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課題レポート作成ガイド【STEP1:学部・地域・課題の選択】早稲田大学 地域探究・貢献入試



はじめに

この記事は、早稲田大学地域探究・貢献の1次選考で提出する「課題レポート」の作成ガイド【STEP1:学部・地域・課題の選択】です。

課題レポート作成の骨格となる「学部・学科(コース・論系)」「地域」「地域の課題」の3つの項目を決める具体的なプロセスを解説します。

ここでは、仮のモデル「Aさん」を使って、上記の3項目を決めるプロセスを確認していきます。

皆様の課題レポート作成のご参考になれば幸いです。


1. 「学部・学科(コース・論系)」の選択

1-1. 学部の選択

まず最初に、出願する「学部」を決定します。地域探究・貢献入試では、学部の併願が不可であり、出願時に学部を確定させる必要があります。教育学部と人間科学部は学科選択も必要です。


学部選択の重要性

学部・学科の選択は1次選考(課題レポート)と2次選考(総合試験)の双方で重要です。1次選考の課題レポートでは、以下の5つの項目に回答することが求められます。

【課題レポートの5つの項目】
① どのようなことを地域の課題と考えているか
② 志願者自身がその課題があることを意識したのはなぜか
③ その課題に関連して今までどのような活動を行ってきたのか
④ 本学のどの学部に入学し、何を学修したいと考えているか
⑤ 卒業後にどのように地域へ貢献することを考えているのか

「④ 本学のどの学部に入学し、何を学修したいと考えているか」では、志望する学部・学科の教育理念やカリキュラムに触れ、入学後に学びたい内容を記述します。

また、2次選考の総合試験では例年2つの大問が出題されており、少なくともいずれかの大問で志望学部・学科に言及する必要があります。例として、2023年度の地域探究・貢献入試 総合試験の問1は次のようなものでした。

問1. あなたが出願書類として提出した 「課題レポート」の中で取り上げた地域の課題とその解決案や展望に関し、 自身が志願している学部の3つのポリシー(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)を踏まえたうえで、大学での授業(課外活動を含む)を通じて何を学ぼうと想定しているか、601 字以上800字以内で述べてください。

地域探究・貢献入試 総合試験 問1(2023年度)


学部の選定基準

  • 最も志望度の高い学部を選ぶ場合
    上述の通り、地域探究・貢献入試では、課題レポートや総合試験において、志望学部で学びたい内容を記述する場面があるため、基本的には最も志望度の高い学部を選択すべきです。

  • 合格率の高い学部を選ぶ場合
    志望学部の候補が複数ある場合や、学部にこだわりがない場合、合格可能性の高い学部を選択することも一つの戦略です。

    全体の傾向として、1次選考の合格率は学部間に大きな差はありませんが、2次選考の合格率には学部によって差があります。

    特に、人間科学部は例年2次選考の倍率が低く、総じて合格可能性が高い傾向にあります。次に合格可能性が高いのは、文化構想学部、スポーツ科学部、法学部です。この3学部は1次選考、2次選考ともに倍率が同等であり、数値上、難易度の差はありません。

    他方、商学部と文学部は合格難易度が高い傾向にあります。文学部は1次選考、2次選考ともに他学部より平均倍率が高く、同系統の文化構想学部と比較しても難易度に差があります(商学部は2025年度より募集停止のため詳細は割愛します)。

    各学部の詳細な倍率や合格難易度については、以下の記事をご覧ください。

  • 合格可能性と志望度のバランス
    合格可能性を最優先に考える場合、人間科学部を選択することが選択肢として挙がります。ただし、地域探究・貢献入試は学部の併願ができず、1次選考や2次選考では志望学部での学修計画を詳述する必要があるため、合格難易度のみで学部を選ぶのは賢明ではありません

    また、2025年度入試より商学部が募集停止となり、教育学部の募集が開始されることが他学部の合格難易度に影響を与える可能性も考慮すべきでしょう。

    最も志望度の高い学部を選ぶべきか、合格可能性の高い学部を選ぶべきかは、慎重に検討してみてください。


Aさんの場合
Aさんは文学部と文化構想学部で悩んでいましたが、文化構想学部の方が文学部よりも合格可能性が高いこと、また関心がより近いことを理由に、「文化構想学部」を志望することに決めました。


