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ぜひ食べてみたいアメリカのスーパーフード① ~ファッロ(Farro)~

ファッロ(Farro)

南米では、数千年前からキヌア、アマランサスやファッロなどの穀物が食されています。実に7千年もの歴史を持つこれらの穀物は「古代穀物」と呼ばれ、美と健康に敏感なアメリカで大ブームを巻き起こしました。Whole Foodsなどのスーパーマーケットには、現実に何種類もの「古代穀物」が販売されており、気軽に手に入れることができます。

今回はその中でも『ファッロ』という穀物に注目していきたいと思います。

ファッロは7千年もの歴史を持つ、古代小麦の一種です。
古代穀物は精白されていないため、他の全粒穀物と同様に栄養価が高いと言われています。
(研究によれば、穀物に含まれている鉄・マグネシウム・亜鉛などは、過去約100年間で19-28%も低下していることがわかっています1。)

特に注目すべきは食物繊維の多さです。米100gの中に含まれる食物繊維は0.5g程度、小麦粉100gには約2.5gしか含まれていません。しかしファッロの場合、食物繊維は1カップ(47g)あたり34gも含まれています。他にも良質なタンパク質、豊富な鉄分、カルシウムやマグネシウムなどが含まれている上、糖質が少なく、質も良いという優秀さを併せ持っているのです。

1カップ(47g)のファッロに多く含まれる栄養素は下記のようになっています。
● Calories: 170
● Carbs: 34 grams
● Fat: 1 gram
● Fiber: 5 grams
● Protein: 6 grams
● Vitamin B3 (niacin): 20% of the RDI
● Magnesium: 15% of the RDI
● Zinc: 15% of the RDI
● Iron: 4% of the RDI


①  豊富な食物繊維

日本人やアメリカ人の多くは、食物繊維の摂取が足りていないと言われています。実際にアメリカの場合、1日に20-30gの食物繊維の摂取が推奨されていますが、実際に摂取できている量は15gにも達していません。

食物繊維と健康の関係について
食物繊維の摂取は下記のような疾患の予防につながることが期待されています。

心疾患
Harvard大学の約40000人を対象とした研究では、食物繊維を多く摂取した人の冠動脈疾患のリスクは、そうではない人と比較して約40%減ったことがわかっています2,3,4。

2型糖尿病
食物繊維の多い食事を摂取することにより、血中の血糖上昇を予防することができますが、その結果、糖尿病発症の予防につながる可能性があるとされています。
約90000人を対処とした研究では、食物繊維を多く摂取した人の糖尿病発症のリスクは、そうでない人に比べ、約40%も下がったことがわかっています5, 6。


腸内環境の改善
食物繊維の摂取は腸内環境を改善し、便秘の解消につながります。
また一部の研究では、食物繊維の摂取は大腸癌に対して予防的効果を持つ、ともいわれています。更に腸内環境を良くすることにより、自己免疫性疾患やメンタル疾患に対しても良い影響を与える、とされています。
更には様々な疾患のリスクとなるLDLコレステロール値の低下や、慢性炎症の改善についても、食物繊維の摂取による良い影響が期待されています。


②  低グリセミック値7,8,9,10,11
GI値(グリセミック指数:Glycemic Index)について紹介します。GI値とは、食品ごとの血糖値の上昇しやすさの指標です。糖質50gを含有する食品を摂取した際の血糖値の上昇度合いを、ブドウ糖(グルコース)を100とした場合の相対値で表したものです。

GI値の高い食物を多く食べると、血中の急激な血糖上昇につながり、①2型糖尿病、②心疾患、③肥満、④大腸癌の発症のリスクになる、と考えられています。反対に、GI値の低い食物を多く摂取することにより、様々な疾患のリスクとなる慢性炎症を抑制できることが分かっています
GI値55-60より高い食物は高GI食品と考えられており、なるべく摂取しないように推奨されています。
ファッロのGI値は40-45程度と低く、ファッロの摂取(並びに、高GI食品の摂取を控えること)は血糖の上昇を防ぎ、様々な疾患を予防できるのではないかと期待されています。

参考
【食品のGI値】
低~中GI食品
果物・野菜
豆類(インゲン豆、黒豆、レンズ豆など)
ナッツ類(カシューナッツ、ピーナッツなど)
精白されていない穀物製品(玄米、全粒紛パン、全粒粉パスタなど)

高GIの食品
調理されたジャガイモ(フライドポテトなど)
清涼飲料水(缶ジュースやペットボトルのジュースなど)
栄養補助食品(栄養バーなど)
精白された穀物製品(白米、白いパンやパスタなど)


③  抗酸化効果
体内にはフリーラジカルという分子が存在しています。これは運動したり、食べた物をエネルギーに変えたりする時に、自然に体内に作られる、非常に不安定な分子です。たばこの煙や大気汚染、日光などの様々な環境要因から体内にフリーラジカルが生じる場合もあります。フリーラジカルは、細胞の損傷を引き起こす「酸化ストレス」の原因となります。酸化ストレスは、がん、心血管系疾患、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、および白内障や加齢黄斑変性症といった眼の病気など、様々な病気の一因であると考えられています。
ファッロにはこの酸化ストレスと戦う様々な抗酸化物質が多く含まれています。
ファッロの研究ではありませんが抗酸化物質の作用に関するもので、604223人(平均観察期間15年、平均年齢52歳)を対象とした以下のような研究があります。200種類の食品の摂取を調べ、それらに含まれている抗酸化物質の量をスコア化して抗酸化物質インデックスを作成し、そのインデックスと糖尿病の発症リスクを調べたものです。
抗酸化物質を多く摂取している人の糖尿病リスクは、少なく摂取している人と比較して、約30%低かったことがわかっています12。


