性別不合(GI)に関する認識の誤解とその影響について

          性別不合(Gender Incongruence, GI)に関する一般的な認識には、しばしば誤解が含まれています。これらの誤解は、性別不合を取り巻く議論をより困難にし、当事者への支援と理解の障害となっています。本文では、性別不合についての誤解とその影響、そしてより深い理解を促進するための視点について考察します。 性別不合とは何か 性別不合とは、個人の性自認(自分が男性か女性か、あるいはその他の性別であると感じること)と、出生時に割り当てられた性別が一致しない状態を指します

          性別不合(GI)に関する認識の誤解とその影響について

          AIと自己表現の未来: 性の多様性を支える技術の可能性

          私はAIと言語学、言語教育学に興味を持つ研究者として、AIを活用した未来について考えることがあります。AIの進歩により、私たちの生活や自己表現の仕方に多大な影響を与えることが期待されます。特に、性の多様性に関して、AIが提供できるサポートは無限大に広がっていると感じています。 例えば、自己の性別アイデンティティについて探求し、表現する過程は、一人ひとりにとって非常に個人的で、時には複雑な旅です。AIの技術が進化することで、個人が自分自身をより深く理解し、表現するための新しい

          AIと自己表現の未来: 性の多様性を支える技術の可能性

          心を開く勇気に応える: カミングアウト後の心温まる対応ガイド――理解と受容を深める、日常の小さな一歩――

          はじめに:この論説を書くに当たって私が一番に考えたこと カミングアウトは、LGBT当事者にとって大きな一歩であり、その後の人間関係における対応は非常に重要です。まず、当事者が求める最も基本的なことは、「今まで通り、そのままで」の態度です。これは、カミングアウト前と変わらない日常的な関わりを維持しつつ、必要な時には適切な配慮を加えることを意味します。このバランスの取れた対応が、当事者にとっての理想的な支援となります。 カミングアウトを受けた側からは、どのように対応すれば良い

          心を開く勇気に応える: カミングアウト後の心温まる対応ガイド――理解と受容を深める、日常の小さな一歩――

          困難を乗り越えて: トランスジェンダーの自己実現と社会の成長

          トランスジェンダーの人々、特に男性から女性への性別移行(MtF)を経験する人々が直面する困難は、深刻で多層的です。これらの困難は、身体的な違和感から始まり、社会的な偏見、職場や教育機関での差別に至るまで、幅広い範囲にわたります。しかしながら、これらの挑戦に直面しても、トランスジェンダーの人々が自身の生活を向上させ、より充実させる方法は確かに存在します。 自己受容と自己改善のプロセスは、極めて個人的なものです。親や周囲からの支援は心強いものの、最終的には個人が自分自身のために

          困難を乗り越えて: トランスジェンダーの自己実現と社会の成長

          “女子学院「絶対に認めない判断しない」、神戸女学院「今後検討」トランスジェンダー生徒受け入れ(LGBT女子中高アンケート)”(産経新聞電子版:2024年2月10日15:00)の記事中の「LGBT理解増進会代表理事・繁内幸治氏の話」に対する一考察

          「女子中学校・高校がトランスジェンダーの生徒の受験や入学を認めるかどうかは、慎重に判断されなければならない。学校法人の執行部、教職員、生徒、保護者、卒業生らも含めて十分な合意形成が図られる必要がある。なぜなら、未成年に大きな影響を与える可能性があるからだ。10代は性自認の揺らぎに悩まされるケースが少なくない。トランスジェンダーの生徒が女子校に入学後、受け入れ態勢が不十分であれば、より悩みを深めて卒業がかなわないことにもなりかねない。当事者だけではなく、思春期の成長途上である周

          “女子学院「絶対に認めない判断しない」、神戸女学院「今後検討」トランスジェンダー生徒受け入れ(LGBT女子中高アンケート)”(産経新聞電子版:2024年2月10日15:00)の記事中の「LGBT理解増進会代表理事・繁内幸治氏の話」に対する一考察

          性別違和の橋渡し:理解への道筋

          性別違和を抱える人々の体験は、深く個人的であり、しばしば言葉で表現することの難しさに直面します。この複雑さを通じて、当事者と非当事者間の理解を促進するための道筋を探ります。 性別違和の個別性と表現の挑戦 性別違和は、個人の内面に深く根ざした体験であり、その感覚を他者に伝えることは一筋縄ではいきません。SRS(性別適合手術)を含む過程を通じても、当事者は自己の内面を完全に理解し、それを外部の人々に明快に説明することが困難であることを経験します。 理解に対する認識のギャップ

          性別違和の橋渡し:理解への道筋

          風に乗って:私の多彩な旅

          生まれた瞬間、社会は私に「男性」という名札をくれました。けれど、心の奥深くでは、自分がそれとは違うことを、ずっと感じていました。少し不揃いながらも、私の中の女性性は、静かに、しかし確かに息づいていたのです。それは、ゆっくりと時間をかけて正しい場所を見つけるパズルピースのようなものでした。 男性の世界で生きる日々は、まるで一つの冒険。苦しみと楽しみが織り交ぜられた、奇妙ながらも魅力的な時間でした。振り返ると、その全てが今の私を形作る貴重な経験だと気づきます。 今、私は女性と

          風に乗って:私の多彩な旅

          「ディスコースと学びの旅」:家庭の会話が照らす受験への道

          子どもたちの学びと成長の旅は、家庭の温かい壁の中から始まります。日常会話、それは一見取るに足らないもののように思えるかもしれませんが、私はこれが受験勉強という大海原を航海する船の帆を張る風であるという仮説を持っています。このエッセイでは、ディスコース理論を軸に、家庭内の会話が子どもたちの学習能力、特に受験における伸びにどのように影響を与えるかを探ります。 はじめに:「ディスコース」とは何か 「ディスコース」という言葉を耳にすると、何やら難しそうな言語学の用語を想像するかも

          「ディスコースと学びの旅」:家庭の会話が照らす受験への道