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返還から25年目を迎えた香港 -1国2制度に対する見方の違い-

はじめに

 2022/7/1、テレビや新聞で久しぶりに「香港」という文字が頻繁に目に入りました。その理由は香港、中国返還の25周年式典が開催され、且つ、中国の国家主席である習近平氏が参加していたことが挙げられます。習氏の香港への訪問は2019年の大規模な抗議活動以降初めてであり、また、世界的な新型コロナウイル感染拡大後の初めての中国以外の国・地域の訪問ともなりました。

 (↑香港行政政府の25周年記念式典用のHP)

 習氏の訪問の際には、あえて飛行機を使用せず、高速鉄道といった陸路を利用することで、「香港は中国の一部である」というメッセージを発信していたと指摘されています。

 そんな習氏の香港への訪問ですが、習氏の式典での演説が話題となっています。32分にわたる、長い長い演説でしたが(式典中に寝てしまう参加者もいて、現地ではちょっとしたニュースになっていました)、あるキーワードが非常に目立ちました。1回の演説で20数回も出てきたキーワードとは、一国二制度(one country、two systems)です。
 
 今回はこの一国二制度を解説する記事となります。

一国二制度とは?

 一国二制度を理解するためには、香港の歴史に触れる必要があります。

 香港はかつてイギリスの植民地であり、英中共同声明を通じて、中国へと返還されました。しかし、長年、イギリスでの統治下であり、且つ自由(放任)主義や資本主義、中国とは異なる生活様式を有していた香港が権威主義体制をとる中国に返還されることに多くの懸念が生じていました。

 このような懸念を受け、採用されたのが一国二制度です。簡潔にまとめると、「中国には返還されるけど、2047年までは現状を維持して良い」という内容です。具体的には、外交と軍事を除いた、立法行政独立した司法に関しては、北京政府からの介入を受けない、高度な自治が保障されるとしていました。また、香港版ミニ憲法と呼ばれる「香港基本法」では言論の自由や報道の自由、集会の自由といった中国大陸には存在しない自由が保障されていました。

 実際に、香港では中国大陸では激しく弾圧される「天安門事件」の追悼集会を開催することができ(できていた)、そのような状況がある意味、一国二制度が機能していることの象徴となっていました。

一国二制度の形骸化 

 しかし、一国二制度に基づく高度な自治は近年、大きく形骸化してしまっています。詳細を書くとあまりにも長くなってしまいますので、一旦、省きますが、上記で説明した「香港基本法」をないがしろにする「国家安全維持法」の北京政府による一方的な施行。そして、同法の施行により、政府に批判的であった「りんご日報」や「立場新聞」といったメディアが廃刊へと追い込まれていきました。また、一国二制度のもと、開催が保障されてきた「天安門事件追悼集会」に関しても、2022年に同法に違反するとして開催が禁止されました。

 実際、香港民意研究所が報告している統計においても、国家安全維持法施行後、多くの自由というものが低下しています。

 つまり、これまで香港に存在していた「自由」が北京政府の介入により、失われてしまったという現状があります。このような背景を踏まえて、「一国二制度は形骸化した」と指摘されています。

一国二制度、中国側と西欧側の見方の違い

 上記で示したように、一国二制度は形骸化し、日本を含めた西欧諸国は批判を強めています。しかし、今回の式典での習氏の演説には「一国二制度」というキーワードが20数回も登場しており、そして、ほとんどが「一国二制度は正常に機能している」という内容でした。

 なぜ、ここまでの乖離が発生するのでしょうか?理由の一つとして、一国二制度の見方の違いというものが挙げられます。

 私たち、西欧諸国の人間が一国二制度を語る時、中国とは異なることを強調する「二制度」に重きを置いています。故に、言論の自由などが弾圧された際には、二制度が崩壊し、中国と同じ「一制度」になったと捉え、批判を強めます。

 他方、中国側からすると、まず「一国」であることを重視しています。つまり、高度な自治や保障された自由といった二制度よりも、「中国という国の一つの地域に過ぎない(一国)」という考え方が先行しています。ですので、2019年の大規模な抗議運動が発生し、北京政府にとって大きなリスクになった場合は、一国を守るために、国家安全維持法などを施行することでに制度を制限するのです。

 また、話は脱線しますが、今の香港は「金の卵」と呼ばれたような時代と比較して、中国内での経済的プレゼンスは強くなく、国内GDPの2%台まで落ち込んでいます。それども、香港は米国とのドル固定相場制をとっており、中国が外貨を入手できるという点で、利用価値が存在していますが、言論や報道といった自由を保障せずとも、経済の自由のみを保障すれば良い、という考え方が北京政府内に存在していることが指摘されています。

おわりに

 このように、習氏が演説で一国二制度というキーワードを頻繁に使用した背景としては、西欧諸国側とは異なる、一国二制度の見方が存在していることが挙げられます。ただ、見方が違うから香港の一国二制度の二制度の形骸化は仕方ないよね、という訳ではありません。北京政府および香港行政政府、新行政長官に就任したJohn Leeは一国二制度の正常な運用、そして、市民の声を弾圧するのではなく、向かい合う姿勢が強く求められています。

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