④  豊富なマグネシウム
1日のマグネシウムの推奨量について、日本人の食事摂取基準では、男性の場合、18~29歳では340mg、30~49歳では370mg、50~69歳では350mg、70歳以上では320mg。また女性の場合、18~29歳では270mg、30~69歳では290mg、70歳以上では270mg、と設定しています。しかし、平成27年国民健康・栄養調査におけるマグネシウムの1日の摂取量の平均は243.9mgで、推奨量と比較すると、不足していることがわかります。
過去の研究の報告によると、マグネシウムの摂取には冠動脈の石灰化、虚血性心疾患や、糖尿病発症予防などの効果が期待されています。

具体的には
心血管疾患やがんの既往がない45~74歳の一般住民85,293人を対象とした研究では、男女ともにマグネシウムの摂取量が多いほど虚血性心疾患の発症リスクが低く、摂取量が最も低い群と比べたリスクは、男性では2番目に多い群で24%、最も多い群で23%低かったことがわかりました。また、女性では3番目に多い群で39%、2番目に多い群で34%、最も多い群で36%低下していたことがわかりました13。


ファッロの食べ方

ファッロにはいくつかの食べ方がありますが、おすすめは「ファッロの野菜サラダ」です。
茹でたファッロに、グリルしたパプリカ、ズッキーニ、ナスとツナを混ぜ、ビネガー、オリーブオイル、塩コショウで作ったドレッシングと混ぜるだけ。
モチモチとした食感のファッロは腹持ちが良く、これをボウル1杯食べるだけでお腹いっぱいになります。

参考文献
1. Evidence of decreasing mineral density in wheat grain over the last 160 years.Journal of Trace Elements in Medicine and Biology, 2008;22(4):315-24
2. Dietary fiber and risk of coronary heart disease: a pooled analysis of cohort studies. Arch Intern Med. 2004;164:370-6.
3. Vegetable, fruit, and cereal fiber intake and risk of coronary heart disease among men. JAMA. 1996;275:447-51.
4. Cholesterol-lowering effects of dietary fiber: a meta-analysis. Am J Clin Nutr. 1999;69:30-42.
5. Whole-grain intake and the risk of type 2 diabetes: a prospective study in men. Am J Clin Nutr. 2002;76:535-40.
6. Glycemic index, glycemic load, and dietary fiber intake and incidence of type 2 diabetes in younger and middle-aged women. Am J Clin Nutr. 2004;80:348-56.
7. Whole grain, bran, and germ intake and risk of type 2 diabetes: a prospective cohort study and systematic review. PLoS Med. 2007;4:e261.
8. High dietary glycemic load and glycemic index increase risk of cardiovascular disease among middle-aged women: a population-based follow-up study. J Am Coll Cardiol. 2007;50:14-21.
9. Carbohydrate and fiber recommendations for individuals with diabetes: a quantitative assessment and meta-analysis of the evidence. J Am Coll Nutr. 2004;23:5-17.
10. Higginbotham S, Zhang ZF, Lee IM, et al. Dietary glycemic load and risk of colorectal cancer in the Women’s Health Study. J Natl Cancer Inst. 2004;96:229-33.
11. Buyken, AE, Goletzke, J, Joslowski, G, Felbick, A, Cheng, G, Herder, C, Brand-Miller, JC. Association between carbohydrate quality and inflammatory markers: systematic review of observational and interventional studies. The American Journal of Clinical Nutrition Am J Clin Nutr. 99(4): 2014;813-33.
12. Dietary antioxidant capacity and risk of type 2 diabetes in the large prospective E3N-EPIC cohort. Diabetologia. 2018 Feb;61(2):308-316.
13. Dietary magnesium intake and risk of incident coronary heart disease in men: A prospective cohort study.Clinical nutrition (Edinburgh, Scotland). 2018 Oct;37(5);1602-1608


◆プロフィール情報
埼玉医科大学卒業後、都内の大学付属病院で初期研修を終了。腎臓病学や高血圧学の臨床や研究に従事し、腎臓内科専門医や抗加齢医学専門医等の資格を取得。関東圏で医師として6年間の実務を行い、この間に予防医学やアンチエイジングの重要性を実感。2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、2018年9月よりハーバード大学公衆衛生大学院 (Harvard T.H. Chan School of Public Health)に留学。
IT系ベンチャー企業の嘱託産業医としても勤務中。
理念は「日常生活を改善することで、身体だけでなく心も健康に」。
◆資格
腎臓内科専門医、抗加齢医学専門医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医、
公衆衛生学修士(Master of Public Health: MPH)
◆HP
https://activehealthlab.tokyo/

*本ブログにおける発言は個人的なものであり、所属組織を代表するものではありません。


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