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セナのCA見聞録 Vol.19 一人旅の少年クリス君

ニューヨーク―成田便 ✈️

このフライトで、私は二階席のビジネスクラスで働いていました。そして保護者の同伴なしで一人旅をしている子供、クリス君のお世話役でした。

まだ9歳だというアメリカ人のクリス君は現在お父様の仕事の関係で東京に住んでいるのだが、お母様が病気になられてアメリカのボストン近郊に戻られ、治療中のところ病状がおもわしくないのでお父様が子供を母親に会わせに一人で送ったようだと、地上職員から事前に情報を聞いていました。

この便には病気の母親を見舞った後、再び父親のいる東京へ戻るために乗っているわけです。

クリス君が地上係員に連れられて他の乗客より一足先に飛行機に搭乗してくると、私は座席までいって彼に自己紹介をしました。「はじめまして。私の名前はセナ。今日はフライト中何かあったらいつでも呼んでちょうだいね。他のCAたちもきっと助けてくれると思うけど、私はあなたを一番お世話する人だから遠慮なくなんでも聞いてね。何か用があるときはこのコールボタンを押してちょうだい。試しに一回押してみてごらん。ほら、あそこが明るく点灯したでしょう。」とコールボタンの使い方を教えました。

金髪でハンサムなクリス君は、動きたくて仕方がないのか座席に座るように言ってもそわそわしていて落ち着きがありませんでした。食事のサービス中も半ばふざけながら私達の注意をひいてケラケラと笑っては、なんとなくふっとさみしそうな顔をするのがとても気にかかりました。

私はメインの食事のサービスが終わりひと段落すると、「クリス君、ちょっとこっちに来る?」とギャレーに呼んで、カートの上に準備した一時間後のドリンクサービス用のグラスにお水やオレンジジュースをつぐお手伝いをしたいかどうか聞いてみました。彼は「もちろん」と喜んで引き受け、ウォーターボトルからグラスへ水をつぎはじめました。それが終わると、「オレンジジュースもしようか。」と自らかってでて、嬉しそうに手伝ってくれました。「ありがとう。とっても助かったわ。じゃあ、お席に戻ろうか。」と準備が終わると、お礼を言ってクリス君を席まで連れて行き、座席に座らせたものの、「他には? 何かできるある?」と頼むように聞いてきました。

まだ8時間以上もあるフライトを、どうやってこの子を退屈させずに過ごさせてあげられるものだろうかと、私はいろいろ思案しました。

ほとんどのお客様は静かに休まれているし、機内も照明が暗く落とされています。私は彼の席の脇にひざまずき、制服からペンと紙を取り出して、「日本語でクリスってどう書くか知ってる?」と聞いてみました。答えがNoだったので、彼の名前をカタカナで書いて、日本語ではこう書くんだよと教えました。すると、彼は「じゃあ、アンドリューは?」と聞いてきました。「アンドリューって誰?」と聞くと、学校の友達だと言いました。

彼の友達2、3人の子の名前を書いた後、私は「今度は私の名前、瀬捺っていうのはどう書くか見せてあげるね。」と自分の名前を漢字で書いてみせました。

そして日本語では名前は漢字、ひらがな、カタカナの三通りで書けることを教えました。そして日本人でない人の、クリス君のように英語を使う人の名前はカタカナで書くのだという話をしました。

次に私はメモ帳に升目をかいて、○Xを縦横ななめに先に三つ並べたら勝ち、というTicTacゲームをしてみようと思いつき、提案してみました。彼は気に入ってくれて夢中になって私たちは何度も繰り返し遊びました。

学校で好きな科目は何かと聞くと、コンピューターと体育だと言いました。もう既に自分のメルアドを持っていて、これが僕のメールアドレスだと書いて教えてくれたりもしました。

この日私はパイロットに食事を運ぶ役目だったので、時間になるとコックピットへ食事を運びました。

すると、コックピットの右側の窓から後方に飛行機が同じ方向に向かって飛んでいるのが見えました。「あれ、あの飛行機。私達の便についてきているみたい。どこに向かっている飛行機かお分かりですか?」と聞くと、私達のすぐ後に出発したA航空で、同じく成田行きだということでした。

「ラッキー😃」

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