1-2. 学科(コース・論系)の選択

次に、「学科(コース・論系)」の選択に移ります。「学科」は出願時に決定する必要があり、教育学部、人間科学部が該当します。法学部、文学部、文化構想学部、スポーツ科学部については学科選択は必要ありませんが、課題レポートの「④本学のどの学部に入学し、何を学修したいと考えているか」で、志望予定のコース・論系に言及することが望ましいです。したがって、事前に志望のコース・論系を決めておきましょう。

ただし、学科(コース・論系)については、必ずしもこの段階で確定させなくとも構いません。候補が複数ある場合、後に「地域の課題」を決める際に絞り込みましょう。

学科

  • 教育学部:生涯教育学専修 / 教育心理学専修 / 初等教育学専攻 / 国語国文学科 / 地理歴史専修 / 地球科学専修

  • 人間科学部:人間環境科学科 / 健康福祉科学科 / 人間情報科学科

コース・論系

  • 法学部:法曹コース / 先端科学技術と法コース

  • 文学部:哲学コース / 東洋哲学コース / 心理学コース / 社会学コース / 教育学コース / 日本語日本文学コース / 中国語中国文学コース / 英文学コース / フランス語フランス文学コース / ドイツ語ドイツ文学コース / ロシア語ロシア文学コース / 演劇映像コース / 美術史コース / 日本史コース / アジア史コース / 西洋史コース / 考古学コース / 中東・イスラーム研究コース

  • 文化構想学部:多元文化論系 / 複合文化論系 / 表象・メディア論系 / 文芸・ジャーナリズム文化論系 / 現代人間論系 / 社会構築論系

  • スポーツ科学部:スポーツ医科学コース / 健康スポーツコース / トレーナーコース / スポーツコーチングコース / スポーツビジネスコース / スポーツ文化コース


Aさんの場合
Aさんは、文化構想学部の論系の中から関心の高い「表象・メディア論系」を選択することに決めました。


2. 「地域」の選択

選択する地域のパターン

志望する学部・学科(コース・論系)が決まったら、次に「地域」の選択に移ります。地域は以下の3つのパターンから選択します。

a:在住の都道府県(現在住んでいる都道府県)
b:高校所在地の都道府県
c:その他所縁のある都道府県
(出生地、幼少期を過ごした地域など)

選択する地域は上記のいずれでも構いません。しかし、課題レポートの「②志願者自身がその課題があることを意識したのはなぜか」「③その課題に関連して今までどのような活動を行ってきたのか」では、選択した地域でのエピソードが問われます。したがって、地域の選定にあたっては、これらを書くことを想定しておく必要があります。

また、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の出身者について、「a・b・cのいずれかに首都圏以外の地域が含まれている」、かつ「課題レポート②③の項目を記述できるイメージが持てる」場合、首都圏以外の地域を選択するのも手です。首都圏出身者はその志願者数の多さから本入試において不利になる可能性がありますが、首都圏以外の地域を課題レポートで取り上げることは、他の受験生との差別化を図る手立てとなります。

ただし、取り上げた地域の課題解決に対する熱量や大学入学後、卒業後のプランとの関連性が課題レポートに反映されていることが何よりも重要です。競争率は高くなりますが、首都圏出身者の合格者も存在しますので、無理に首都圏以外の都道府県を選択する必要はありません。


市区町村を選択地域に加えるかどうか

都道府県以外に市区町村を加えることも可能です。後に決める地域の抱える課題が都道府県全体に共通するものであれば、都道府県のみでも構いません。

他方、その市区町村に固有の課題である場合、あるいは課題自体は都道府県全体に共通するものであっても、その市区町村ではより課題感の強いものである場合は、市区町村を加えることで、より課題レポートに具体性を持たせることができます。


Aさんの場合
Aさんは、石川県金沢市で生まれ、小学校4年生まで過ごしました。現在は埼玉県新座市に住んでおり、東京都新宿区内の高校に通学しています。Aさんにとって、金沢市は思い入れの深い地域であり、首都圏以外の地域でもあることから、「石川県金沢市」を選択することにしました。


