あと一回きりの夏
気がかりなことはひとつもない、引っかかってるものがあったとして、引っかかってるヒマなんてない、世界が終わってしまうのだ、引っかかってるより、いまを楽しんだ方がいい
けど……
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地球最後の夏、ライカとイチゴマイマイマイは、一度も海に行かなかった、いろいろ理由はあった、ライカも、イチゴマイマイマイも、人が多いところがイヤなのだ、そういった理由からであって、けっして、泳げないからではない、ライカも、イチゴマイマイマイも、身体が貧相で自信がない、そういった理由もあるにはある、けれど、重ねて言う、けっして、泳げないからではない
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「明日どうしよっか?」
無邪気にイチゴマイマイマイが言う
「それを聞いてどうしようっていうの?」
ライカがそれに答える、怪訝そうな、けれど、やはり、聞いてどうしようっていうの? といった表情で
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地球最後の夏、ライカとイチゴマイマイマイは、一度もエアコンをつけなかった、エアコンのリモコンが見当たらなくなってしまったからで、リモコンがあれば当たり前のようにつけていた、だから、つけなかった、というより、つけることができなかった、という方が正しい
先日、二人で、部屋の掃除を敢行したとき、あわれ、ベッドの影からリモコンが出てきた、もうあと少しで地球最後の夏も終わろうかとしている、ここまできた、あとしばらくを我慢して、エアコンをつけないですごしてみるか、二人で短い話し合いをし、そうすることにしたようだ
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「どうもしないよ、もうすぐ地球が終わっちゃうんだからさー」
「信じてるの?」
「信じてないの?」
「怖くないの?」
「怖いの?」
ライカは、答えるかわりに顔をそむけた
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地球最後の夏、ライカとイチゴマイマイマイは、一度も恋をしなかった、恋については、どうなのだろう、出会いがない、いい人がいない、しかたがない
強がりだ、あまりにもそれは、二人の強がりだ、けれど、それを承知している上で、ライカも、イチゴマイマイマイも、いつだって強がってみせる
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「ホントなのかな?」
「それは、そのときにならないと分からないよねー」
「それはそうだけど……」
「地球の最後なんてさ、経験したことないから分かんないね、フフッ」
「マイマイ、楽しそうだね」
「ライカがいてくれるからじゃない」
ライカに、薄っすら笑みが見られた
ライカも、イチゴマイマイマイも、一緒に生きていくことにした、だから、一度も恋をしなかった、というのは、違うのかもしれない
けれど、二人は思う、最後の夏、一度も恋をしなかったなあ、と
ライカとイチゴマイマイマイの、そんな、残りあと一回きりの夏だった
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