見出し画像

軍手探し 2話【いくら?】

自家用車を走らせながら、いつも通りの帰路に就く…。
いつもの道だが、知らない道を通っているかのような感覚で
周りがぼやけているような感覚。
あれ?今、信号青だったか?
バックミラーを見るとやっぱり、青。
運転していなような、何とも言えない感覚が俺を襲っていた。

「こんな偶然あるんだな…」

助手席に無造作に置かれた千円札を見て言う。
なんだか怖くなって、触らずに放置していた。
なんだか、変なところで運を使ってしまったなと
後から後悔がやってきた。

「ま、日ごろの行いが良いからだろう!」

気を取り直して、アクセル踏んだ。
その1000円札は、少し不気味だと感じたので
帰りのスーパーで半額のお惣菜を買って酒を飲んだ。

次の日。
俺は目を疑った…。
前の二日間とは全く別の場所のはずだ。
いや、だからかもしれないが…。
1件目の物件に到着すると、駐車場の目の前に
また、軍手が落ちていた。
少し寒気を感じた。
これは偶然?いやでも…それ以外になんていう?
恐る恐る近づいてみると、やはり普通の軍手だ。
少し気になるとしたら、前回と前々回に比べて少し汚い。
今度は初めから、軍手の中を覗き込むようにそっと持ち上げた。

「佐藤さーん!!」
「ーッ!?」

心臓が止まるくらいの衝撃で体が飛び跳ねた。
バッと後ろを振り返ると
そこには中年のおばちゃんがニコニコ笑いながらこっちを見ている。
彼女は、101号室の「中倉さん」。
たまに自分が掃除をしていると、ありがとうと挨拶をしてくれる優しい人だ。
数年もこの仕事をやっていると、住人と仲良くなるケースも少なくない。
彼女は仕事先の住人の中で仲の良い、数少ない人物だ。

「ゴミ拾ってくれてるの?いつもありがとうね!」
「あ、え…。いえいえ、し、仕事なんでね」

バクバクと動く心臓に言葉が持ってかれて、うまく話せなかった。

「どうしたの?大丈夫??」

中倉さんが心配して近寄ってくる。

「ああ、ぜ、全然大丈夫ですよ!さて、作業進めないと…。」

心配してくれる中倉さんに精一杯の笑顔で返し
何も見なかったかのように、社有車へ戻り仕事の準備にとりかかった。

「あらそう?なんか困ったことがあったら言ってね!」

そう言って中倉さんは邪魔にならないようになのか
自分の部屋に入っていった。

「ふう……」

俺はいったん落ち着こうと深呼吸をしていた。
そうしないと、そうしないとすこし落ち着かなかったからだ。
それの原因は、まだ右手で握りしめている
5000円札が入った軍手を持っているからだった…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?