3. 「地域の課題」の選択

3-1. 「教育理念」「学科(コース・論系)紹介」を確認

続いて「地域の課題」の選択に移ります。まずは、志望する学部・学科(コース・論系)の「教育理念」や「学科(コース・論系)紹介」を確認し、地域の課題解決と関連性の高い箇所を抜き出しておきます。以下では「文化構想学部 / 表象・メディア論系」を例として挙げます。

  • 教育理念(文化構想学部)

・文化学の叡智を現代の課題で照らし、これまでの学問領域の枠組を大胆に乗り越えて、広領域的・学融合的アプローチを実践する。

・文化の様相と構造を解明し、表象の分析と文芸の創造に取り組み、人間と社会の本質に迫ることによって新しい時代にふさわしい文化を構想する。

 教育理念|ディプロマ・ポリシー

「教育理念」は抽象的、大局的な内容であるがゆえに、地域の抱える具体的な課題と結び付けるイメージが湧きづらいかもしれません。しかし、この教育理念は具体的な課題や解決の方向性を考える際の基盤となります。

教育理念に表れる文化構想学部のキーワードは「文化」です。課題解決の糸口として"地域の「文化」に焦点を当てる"という大まかな方向性を持っておきましょう。


  • 論系の紹介(表象・メディア論系)

本論系では、人類がこれまでに生み出してきた多種多様な芸術文化活動を、「メディア」「身体」「イメージ」という3つの切り口から分析します。すなわち、現代社会を形作るイメージ文化がいかにしてメディア技術とのかかわりの中で作られてきたかを問う「メディア論」と、メディア文化が人間の身体にまつわる表象(イメージ)に与えてきた影響を探る「身体論」、さらにメディアや身体を取り巻く新しい文化を規定してきた表象について分析する「イメージ論」の各プログラムです。

論系の紹介|表象・メディア論系

具体的な課題や解決の方向性は「学科(コース・論系)の紹介」を参考にします。

ここでは、表象・メディア論系の紹介文から「メディア」というキーワードに着目しました。石川県金沢市の抱える課題を解決する手段として、「メディア」(インターネット、TV、雑誌、書籍など)を用いるイメージを持っておきます。

ここまでで、志望学部・学科(コース・論系)のキーワード、課題解決の方向性をまとめておきます。


【Aさんの例】

  • 「文化構想学部」のキーワード:「文化」

  • 「表象・メディア論系」のキーワード:「メディア」

  • 解決の方向性:石川県金沢市の抱える課題について、金沢市の「文化」に着目し、「メディア」を通じて課題解決を図る。


3-2. 選択した地域の課題をピックアップ

「○○市 課題」などで検索し、各自治体のホームページやパンフレットに記載されている課題を3-5個程度ピックアップします。

Aさんは、「石川県金沢市 課題」でGoogle検索を行い、金沢市のホームページに掲載されている2つの資料を閲覧しました。この資料を参考に地域の抱える課題をピックアップしました。

課題①:人口減少と高齢化
金沢市では、2040年に年少人口(0~14歳)と生産年齢人口(15~64歳)が減少する一方で、老年人口(65歳以上)が増加することが予測されている。このことは、地域の労働力不足や社会保障費の増大などの問題を引き起こす可能性がある。

課題②:空き家の増加と管理
金沢市では空き家の増加が課題となっており、その管理と活用が求められている。適切な管理や活用を促進するための条例も施行されているが、さらなる対策が必要。

課題③:観光振興と地域資源の活用
歴史都市としての金沢市は、多くの観光資源を持っているが、それらを持続可能な形で活用し、地域経済の活性化に結びつけるための戦略が必要。

課題④:交通インフラの改善
金沢市内の公共交通利用者の減少が課題。特に、新型コロナウイルスの影響で鉄道やバスなどの利用者が大幅に減少しており、公共交通の持続可能性を確保するための対策が求められている​。

課題⑤:地域経済の多様化と新産業の創出
伝統工芸や観光産業に依存する金沢市において、新たな産業の創出や既存産業のデジタル化など、地域経済の多様化が求められている。特に、若年層の起業支援やデジタル技術の導入が重要。


