読書感想:山家望さんを知っていますか
こんばんは。今年はnoteもう少しちゃんと書きたい。わたしは文章を紡ぐのがあまり得意ではないので、気軽に書けるよう話し言葉みたいな感じでゆるく書きます。
『文學界』1月号掲載の山家望(やまいえ・のぞみ)さんの新作『紙の山羊』、読みました!?!?!?!?!?
これ、2022年最後に読んだ(読了した)小説だったのですが、結構自分にぶっ刺さり、めちゃくちゃ良~~!と思ったので感想を書きます。ところで文學界1月号は特集も面白いので買いだと思います。表紙もピンクでかわいい。あと数日で次の号が出るゾ!
『紙の山羊』、文學界のHPに載っているあらすじ(概要)を書きますね。
そう、主人公は行政書士を個人事業でやっている男・相川。彼は人と人とのつながり、みたいなのを大事にしながら、おおざっぱな言い方をすれば「昔ながら」の営業方法で細々と食べているんですね。得意先にちょこちょこ顔を出して、庭の剪定や掃除みたいなことをしたついでに書類のお仕事をもらう、みたいな。
あ、ここからネタバレというか、物語の方向性がわかるようなことを書きます。(ただ、ストーリーが分かっていたとしても十分面白いので機会あったら是非読んで欲しい~)
あらすじに「奇妙な仕事の依頼」「謎の人物に教育をほどこすこと」とあるんですが、それが、主人公の立場を脅かす存在なんですよ。教育をほどこしてしまうと、ゆくゆくは取って食われるのが目に見えている存在なんですよ。完璧な存在で。でも、教育に対する報酬は高くて。相川は依頼を受けてしまうんですよね。(ここの、依頼を受けますと決めるシーン、めちゃめちゃ秀逸!)
相川は人とのつながりを大事にする方法で仕事をしていて、それはとても「人間らしい」仕事のやり方で、でも人間だからこそのミスもしてしまうんです。ミスって怖い。どんなになれた作業でも、気づかないうちにミスをしてしまう。このシーン、わたしも胸に穴が開いたくらいヒュッとした。
取って食われる存在にどうしようもできなくて、そのまま物語は終わるんですよね。で、山家さんの筆致というか、文章力が凄くて、こんな話なのに全然暗くないんですよ。むしろ明るさすらある。
この塩梅がすごくリアルというか、読んでいて文章の「温度」を感じて、わたしはとてもとても好きでした。勿論この主題についても近年話題のことだし、考えることはあるのですが、淡々と日常が流れていく、ゆるやかに変化していく、それは誰にも止められない(自分がやらなくても誰かがやるだけ)、というのが凄くリアリティを感じました。
作品の中のあるシーンで、教育相手が相川に「私は不完全ですから」と言うシーンがあるんですが、それに対して相川が「不完全だと問題ですか」と返すんですけど、ここがすごく痺れました。このセリフが一番、彼の心を表しているように思います。
(仕事の話を中心に書きましたが、相川は「子供ができない」ことが理由で過去に妻と離婚しているんですよね。個人事業主だということもあってか、「仕事」と「生活」の描写も思考もすごく混ざり合っていたように感じます。)
んー。なんかまとまりのない文章で申し訳ないのですが、「不完全だと問題ですか」というセリフ、相川の感情の起伏、どうしようもなさ、人間らしさが詰まっていて、それが割と軽やかに描かれている描写も含め、とても好みの作品でした。
タイトルの『紙の山羊』ってどういう意味かしら。と思ったのですが、山羊って紙を食べる=おなかがすいたら自分で自分を食べちゃう、すぐに腹を満たすためには仕方ないけど、自分で自分を消滅させてしまう、ということなのかしら。とわたしは解釈しました。「消滅」は少し強い言葉かもしれないけども。
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山家望さんの小説は初読みでしたが、めちゃくちゃ好きで、家にあった『群像』のバックナンバーを引っ張り出してきて掲載されいていた『そのあわい』も読みました。
『そのあわい』は家族の話で、主人公の男性「私」は、自分の子供が生まれたことをきっかけに、過去の記憶を思い出していきます。
小金井の家で生まれ育ち、両親が離婚し、兄は父・姉は母に連れていかれ、自分は札幌の祖父母に預けられる。祖父母は親切だったけど、その後さらに中頓別の親戚の家に預けられ、そこでは居場所が持てず辛くて孤独な日々を送る。。。
最初に札幌の家に預けられたとき、父から鍵を渡されるのですが、それがかつて住んでいた小金井の家の鍵で。「私」はつらいことがあったり孤独を感じるたびに鍵を握りしめ、いつか帰れると信じて(だんだん、本当は帰れないことも察するのですがそれでも)過ごすんですよね。
人との別れ、家族ってどこまでが家族なのか?家族のつながりって何?(つながっていれば家族?つながっていなければ?)などが刻々と描かれますが、記憶の旅の最後は新しい命が生まれた「今」に戻り、「私」は生まれてきた「君」を通して初めて妻と家族としてつながり、妻の両親とも家族になれたような気分になるんですね。ここの場面がめちゃ良かった!
これも、だいぶ切なかったり辛かったりする描写もあるはずなのですが、なぜか明るく、カラッとした読後感でした。すごくスルッと入ってくる文章だなぁ。
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というわけで、『紙の山羊』がすごく良かったので、『そのあわい』も読み、あ、この作家さんの文章好きだ!と確信した最近なのでした。
デビュー作は太宰治賞を受賞されていますが、こちらは単行本になっていたのでAmazonポチりましした。金曜とかに届くって。めちゃ楽しみ。
あと、群像の2021年11月号に掲載されていたエッセイが公開されていたので、興味ある方はぜひ。3分くらいで読めます。この人の記憶は生でずっと保存されているのか?ってくらい、描写がイキイキしている。小説はここまで生命力あふれる描写をたたみ掛けているわけではないけど、なんとなく雰囲気伝わるかと~。
↓の画像から行けるはず。
追いかけたい作家さんが見つかるのはとても嬉しいことですね。
『紙の山羊』、早く書評が読みたいな~。え、これ次の芥川賞候補にならん???というくらい、個人的には大好きな作品でした。
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