♯28 子どものタイピング力向上に関する一考察
28回目の投稿となりました、天治郎です。今回のテーマは、「子どものタイピング力向上に関する一考察」というタイトルの実践論文(もどき)です。長い(11000文字越え:読みたくなくなる量( ;∀;))ことに加え、元々執筆した日付は令和4年3月31日です。ご承知おきください。また、公開note用に一部加除修正を行いました。
お忙しい読者のために、本稿の要旨は以下の通りです。
本稿で得られた示唆は、以下の3つである。
学年が上がるにつれて、キータイピング入力の平均速度は自然と上がっていく。
多種多様なタイピング力向上への取組を意図的に行ったり、キータイピングをする機会を十分に確保したりすることで、子どものタイピング力が確実に向上する。
タイピング力を向上させるために特に有効な手立ては、「タイピングゲームの自由化」、「月1回のタイピング力確認の実施」の2つと考えられる。
本稿で得られた示唆を意識して教育活動に取り組めば、子どものタイピング力が向上し、1人1台型端末の文房具化が図られると考える。しかしながら、そのためには子どもたちの「情報モラル」も、同時に高めなければいけないことは言うまでもないであろう。
1 はじめに
GIGAスクール構想及びコロナ禍に伴う「GIGA初年度」が終わろうとしている。そもそもGIGAスクール構想では、「特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる環境を実現する」ことを目指している。また、文部科学省(2020)は、GIGAスクール構想において、「これまでの我が国の教育実践と最先端のICTのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す」と示し、「これまでの教育実践の蓄積×ICT=学習活動の一層の充実 主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」を求めている。
ところで、文部科学省(2020)は、「これからの学びにとってはICTはマストアイテムであり、ICT環境は鉛筆やノート等の文房具と同様に教育現場において不可欠なものとなっていることを強く認識し、その整備を推進していくとともに、学校における教育の情報化を推進していくことは極めて重要である。」と示している。つまり、これからの学びにおいて、1人1台型端末を「文房具化」することを示していると捉えることができる。
では、「文房具化」とはどういうことなのだろうか。文房具を辞書で調べてみると、「筆・ペン・墨・インク・原稿用紙・ノート・定規など、物を書くのに必要な類の品物。」(岩波国語辞典第七版)とある。学習で使う様々な品物である。つまり、「文房具化」とは、1人1台型端末を鉛筆やノートと同じように「当たり前に」使えるようにすることだと考える。教師が「使いましょう」と場面を限定していては、「文房具化」はなされない。他の文房具と同じように、子どもの必要感に応じて「使う」という子どもの意思決定が大切である。判断の主体は、子ども自身なのである。
一方で、タブレット型端末を文房具化するにあたり直面する問題がいくつかある。その1つが、「子どものタイピング力」である。佐藤(2018)は、文部科学省(2017)の「平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針」に基づき、中学年以上の児童に対してキーボード入力によって様々な学習活動を展開する可能性を指摘している。タイピング力の向上なしに、タブレット型端末の文房具化は難しいといえる。
そこで、本稿では、「子どものタイピング力向上に関する一考察」を主題とし、子どものタイピング力を向上させる手立て等を明らかにすることを目的とする。
2 子どものタイピング力の現状
(1)文部科学省が示すタイピング力
文部科学省(2016)の「情報能力活用調査」によると、小学校第5学年のキータイピング入力の平均速度が1分間で平均5.9文字である。10秒に1文字しか入力できていないことになる。しかも、半数以上の子どもたちは、5文字も入力できなかったという結果も示されている。さらに、中学校第2学年のキータイピング入力の平均速度が1分間に17.4文字である。
一方、橋本・押木(2012)は、小学生の紙に文字を書く場合の速度について調査をしているが、この調査によると、2年生で1分間に20文字、4年生で1分間に30文字、6年生で1分間に40文字程度書くことができる。キータイピング入力の速度と紙に文字を書く速度を比べてみると、紙に文字を書く速度の方が大いに速いのである。
他方、文部科学省(2018)は、子どものキーボード等を用いた文字入力について、「学習活動を円滑に進めるために必要な程度の速さでのキーボードなどによる文字の入力」と示しているが、その具体は明記されていない。しかしながら、「教育の情報化に関する手引き」第3回作成検討会配布資料(文部科学省,2008)では、
と、具体が示されている。10分間に200文字程度は、1分間では20文字程度となる。これは、目安になる数値である。
以上のことから、1人1台端末を用いて学習活動に取り組んでいく際には、支障のあるレベルだといえる。しかしながら、この調査結果は、GIGAスクール構想以前の結果である。
(2)筆者が担任する学級の児童(第3学年)のタイピング力
筆者が担任する第3学年の学級に、タイピング力を測る調査(2分間にどれだけの文字を打てるか)を実施した。調査日は、国語の学習でローマ字をすべて学び終えた直後の11月である。また、調査人数は〇名である。そして、以下が、調査に使用した文章である。
