超短編小説|プレゼント
プレゼントは、決して贅沢とは言えなかった。
とても大きな箱に入っていたから、中身を見るまでは、期待に胸を膨らませていた。僕は「勝った!」と心の中でガッツポーズをした。けれど、包み紙を剥がし箱を開けたとき、僕の期待は紙飛行機のごとく急降下した。
箱の中身は、本だった。
大きな段ボールには、ぎっしりと詰め込まれた何十冊もの本が息を潜めていた。ふだん本なんてほとんど読まない僕にとって、そのプレゼントは苦痛だった。
試しに一冊手にとって、パラパラとめくってみても、難しい漢字がたくさん並んでいるだけで、何かが始まる気配はなかった。なにしろ、それは僕の欲しかった物ではなかった。
学校の友達は、新作のゲームソフトを持っていた。誕生日に買ってもらったらしい。それにくらべて、僕のプレゼントは…。けれど、そんな文句を母に言うこともできなかった。
健くんの家に遊びに行ったときも、元太くんの家に遊びに行ったときも、僕は友達がゲームをしているのを見守っていた。それは、受動的なゲームだった。友達の家で出てくるスナック菓子をのぞけば、とても退屈な時間だった。
3週間が経ったある日。
部屋の掃除をしていた母がとつぜん、段ボールの箱を片付けなさいと僕に言った。僕は言われた通り、中身を取り出して机の上に並べた。おそらく、4、50冊はあったと思う。
観察してみると、新鮮な驚きがあった。
それは、作者がみんな同じ人だったこと。おまけに、本の大きさも同じで、表紙の絵柄がとても独創的だった。
僕は宇宙のイラストが描かれた本を手に取って、ページをめくった。
読めば読むほど、つづきが気になった。
宇宙の話を読むのは、とても気分が良かった。僕は作者の描いた不思議なストーリーをひたすら追っていった。それは受動的な行為のはずなのに、友達のゲームを見るのとはまるで違った。
物語の状況は、しだいに移り変わっていく。
同時に、ページをめくる手が止まらなくなる。物語は、とても奇妙なお話だった。
ショートショートだったから、分量はそれほど多くはなかった。小説を読み終えたとき、読後感が手のひらにほんのりと残った。
それから僕は毎日、物語をひとつ読むようになった。
✳︎✳︎✳︎
あれから10年が経った。
本棚の奥には、あのときもらった本が息を潜めていた。僕は久しぶりに一冊の本を手に取り、物語をひとつ読んだ。
ページをめくる手は、ふたたび止まらなくなっていた。
<了>
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