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さくっと読みショートショート

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1分くらいで読める、1000文字以内のショートショートをまとめています。気分転換のお供にどうぞ!
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#短編小説

働き方【ショートショート857字】

 リモートワークは僕にとって今や夢の働き方である。リモートワークが始まってすぐの頃は、朝7時に起き、朝食を食べて身支度をして、8時50分にはパソコンの前に座っていたものだ。しかし、日を追うごとにだんだんとルーズになっていき、起きる時間も7時から8時、さらにギリギリを攻めて8時55分とどんどん遅くなった。  服装も全身スーツに着替えていたのが、まずは上半身だけスーツで下はジャージになり、上半身もYシャツにジャージになり、最近ではパジャマのまま仕事をしている。  働く場所も変

マウンティング【ショートショート880文字】

「あれー、先輩、その星型のネックレスかわいいですね!」 「えー、これ?彼氏が誕生日に買ってくれてー」  最近、職場の戦いが激化を極めている。女同士の戦い、そう、その名はマウンティングである。 「えー、羨ましいですー!私の彼氏は、私には星みたいな派手なのは似合わないとか言って、こんなシンプルなダイヤのネックレスしか買ってくれなくてぇー」  彼女の胸に光るのは大粒ダイヤモンドのティファニーのネックレス。先輩社員の方は「へぇ、ティファニー…」と顔を引きつらせている。  私

路【ショートショート366字】

 「私はどこから来てどこへ行くのか」と、私は立ちつくし、秋晴れの空を見上げながら呟く。空気が澄んだ秋空は驚くほど高く見える。上空をとんびが舞っているのをしみじみと眺める。こんな季節は、最初の質問を自分に問うのには最適だ。  もともと自分に自信はないほうだ。自分で決断するのも苦手。いつも他人が進む方向に進んできた。言うなれば親ガモの後をついていくヒナのように。  でもいつまでもそんなことを言っているわけにはいかない。人には自分で決めなければいけない時がある。もちろん自信はな

タクシーにて【ショートショート828字】

「あれっ、お客さん、ドラマに出ている俳優さんじゃない?」  タクシーに乗り込み、しばらく走ったところで、僕は運転手から声を掛けられた。やっぱりきたかと思い、僕は返事をする。 「あ、わかりますか?」 「わかるよぉ。マスクしててもさ、そのくっきりした目元で一発だね。それにしても男前だなぁ。」  運転手はバックミラーで僕の顔を眺めながら続ける。僕の目元はかなり特徴的らしい。こんな風に言われるのは毎度のことである。「そんなことないですよ。」といつもの台詞を返す。 「なに、ド

謙遜【ショートショート503字】

 ある日本人博士がノーベル化学賞を受賞した。その博士はいつも謙遜した話し方をすることで周りに知られていた。博士は受賞式でインタビューを受けた。 ー受賞おめでとうございます。博士は天才と呼び声が高いですが、その声に対してはどうお思いですか。 「いえいえ、私なぞただの凡人ですから、一生懸命やったまでです。」 ―大学生になる息子さんも優秀で、同じ分野の研究者を目指されているということですが。 「いやあ、うちの愚息は頑張ってはいますがね、どうなるかわからないですな。」 ー博

もったいない【ショートショート927字】

 その男の口癖は「もったいない」、好きな言葉は「一石二鳥」である。食事しながらビジネス本を読み、風呂場にスマホを持ち込んで映画を観、仕事中のデスクの下で足上げ腹筋をすることを習慣にしていた。とにかく一度にやれることはできるだけ多くやりたい。時間がもったいない。  ある日、YouTubeを見ていると、食事しているところを動画にしている配信者を見つけた。男はこれだと思った。自分の生活の様子を動画で配信すれば、一石二鳥どころか一石三鳥が実現できるじゃないか!  それから男は生活

バンジージャンプ【ショートショート600字】

「おお、高いなぁ!」  彼氏のタクミは私の横で声を上げた。吊橋の上に設置された足場。高さは100mでビル30階分に相当するらしい。タクミはギリギリの場所で足元を覗き込み、はるか下にある川面をこわごわ見ている。高所恐怖症の私には、ちょっとぞっとしない風景だ。  私はタクミを横目に見る。目元はゴーグルでよく見えないが、口元を見るとこの体験に興奮していることが見て取れる。  私はタクミの背後に近づく。彼は紐をつけていない状態だ。私がしようとしていることなど思いもよらないだろう

