天水二葉桃

銀河通信は谷山浩子さんの歌のタイトルから頂きました☆

天水二葉桃

銀河通信は谷山浩子さんの歌のタイトルから頂きました☆

最近の記事

銀河通信 その13 Always Coming Home8

 私たち家族の部屋でおとなたちが宴会を始めたので、私と遠山君はジュナさんの部屋の奥の大きな窓のそばでチャイムと一緒にお月見しながらお風呂上がりのジュースを飲んでいた。  夜空に明るく満月が浮かび、旅館の庭から虫の声が響いていた。大きく開いた窓からは涼しい風が入って来るので気持ちが良い。旅館で借りたおそろいの子供用の浴衣を着て、お風呂上がりのさっぱりつるつるしたかおでチャイムと仲良く遊んでいる彼を私は不思議な気持ちで眺(なが)めていた。  そこへジュナさんが入ってきた。 「もう

    • 銀河通信 その12 Always Coming Home7

      「あ、遠山君」  まさかこんなところでクラスメイトとばったり会うとは思わず、つい声に出して驚いてしまった。 「あれ、えっと……」 「同じクラスの水瀬遥香(みなせはるか)」  自分でそう言いながら、名前すら憶えられていなかったのか、と軽くショックを受けている自分に気づく。 「あ、そうそう、水瀬だ」  同じクラスの遠山護(とおやままもる)は学校にあまり来ないクラスメイトだった。片耳に二連のリングのピアスをしていて不良っぽい見た目の子だ。怖そうな見た目と独立した振る舞いから色々な噂

      • 銀河通信 その11 Always Coming Home6

        「フィン!」  呼ばれて振り向くと、礼拝所で一緒に学んでいたマナだった。 「あれ、マナも来てたんだ?」 「うん。ねぇねぇ、それより、ここにナギ先生もいたのね。知らなかったよ!」  いつになく親し気に話しかけてくる彼女に私は尋ねた。 「マナはナギを知っているの?」 「うん、少しだけナギ先生に教わっていた期間があったから」 「へえ、そうか」  マナは私よりも年上だったので、彼がまだ礼拝所で先生をしていた頃のことを知っているようだった。 「ナギ先生に教わった子たちは、みんなここに来

        • 銀河通信 その10 Always Coming Home5

           ナギは私にとって、よい相談相手で師でもあった。  私が自分の中で整理できずにいたものやなんかを、すっきり整理させてくれるような、打てば響くような絶妙な返しをしてくれる。さすがセイルの師だ。セイルの教え方とよく似ていて(というかセイルが彼に似ているのか?)的を外さず、少ない言葉で端的に表現する。なので私は彼の言葉を呼び水に、また深い水底へと降りて行くことができる。そうして心奥にあったものをとりだしてみることの繰り返しができる。それは《私という現象》の輪郭を浮き彫りにしていくよ

        銀河通信 その13 Always Coming Home8

          銀河通信 その9 Always Coming Home4

           今年の夏は、今までの夏ともう違う。  私はさっきまで聴いていた今年初の一番ぜみ(?)の鳴き声と彼(女?)の飛び去った後ろ姿を想いながら、なんとなくそんなことを思っていた。  ついさっき、アイスをとりに冷凍庫を開けた時のことだ。  じ、じじっ、じじじ……という、蝉の練習鳴きのような声に気づいて、私は台所の窓を開けて外を見てみた。それは何だかすぐ近くで聞えたから近くの木にでも止まっているのかと思ったのだけれど、声自体が止んでしまった。そういえば、蝉の声、しないな。今年の夏はな

          銀河通信 その9 Always Coming Home4

          銀河通信 その8 Always Coming Home3

           なんだかにぎやかだなあ、お祭りでもあるのかな? そう思いながら目を開けると、昨夜身を乗り出して踊っていた窓の外の手すりが、なんだか見慣れない緑色になっている。そこに小鳥たちが沢山遊びに来ているらしく、鳥たちのコーラスがお祭り騒ぎのようだった。それだけではない。何だかほかの色々な生物のにぎやかな声があちこちからたくさん飛び交っているのだ。  んん? 見間違いかな?  目をごしごしこすって窓のほうを見やる。何度も。 「う、わあ……」  私はベッドから起き出してそこに近づき、実際

          銀河通信 その8 Always Coming Home3

          銀河通信 その7 Always Coming Home2

           夏休み中は週2回家庭教師がつくことになったので、今年の夏はどこにも行かないみたいだ。毎年夏と冬の休みには里帰りしていたのに、パパもママもなんだかそれどころではなさそうだ。ここのところ二人とも妙にぴりぴりして忙しそうにしていたから一緒にいても落ち着かず、なんか居心地悪くて食事のとき以外はすぐに勉強を理由に部屋にすぐに引っ込んでいたので、やる気があるとみなされたのかもしれない。あまりうれしくない誤解だった。  勉強はべつにきらいじゃない。  ただ、見張りが付けられるみたいで、な