3年生という発達段階、1人1台端末に文字を入力する方法はタッチペンで書く子どもが1番多いこと、初めてのタイピング力調査という3点を考慮し、調査に使用した文章はすべて平仮名とした。また、子どものタイピング力が未知数であるため、文章の文字数は351とかなり多めに設定した。
第1回の調査結果は、キータイピング入力の平均速度が1分間で平均13.1文字であった。2016年の情報能力活用調査の第5学年の平均速度と比較すると、7.2文字多いことになる。しかしながら、GIGAスクール構想に伴い、子ども一人ひとりに1人1台端末が行き渡り、授業で活用され始めていた結果であろう。それでも、1人1台端末を用いて学習活動に取り組んでいく際には、支障のあるレベルだといえる。
3 タイピング力向上に向けての手立てとその成果
(1)11月からの取組
第1回タイピング力調査の結果では、キータイピング入力の平均速度だけでなく、キータイピングにローマ字表を使用したかどうかについても調査した。「文章を打つために、ローマ字表を使いましたか?」という設問に対して、「使った」と答えた子どもが55.9%であった。過半数の児童がローマ字表を使用していることがわかる。
第1回タイピング力調査の結果から明らかになった課題は、以下の2点である。
そこで、「ローマ字習熟が不十分であること」という課題に対する手立てとして、以下の取組を開始した。
他方、佐藤(2018)は、「キータイピングは運動技能であることから、何度も練習してようやく身につくものである。だとすれば、ローマ字を学習するタイミングで数時間練習しただけでは当然身につかない。しかも、将来的には学習に支障のないくらいのスピードで打つことができなければならないとすれば、毎日繰り返し練習をする必要がある。」と述べている。そこで、「キータイピングの経験が不足していること」という課題に対する手立てとして、以下の取組を開始した。
以上、8つの取組を「タイピング力upプログラム」として日々の教育活動に位置付け、およそ5か月間行うこととした。この取組により、「キータイピングをする機会」は、十分確保されると考える。
(2)11月及び12月のタイピング力調査の結果
第2回タイピング力調査を12月初旬に、第3回タイピング力調査を12月2下旬に実施した。それぞれの調査人数は、〇名である。調査方法は第1回タイピング力調査と同様である。結果は、以下の通りである。
第2回及び第3回タイピング力調査の結果から、確実にキータイピング入力の平均速度が増えていることがわかる。また、ローマ字表を使用する子どもの割合が減少したことから、ローマ字の習熟が進んできたこともわかる。上述した「タイピング力upプログラム」の成果が表れているといえる。
(3)1月からの取組
タイピング力向上の成果が見られたため、1月より以下の3つの取組を追加して行った。
以上、3つの取組を「タイピング力upプログラム」に追加して位置付け、およそ2か月間行うこととした。この追加の取組により、「キータイピングをする機会」は、さらに確保されることになる。
(4)1月及び2月、3月のタイピング力調査の結果
第4回タイピング力調査を1月中旬に、第5回タイピング力調査を2月上旬に、第6回タイピング力調査を3月上旬に実施した。それぞれの調査人数は、〇名である。調査方法は第1回タイピング力調査と同様であるが、打ち込む文章については「漢字やカタカナの変換あり」へと変更した。変更した理由は、「子どものタイピング力が向上してきたから」である。
尚、タイピング力調査に用いた文章(全214文字)は、「エルマーの冒険」の一部を抜粋したものであり、以下の通りである。
第4回及び第5回、第6回タイピング力調査の結果から、「漢字やカタカナへの変換あり」と条件を変えても、キータイピング入力の平均速度が増えていることがわかる。また、ローマ字表を使用する子どもの割合が減少したことから、ローマ字の習熟がさらに進んできたこともわかる。そして、2(1)で示した「キータイピング入力の平均速度1分間では20文字程度」という目安には到達していることになる。しかしながら、「1分間に20文字程度」に到達している子どもの割合は、70.6%である。
他方、橋本・押木(2012)の調査結果に基づき、小学生3年生の紙に文字を書く場合の速度を「1分間に25文字」と仮定すると、キータイピング入力の速度と紙に文字を書く速度が同程度以上になっていると考えられる。
Microsoft Teamsのグループチャットの活用状況も大幅に向上した。尚、Microsoft Teamsを使わない授業もある。そして、グループチャットの中には、写真やHPのリンクのアップロード、筆者のメッセージ、Formsアンケート、授業以外でのメッセージも含まれている。しかしながら、グループチャット活用の日常化は図られており、タイピング力向上の一助になったと考えられる。
4 他学級の結果との比較
(1)他学級のタイピング力調査の結果
筆者が所属する学校の他学級にもタイピング力調査に協力していただき、本学級の結果と比較することとした。第3学年、第4学年、第5学年、第6学年の計〇学級に、調査に協力していただいた。調査内容及び方法は、筆者の学級で行った第4回及び第5回、第6回のタイピング力調査と同様である。ただし、第4学年及び第5学年、第6学年の調査には、「ローマ字表使用の有無」については除くこととした。実施時期は、2月中旬から3月上旬にかけての間である。尚、どの学級も、筆者の学級と同様に「タイピング力upプログラム(11の手立て)」を実施しているわけではない。
