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超短編小説|プレゼント

[ミニ小説]をお届けします。
2、3分で読める物語です。

 プレゼントは、決して贅沢とは言えなかった。
とても大きな箱に入っていたから、中身を見るまでは、期待に胸を膨らませていた。僕は「勝った!」と心の中でガッツポーズをした。けれど、包み紙を剥がし箱を開けたとき、僕の期待は紙飛行機のごとく急降下した。

 箱の中身は、本だった。
大きな段ボールには、ぎっしりと詰め込まれた何十冊もの本が息を潜めていた。ふだん本なんてほとんど読まない僕にとって、そのプレゼントは苦痛だった。

 試しに一冊手にとって、パラパラとめくってみても、難しい漢字がたくさん並んでいるだけで、何かが始まる気配はなかった。なにしろ、それは僕の欲しかった物ではなかった。

 学校の友達は、新作のゲームソフトを持っていた。誕生日に買ってもらったらしい。それにくらべて、僕のプレゼントは…。けれど、そんな文句を母に言うこともできなかった。

 健くんの家に遊びに行ったときも、元太くんの家に遊びに行ったときも、僕は友達がゲームをしているのを見守っていた。それは、受動的なゲームだった。友達の家で出てくるスナック菓子をのぞけば、とても退屈な時間だった。


 3週間が経ったある日。
部屋の掃除をしていた母がとつぜん、段ボールの箱を片付けなさいと僕に言った。僕は言われた通り、中身を取り出して机の上に並べた。おそらく、4、50冊はあったと思う。

 観察してみると、新鮮な驚きがあった。
それは、作者がみんな同じ人だったこと。おまけに、本の大きさも同じで、表紙の絵柄がとても独創的だった。

 僕は宇宙のイラストが描かれた本を手に取って、ページをめくった。

「博士、見つけました」
「そうか? 住めそうか?」
「はい。ここなら、空気も水もあります」
「よくやった」

 宇宙船に乗っている人たちは、突然の朗報に歓喜した。なかには歓声を上げる者もいた。それも無理はない。ずっとこの日を待ち望んでいたのだ。

 読めば読むほど、つづきが気になった。
宇宙の話を読むのは、とても気分が良かった。僕は作者の描いた不思議なストーリーをひたすら追っていった。それは受動的な行為のはずなのに、友達のゲームを見るのとはまるで違った。

  「博士、ひとつだけ問題があります」
 研究者のひとりが切り出した。
  「なんだ?」
  「この国の住人は争いが好きなようです。
    毎日のように戦闘が繰り広げられております」
  「なんだと?」

 博士は望遠鏡を手に取り、その星に焦点を当てた。そこには、人々が激しく火花を散らしている様子が映っていた。

 物語の状況は、しだいに移り変わっていく。
同時に、ページをめくる手が止まらなくなる。物語は、とても奇妙なお話だった。

 ショートショートだったから、分量はそれほど多くはなかった。小説を読み終えたとき、読後感が手のひらにほんのりと残った。

 それから僕は毎日、物語をひとつ読むようになった。

✳︎✳︎✳︎

 あれから10年が経った。
本棚の奥には、あのときもらった本が息を潜めていた。僕は久しぶりに一冊の本を手に取り、物語をひとつ読んだ。

 ページをめくる手は、ふたたび止まらなくなっていた。

<了>

改めまして、雨宮 大和あまみや やまとです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

本日は、いつもよりも少し長めのミニ小説でした。2分くらいで読める文章だったと思います。[ミニ小説]は、1分で読める物語を目指していましたが、たまには2、3分で読める文章にしても良いなぁと思いました。

これからもnoteを読んでくれたら、嬉しいです。
では、今日はこの辺で!!

昨日のnote

最近、noteフェスにて、書評家の三宅香帆さんによる「伝わる文章のコツ」を学ぶ文章講座が開催されました。
さらに、イベントの後半では、僕が以前書いたnote記事『日常に潜む 「現実」と「幻想」』が取り上げられ、三宅さんに講評を頂きました。
イベントでは、「伝わる文章を書くコツ」を学んだので、note記事にまとめています。ふだんnoteに文章を投稿している人は、ぜひご覧あれ!!

おすすめnote

今回の小説のなかに出てきた物語は、僕が以前書いた『移住計画』という作品でした。かなり前に書いたものです。気軽に読めます。

最近、急に寒くなりました。
なので、とても寒い秋の日に読みたいエッセイを紹介します。

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