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読書感想:読みやすくて心つかまれる純文3選♡

こんにちは。最近読んだ本の中でも特に良かった3つを紹介します。紹介というか感想をお喋りするみたいな感覚なので気軽に読んでいただけたら嬉しいです♡

本日ご紹介するのは、「読みやすく」かつ「心がギュッと掴まれる」純文学です!!リーダビリティの高い純文ってすごく好き。というか単に最近ちょっと疲れ気味なので、活字が開いている感じの文章を読みたいというのもありまして。(伝われ~)

ネタバレ注意です。(わたしごときがネタバレをしたところで面白さが損なわれる作品たちではないですが)

では、どうぞ~

①大前粟生「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

祝文庫化。かわいい!

大前粟生(あお)さんの作品は、以前「きみだからさびしい」を読んだことがあったのですが、今回が2作目。文庫化されていたので手にとりました。

主人公は大学生の七森剛志(つよし)くん。小柄で中性的で高校時代は女子からも可愛がられていた七森は、大学で知り合った気の合う麦戸ちゃんと一緒に「ぬいぐるみサークル」に入ります。BOXと呼ばれる活動拠点(部室のような場所)には350体のぬいぐるみがいて、部員たちはこっそりぬいぐるみとしゃべる。

七森は、「男らしさ」「女らしさ」のノリが苦手で、自分の「男性性」が自体が仲良しの女の子・麦戸ちゃんにとってすら脅威となることを恐れていて、大事な相手を傷つけないように、自分のことを打ち明けることは相手を傷つけることがあると内に内に閉じ込めていきます。
この作品にはこういう「やさしさ」を持つ人が何人も出てきて、みんな人知れず傷ついて、それを抱え込むように内に閉じこもって、ぬいぐるみがそっと聞いてくれる。

同じ部員で白城さんという女性が出てくるのだけど、七森と白城さんの会話が印象的で。
白城さんが「落ち着くところにばっかりいたら打たれ弱くなる」というのに対し七森が「打たれ弱くていいじゃん。打たれ弱いの、悪いことじゃないのに。打たれ弱いひとを打つほうが悪いんじゃん。」というセリフがあって、わたしはめちゃくちゃ胸に刺さりました。たしかにって思った。たしかにって思ったけど、そんな世界で生きていけたらどんなに良いか。とも思った。

やさしいあまりに自分を封じ込めようとする七森の姿は見ていて痛くなるときもあり、「打たれ弱いひとを打つほうが悪い」と堂々と言える世界に生きていたいけど、そのためには自分も人を打つ可能性があると考えると何もできなくなっちゃって、七森は人を傷つけないように縮こまって丸まっているような印象を抱きました。どんどんどんどん丸くなっていく印象でした。

この作品は、全部が優しい言葉で書かれていて、漢字とひらがなのバランスも絶妙で、一文一文を両手ですくいあげるような感覚で読めるのだけど、だからこそじわじわ切なく苦しくなってきて、だから七森や麦戸ちゃんと対照的な白城さんの存在が癒しだったり希望だったりするな、と感じました。

甘くてかわいくて素敵な文章でこんなにギュッてなるの久しぶりで大分良かったです。ここで触れた以外にも、麦戸ちゃんとの関係や、ぬいサー副部長の男性、高校時代の仲間たちとの関係なんかも良いストーリーなのでぜひ読んでみて欲しい~。併録の3つの短編もとてもよかったです。大前粟生さん好きだな。追いかけようと思いました。

②高瀬隼子「うるさいこの音の全部」

お風呂で読んだから少し湿った形跡ある。笑

文學界2月号掲載の、高瀬隼子さんの中篇♡
芥川賞受賞作「おいしいごはんが食べられますように」受賞後初の中篇かな?(短篇はいくつか拝読しました。)

主人公の永井朝陽はショッピングセンター内のゲームセンターで働く女性。そして、ゲームセンターで働きながら、「早見夕日」という小説家としての顔も持つ。(早見夕日は文学賞を受賞して単行本も出している、駆け出しだけど割と軌道に乗っている。)
本作は、朝陽の日常と夕日の小説が交互に書かれていて、劇中劇みたいな形をとっている。だんだん、夕日の書く小説の内容が朝陽の生活とつながっているような濃さを帯びてきて、(フォントの違いはあれど)「あれ今どっちの話?」て一瞬わからなくなることもある。
主語が入り交ざってわからなくなる小説って最近印象的なのだと島口大樹さんの作品たちや、安堂ホセさんの『ジャクソンひとり』なんかが浮かびますが、それとはまた雰囲気が違って、島口さんや安堂さんの作品が川の流れのようにドドドと流れこみ織り交ざるイメージなのに対し、本作は朝陽と夕日が混じってはいるものの静かなもので、というか一人の人間から生まれているのだからかもしれないけれど、どことなく落ち着きと安心感がありました。(めちゃ感覚で書いてしまっている・・伝わりにくいかも。すみません。でもどっちもスキ。)