          銀河通信 その7 Always Coming Home2

          銀河通信 その6 Always Coming Home1

           幼馴染の親友、湊(そう)君が天国へ行ってしまってから、私は毎日、不思議な夢をみるようになった。  いつも同じ夢の続きをみるのだ。  夢と現実が入り混じったように、現実の世界の人が、夢のなかで似たような別人として普通にいたりするし、話したり、一緒に何かをしたりするものだから、目覚めてから、その人と現実では話さえしたことがないのにもかかわらず妙に親しみを感じたり、奇妙な感じのする夢だった。  そしてたいていは前日の目覚める前の夢の続きから、気づいたら夢が始まっている。  夢時間

          銀河通信 その6 Always Coming Home1

          銀河通信 その5 ALIEN DANCE3

          「今日はたまご焼きもあるよ」  芝生の上にまほうびんや、銀紙に包んだおにぎりを出し、小さなお弁当箱を私が開けると、龍樹(たつき)は嬉しそうに「これはおいしそうだなあ」と、にっこりした。  私は簡単なものしか作れなかったけれど、龍樹がどれもよろこんで食べてくれるのでとても嬉しかった。  龍樹は、珍しい輸入物のお菓子やお茶の葉を私に持ってきてくれた。月明かりの下でふたりでピクニックしているみたいだった。それは、まるでこどもどうしみたいに、無邪気でかわいらしいものだった。  私は、

          銀河通信 その5 ALIEN DANCE3

          銀河通信 その4 ALIEN DANCE 2

           私と龍樹(たつき)は、特に待ち合わせをしたわけでもないけれど、ほぼ毎日のように夜の図書館で会った。館内のロビーにある噴水のそばで。ベンチに座って。外庭の芝生の上で。そうしてお互いの好きな本やCDを交換したり、私が作ってきたおにぎりやサンドイッチを、庭の芝生でもぐもぐ食べながらおしゃべりしたり、帰りは家の前まで送ってくれたり、傍からみていればまるきりデートのようだったろう。けれど、二人の間に、そういう色恋沙汰になりそうな気配は何も無かった。なんとなく、小さな動物が身を寄せ合っ

          銀河通信 その4 ALIEN DANCE 2

          銀河通信 その3 ALIEN DANCE 1

           はじめて龍樹(たつき)と会ったのは、夜だった。あれは、春のきもちのよい夜だった。その夜の空気には、これから夏が来るという、わくわくするようなにおいがした。  図書館で借りていた本を返し、暗闇にぽわんと浮かび上がる近代的なその図書館の、整えられた外庭を私は散歩していた。  図書館はガラス張りで、ガラスの上のほうから水が流れていて、その周りをぐるりと水が張られた観賞用の堀が囲み、ライトアップされて水面に揺れる光がガラスから漏れる光と反射しあって、暗闇の中、幻想的に浮かび上がっ

          銀河通信 その3 ALIEN DANCE 1

          銀河通信 その2

           「高橋さんは間違っていると思います!」  入社したての新人のクセに、僕は気づいたら、さっきから延々と説教を続けている目の前の上司に面と向かって、しかも、いやに自信満々に(?)すら見える堂々とした(ふてぶてしいとか、えらそうだとか、くそ生意気ともいえる)態度で言い放っていた。  もちろん、ものすごく怒られた。  目の前で上司はみるみるうちに真っ赤になって噴火山のごとく怒り、当然のごとく僕は、怒涛の溶岩をアメアラレに浴びながら、フロア中のみんなに聞こえる大声で怒鳴られた。  あ

          銀河通信 その2

          銀河通信 その1

           激しい雨音に混じり、小さな赤子が泣いているような、必死に呼んでいるような声が聞こえてた。季節は十月も終わりに近づく頃で、びっくり箱のようにとち狂った残暑が戻って来ることも少なくなり、ようやく秋めいて冬支度への軌道に乗り始めたような日だった。雨や風が屋根や窓やドアなんかを壮大に打ちつける激しい音を夢うつつに聞きながら、台風が来るってそういえば言ってたな、と思った瞬間、僕はがばっと跳ね起きた。  夢ではなく、現実に聞こえているのだ。  激しい雨風の音に混じって助けを必死に求め呼

          銀河通信 その1

          another way  後編

           その日僕は遼子(りょうこ)さんと一緒に、TVで放映されていた海外ドラマを観ていた。柊(しゅう)ちゃんは会社に行っていて、まだ帰っていなかった。テーブルにアイスクリームとスナック菓子と炭酸飲料を並べて、僕はカーペットにクッションを置いて座りながら、ぽりぽりスナック菓子を口に入れていた。遼子さんはソファにひざを抱え座っていた。そのドラマは青春群像劇のようなもので、僕は特に面白いとは思わなかったが、遼子さんは、じっとTVを観ていた。  主人公はメアリー。高校生の女の子。よく一緒

          another way  後編

          another way  前編

           僕の友人はちょっと不思議な副業を持っていた。生業は普通の会社員なのだが、その副業の方は少し特殊だ。しいて言えばちょっと変わった身の上相談兼占いのようなものということになるだろうか。彼は知人を介して時折、その副業の依頼を受けていた。その夏、僕は彼の家に居候していたこともあって、少しだけ、その副業を手伝うことになった。手伝うといっても、始めはやってくる相談者の人にお茶を出すとかその程度だったんだけど、事務的な仕事を手伝うようにもなり、そのうち、口述筆記のための書記としてその場に

          another way  前編