超短編小説|偉大な魔法使い。
父は、魔法使いだった。
その言葉の通り、父はマントを羽織っていた。いつも僕の寝ている時間に帰ってきた。父が他の人にはできない仕事を任されていることも、魔法の力で多くの人々を救っていることも、僕は密かに知っていた。
けれど、不可思議な点はあった。
それは、父のマントが絵本に出てくる物とは、少し異なる色をしていることだった。絵本に出てくる魔法使いは、黒のマントを羽織っていた。けれど父の場合、それは白のマントだった。
母は毎晩、僕に絵本を読んでくれた。僕が眠りにつくまでの毎晩のお約束のだった。母は一冊の本を読み終えると、いつも父のことを話してくれる。
「お父さんはね、魔法使いなんだよ。いつも帰りが遅くなるのは、たーくさんの人の命を救ってるの」
「ワルモノって、どんなやつ?」
「とっても強くて怖いわ。放っておくと、増殖して、たくさん増えていくのよ」
「ワルモノって、どうやって倒す?」
「“シュジュツ“っていう魔法を使うのよ」
「シュジュチュ……」
僕には、さっぱり分からなかった。
けれど、そんなことはどうでもよかった。大切なのは、父が魔法使いであること、多くの人の命を救っていること、それだけだった。僕は自分にそう言い聞かせて、窓から空を見上げた。
魔法使いは、箒に乗って空を飛ぶらしい。
絵本には、たしかそう書いてあった。僕は空を隈なく探す。けれど空に浮かぶ箒や父の姿は、どこにもなかった。
〈了〉
前回のnote
おすすめnote
サポートして頂いたお金で、好きなコーヒー豆を買います。応援があれば、日々の創作のやる気が出ます。