窓辺にて【ショートショート374字】

 柔らかな光の差し込む精神病棟の窓辺。 ―ここにいらっしゃるのは初めてですか? ―そうですか。勇気を出して来院してくれて良かったですよ。ここ一ヶ月ほど、食欲がなく、夜も寝つけない、と。お仕事は何を? ―ほう、IT企業に転職したばかり。かなり忙しいんですね。残業はどれくらい? ―なるほど、それは良くないですね。それだけ働いていればかなりストレスが溜まっているはずです。完全に参ってしまう前に、ここは一度仕事から離れて―  その様子を遠巻きに見ていた看護師達は小声で話す。

フタの暗号【ショートショート997字】

 押ボタン式の信号機を見ると思い出すことがある。それは私がまだ高校生の頃の話だ。  高校に入学して少しした、新緑のきれいな季節だった。私は電車通学をしていて、家から駅に向かう途中に押ボタン式の小さな横断歩道があった。私の地元は田舎だから、その横断歩道を利用するのは日に20人もいないくらいだろう。私はテニス部に所属していて、その日も朝練のために眠い目をこすりながら信号が変わるのを待っていた。  すると、小学校高学年くらいの女の子が私の横の黄色い押ボタンに駆け寄ってきた。私が

ネットショッピング【ショートショート417字】

 私は届いたダンボールを片っ端から開けていく。中にはネットショッピングで注文した洋服が詰まっている。大抵は布がペラペラ、縫製がガタガタでサイトの写真とはまるで違う服ばかりである。私はそれを見て心の中で喜びの声を上げる。  最近、ネットショッピングにハマっている。SNSを見ていると、魅力的な洋服の広告がたくさん出てくるので、次から次と購入してしまう。  私の狙う服は、まず第一に安いこと。普通の服屋で買うと5000円はしそうなニットも、ネットだと490円。ユニクロもびっくり価

擬態【ショートショート999字】

「伊藤先生もお饅頭食べる〜?」 「あ、ありがとうございます!美味しそう!」  田中先生から差し出された、誰かのお土産の饅頭を受け取り、私は笑顔で返答する。実は甘いものは得意ではないのだが、ここは穏便に喜んでおこう。和を乱さないのが最も重要である。  昼休みの小学校の職員室。帰りまでに、私が担任のクラスの理科の宿題プリントに丸付けをしなければならない。忙しい小学校教員にとって、昼休みは貴重な作業時間である。  昨日は理科で『擬態』について教えたところだ。「周りに似せて溶

親友【ショートショート455字】

「今付き合っている人がいるんだ。」 と親友のアキは言う。 「え、そうなの?!どんな人?」 と興味津々の私はすかさず聞き返す。 「えーっと、優しい人かな。」 「どこで知り合ったの?」 「マッチングアプリ。」 「そうなんだ!最近みんなそうだもんね。え、顔はどんな感じ?」 「アイコンを見ると、何ていうか、子犬っぽい感じかな。」 「アイコンって…、もしかしてまだ会ったことない?」 「うん、そうなんだよね。」  まさか会ったことがないとは思っていなかったが、そこは穏便

エンドロール【ショートショート982字】

「佐藤愛さん、映画のエンドロールに名前を載せてみたいと思いませんか?」  そんなメッセージがいきなりFacebookに届いた。  いかにもあやしいメッセージだ。大方詐欺だろうと思ったのに、返信ボタンを押したのは、私が昔から映画製作に憧れていたからだろう。子供の頃、映画館で観せてもらったハリウッドのアニメーション映画に私は夢中になった。本編が終わって魂を抜かれたようになり、席でエンドロールを見つめ続けた。  相手はハリウッド映画の製作エージェントを名乗った。その説明による

オチャ、イレテ【ショートショート827字】

 近年、惑星間交流が盛んである。A星の使節団も、文化視察のために地球を訪れた。まず最初は、小さな島国、日本を訪ねることとなった。  青年は張り切っていた。使節団の一員として派遣された以上、しっかり見て、学び、吸収して帰らなければいけない。青年は特にビジネス文化に興味があったので、今日の日本の大企業訪問は以前から楽しみにしていた。  一団はオフィスの中を周りながら、通訳を通して語られる説明を聞く。地球では労働者は『ツクエ』というものに向かって座り、『パソコン』というものを操