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オチャ、イレテ【ショートショート827字】

 近年、惑星間交流が盛んである。A星の使節団も、文化視察のために地球を訪れた。まず最初は、小さな島国、日本を訪ねることとなった。


 青年は張り切っていた。使節団の一員として派遣された以上、しっかり見て、学び、吸収して帰らなければいけない。青年は特にビジネス文化に興味があったので、今日の日本の大企業訪問は以前から楽しみにしていた。

 一団はオフィスの中を周りながら、通訳を通して語られる説明を聞く。地球では労働者は『ツクエ』というものに向かって座り、『パソコン』というものを操作することになっているらしい。

 青年が説明を聞きつつ、労働者をよくよく観察していると、気づいたことがあった。まず、労働者はグレーや紺などの地味な色を着ているグループと、ピンクや黄色など鮮やかな色を着ているグループに分けられる。鮮やかな色を着ているグループの労働者の多くは、頭髪が長い。A星と同じように、着るものの色によって身分の違いを表しているのであろう。もちろん、鮮やかな色を着ている方が身分が上だ。

 次に、地味な色の労働者が、鮮やかな色の労働者に時折「オチャ、イレテ」と発声することにも気づいた。すると、鮮やかな色の労働者は小さな入れ物に緑色の液体を入れて、地味な色の労働者に手渡す。これが何を意味するかはわからなかったが、おそらく何か儀式のようなものだろうと青年は思った。A星でも身分の低い者が、高い者に対して祈りを唱えることがある。すると、身分の高い者から恵みの品が授けられる。おそらく似たような習慣で、「オチャ、イレテ」というのは身分が高いものに敬意を表す言葉なのだろう。

 青年は、使節団の他のメンバーが気づいていない点に気づけたことに大満足であった。企業訪問の最後として、『シャチョウ』という身分の高い人物に挨拶することとなった。青年は、見学中に学んだ、身分の高い者への敬意を表す方法を早速実践しようと思い、『シャチョウ』に向かって微笑みながら言った。

「オチャ、イレテ」

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