参考文献のメモ

課題レポート作成の際に参照した資料は、最終的に「参考文献」という形で課題レポートの末尾にまとめます。具体的な参考文献の示し方は【STEP7:課題レポートの総仕上げ】で解説します。


現時点では、参考にした資料(例:書籍、インターネットのサイト、PDFファイル)の「タイトル」「URL(サイトやPDFファイルの場合)」のみメモしておきましょう。

「金沢市観光調査結果報告書」
https://www4.city.kanazawa.lg.jp/material/files/group/3/kankou-chousa2023.pdf
「金沢市の概況について」
https://www4.city.kanazawa.lg.jp/material/files/group/2/sankou3_junbi.pdf



3-3. 学部・学科(コース・論系)の特徴と地域の課題との関連性を考える

続いて、以下の2つのポイントに沿って、各課題と選択した学部・学科(コース・論系)との関連性を検討します。

  • ポイント①:課題解決の方向性が志望学部の教育理念に沿っていること

  • ポイント②:具体的な課題解決のアプローチが志望学科(コース・論系)の特徴に沿っていること

【Aさんの例】
・文化構想学部のキーワード
:「文化」
表象・メディア論系のキーワード:「メディア」
解決の方向性:石川県金沢市の抱える課題について、金沢市の「文化」に着目し、「メディア」を通じて課題解決を図る。

課題①:人口減少と高齢化
教育理念との関連
:「文化学の叡智を現代の課題で照らす」という理念は、高齢化社会の問題を解決するための新しい社会構造やコミュニティの在り方を構想することに役立つ。
論系との関連:メディアを通じた情報発信やイメージの構築は、若者を引き付けるための効果的な方法となり、人口減少に対する対策を打ち出す手段となる。例えば、高齢者福祉の充実やシルバー人材の活用などをメディアで広く伝えることが考えられる。

課題②:空き家の増加と管理
教育理念との関連
:広領域的・学融合的アプローチを実践することで、空き家問題の解決策を多角的に検討することができる。例えば、空き家を文化施設や地域交流の場として再利用する方法を提案できます。
論系との関連:メディアやイメージの力を使って空き家の活用事例を発信し、地域住民や外部の投資家に対する啓発を行うことで、空き家の有効利用を促進することができる。

課題③:観光振興と地域資源の活用
教育理念との関連
:文化の様相と構造の解明、表象の分析を通じて、金沢市の観光資源をどのように活用すべきかを考えることができる。新しい観光モデルの提案や持続可能な観光戦略の構築が可能。
論系との関連:観光資源のブランディングやプロモーションをメディアを使って行い、地域資源を効果的に発信することで、観光産業の活性化を図ることがでる。例えば、デジタルメディアを活用した観光キャンペーンの企画が考えられる。

課題④:交通インフラの改善
教育理念との関連:地域社会の本質に迫り、社会の新しい構造を考えることで、持続可能な交通インフラの構築を提案することができる。
論系との関連:交通インフラ改善のための広報活動や住民への啓発活動をメディアを通じて実施することで、公共交通の利用促進や持続可能な交通政策の実現に貢献できる。

課題⑤:地域経済の多様化と新産業の創出
教育理念との関連
:広領域的・学融合的アプローチにより、伝統産業のデジタル化や新産業の創出を推進するための具体的な戦略を立案することができる。
論系との関連:デジタルメディアを活用して、地域経済の多様化や新産業の創出に向けたプロモーションを行うことが可能。特に、若者の起業支援や新しいビジネスモデルの発信が考えられる。


3-4. 課題の絞り込み

Aさんは上記の課題から、最も関心があり、課題レポートを書けるイメージが湧く「課題③:観光振興と地域資源の活用」を選択することにしました。

このように、選択した課題が志望する学部・学科の教育理念や特徴とどのように関連しているかを考え、具体的な解決策を提案することが重要です。


まとめ

ここまでで、以下の内容が決まりました。

1. 学部・学科(コース・論系):文化構想学部 / 表象・メディア論系
2. 地域:石川県金沢市
3. 課題:観光振興と地域資源の活用

次回の記事では、【STEP2:①どのようなことを地域の課題と考えているか】を解説します。今後の課題レポート作成にお役立ていただければ幸いです。


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