夕日の小説は割とキャッチーな内容から入って、それが面白くて物語を読み進めていくうちに、だんだん朝陽の「微妙な生きづらさ」に胸が小さく詰まることがありました。かけられる言葉に含まれるちょっとチクッとしたニュアンスひとつ、また、それに反応する小さな所作のひとつが小さなボタンの掛け違いのように生じて、じわりとつらくなっていく。(でもそれが長く続くわけでもなく、小さく繰り返される。) わたしはこの「小さな選択ミス、小さなボタンの掛け違い」はすごく自分ごととして身に覚えがあって、世渡りへたくそだなぁと思うことがあるのだけど、だからこそ共感というかしみるものが多かったなあ。
でもきっとそういう微細な生きづらさを抱えている人は多くて、あぁもう全部うるさい!やめやめ!て言ってしまったら楽なのだけどそんなわけにもいかないから、聞こえてくる音を言葉を受け流していくしかないんだなぁと思った。
高瀬さん、こういう繊細で目に見えづらい部分を拾い上げるのお上手だな…。「おいしいごはん~」も大好きだけど、本作もとてもよかった。
(「おいしいごはん~」ほど読み込めていないので、またゆっくり向き合いたい)

③今村夏子「星の子」

表紙めちゃ綺麗。星空のシーンも、とても綺麗だった。

いわゆる、”宗教2世"小説。中学3年生のちひろは幼いころは病弱で、そんなちひろを救うため、両親はあやしい宗教にのめりこんでいく。はたから見れば狂気を感じるほどの両親と、幼少期からそれを当たり前にみていたちひろ。でもちひろは学生生活などを通じて”外の世界”とかかわっていき、自分と周囲の微妙なズレに違和感や恥ずかしさを感じていく。

宗教2世というテーマもあり前から読んでみたいと思っていた作品でしたが読む勇気がなく遅くなりました。勇気がないというのは、わたしは今村夏子さん作品はこれまで『こちらあみ子』『むらさきのスカートの女』『あひる』と他短篇をいくつか読んできたのですが気軽に読むと割と喰らってしまうことが多くて。とくに「あみ子」は、読んでいるうちにめちゃくちゃにしんどくなってしまい、小説を読んでこんなに苦しくなることある!?てくらいの衝撃を受けた作品でした。だから今村さんの小説ってすごく面白いのだけど劇薬になり得ると思っていたので、気軽に手を出しづらい(覚悟がいる)イメージがあったのです。

結果、本作品はめちゃめちゃよかった。読んで良かった。というか、今村作品は苦しいものもあれど「読まなきゃよかった」と思うものはひとつもない。

本作品の主人公のちひろは宗教はもう家族とともにある存在みたいなもので、当たり前に集会にもいくし合宿も楽しみだしそこにいる人たちも好きという場所で、でも学校の人たちなんかはそれを奇怪な目で見てくる。家族で唯一外の世界とのハザマにいるちひろの、微細な揺れが絶妙でした。(とはいえ、この両親のもと、また「中学生」ということを考えると、「今の」ちひろがどういう選択をするのがちひろにとって幸せかは難しいと思った。)

親戚がちひろを救い出そうと「一緒に住むこと」を提案してくれるも、ちひろは拒否する。ここはわたしは宇佐見りんさんの『くるまの娘』を思い出した。しんどい環境の家庭から「逃げろ」という人はいても、主人公のかん子は逃げたくない。逃げたくないというか、逃げるなら家族一緒に逃げたい。家族ぜんぶ救ってほしい。そのシーンが秀逸すぎてずっとわたしの心に残っているのだけど、本作も想起するものがあった。「家族」って箱の中のつながりは、やっぱり他の人とは違う。生きてきた中でずっとあるつながりはそれはもう「当たり前」の世界なので、そこの価値観から抜け出すというのは、天動説から地動説になるくらいのインパクトがあるものなのではないかと思う。

本作で、宗教の合宿シーンで、会員がみんなの前で「宣誓をする」みたいな場面があるのだけど、そこで「今年はあと〇人の申し込みをさせます」みたいなことを言っている人がいて。それを言わせたのって、わたしは今村さんの優しさだと思った。だって一般的に「勧誘」という言葉のマイナスなイメージを理由に心理的にその宗教を否定することができるから。
本作を読んでいると、「宗教」て何だろうと考えざるを得なかった。ちひろの両親が信仰する宗教は確かにおかしくて、服を着たまま頭の上から水をバシャバシャかけるようなもので、それはおかしいなって思うのだけど、じゃあ例えば、お守りのために腕にミサンガをする人と、何が違うのだろうと。じゃあラッキーカラーと信じて毎日赤い服を着る人は?運がよくなると自分の守護神を入れ墨にする人は?どこからが普通でどこからがおかしいの?そんなことをわたしは明確にできないなって思いました。

近い将来、ちひろがどうなっちゃうかは分からないけれど、ちひろにとって幸せだとよいと思った。そう願うことしかできなかった。
いわゆる純文学で、こんなにページをめくる手が止まらず一気読みしたのは久しぶり。
文庫本収録の小川洋子さんとの対談も素晴らしいので必見でした。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました~
苦しかったりギュッてなる気持ちって、大きな事件がなくても日常にたくさん落ちてるなと。それを拾い上げて丁寧に扱うような小説が大好きです。じわ~っとしみるというか、ビタミンが浸透していくみたい。この3作品は、もちろんほわほわはっぴー☆なだけではないのだけど、心にしみて、読んだあとは思わず「はーっ」となるような良作たちでした。語彙力が貧弱なのですが少しでも魅力が伝わると嬉しい。

忙しい日々ですが、少しずつでも心にビタミンは与えていきたいですね!
ではまた~

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