同学年他学級(3学級)のキータイピング入力の平均速度は、「1分間に15.6文字」である。そして、ローマ字表の使用率は11.3%である。
第4学年他学級(3学級)のキータイピング入力の平均速度は、「1分間に21.6文字」である。2(1)で示した「キータイピング入力の平均速度1分間では20文字程度」という目安には到達している。
第5学年他学級(2学級)のキータイピング入力の平均速度は、「1分間に23.7文字」である。2(1)で示した「キータイピング入力の平均速度1分間では20文字程度」という目安には、4年生同様に到達している。
第5学年他学級(3学級)のキータイピング入力の平均速度は、「1分間に29文字」である。2(1)で示した「キータイピング入力の平均速度1分間では20文字程度」という目安には、4年生及び5年生同様に到達している。
以上のことから、子どものタイピング力について、以下の点が示唆された。
一方で、今回の各学年の調査結果は、キータイピング入力の平均速度の目標にもなるであろう。筆者の考える各学年のキータイピング入力の平均速度の目標は、以下の通りである。
尚、この努力目標は、「タイピング力向上への取組を意図的に行ったり、キータイピングをする機会を十分に確保したりする」前提で設定したものである。
(2)筆者の担任する学級と各学年の結果の比較
筆者の担任する学級(キータイピング入力の平均速度は、「1分間に31.7文字」)と他学級の結果の比較してみると、意図的に多種多様なタイピング力向上に向けた取組を行っている筆者の担任する学級は、有意な結果を得ていることがわかった。特に、同学年との差は、大きい。このことから、
多種多様なタイピング力向上への取組を意図的に行ったり、一人ひとりの子どもがキータイピングをする機会を十分に確保したりすることで、子どものタイピング力が確実に向上する。
といえるだろう。
5 子どもの意識調査の結果から
筆者が担任する学級に意図的に組み込んだ「タイピング力upプログラム」は、全部で11の取組からなるものである。では、どの取組が効果的であったのだろうか。
そこで、「タイピング力upプログラム」対する子どもの意識調査を実施し、その結果から考察することにした。この調査は、2月下旬にFormsアンケートを用いて実施した。調査人数は〇名である。そして、調査項目は「①自分のタイピング力向上に役立ったと思うことを、3つえらんでください。」と「② ①で選んだ中で特に自分のタイピング力向上に役立ったと思うことをえらんでください。」の2つである。どちらも選択肢は、「タイピング力upプログラム」の11の取組に、「その他」を加えた12個である。尚、選択肢の言葉は、子どもへ分かりやすいように、本稿の手立てとは多少変更している。
調査項目①に対する結果から、特に「⑤タイピングゲームの自由化」、「⑧月1回のタイピング力確認の実施」、「①自作ローマ字プリントによる家庭学習とローマ字小テストの実施」の3つの取組が、子どもは有効だと感じているようだ。そして、調査項目②に対する結果から、特に「⑤タイピングゲームの自由化」、「⑧月1回のタイピング力確認の実施」、「④Microsoft Teamsを用いた文章によるメッセージのやり取りの自由化(授業中)」の3つの取組が、子どもは有効だと感じているようだ。
2つの調査項目の共通点として、「⑤タイピングゲームの自由化」、「⑧月1回のタイピング力確認の実施」が挙げられる。前者は、楽しみながらキータイピングに取り組めることが大きいと考えられる。後者は、自らの実力を知ることで、次なる目標ができ、さらにタイピング力を高めようと考えるのではないだろうか。
他方、本調査実施後、十数名の児童から、「すべての取組がタイピング力アップに役立ったよ。」と声を掛けられた。やはり、多種多様な取組を意図的に行うことが肝要であるといえるだろう。
6 自ら考えた文章についてのキータイピング入力の平均速度
2(1)で示した「キータイピング入力の平均速度1分間では20文字程度」という目安は、本来決められた文章をキータイピングすることを想定しているものではないはずである。つまり、自ら考えた文章をキータイピングするための目安である。
そこで、自ら考えた文章についてのキータイピング入力の平均速度を調べるため、筆者の担任する学級で、新たなタイピング確認を行った。お題について1分間考える時間を取り、その後2分間キータイピングするというものである。より正確なキータイピング入力の平均速度を出すために、3回(今日の朝食、好きな遊び、自分の学級についての3つをテーマとする。)実施し、その平均を求めることとした。実施時期は、3月中旬の3日間である。
新たなタイピング確認の結果は、以下の通りである。
キータイピング入力の平均速度が、決められた文章におけるキータイピング入力の平均速度を上回っている。また、上述した目安を大きく超えている。さらに、3回のキータイピング入力の平均速度が20文字程度の児童は、91.6%である。以上のことから、本学級のタイピング力は満足できるレベルにあると言えるのではないだろうか。
7 終わりに
本稿の目的は、子どものタイピング力を向上させる手立て等を明らかにすることであった。本稿で得られた示唆は、以下の3つである。
本稿で得られた示唆を意識して教育活動に取り組めば、子どものタイピング力が向上し、1人1台型端末の文房具化が図られると考える。しかしながら、そのためには子どもたちの「情報モラル」も、同時に高めなければいけないことは言うまでもないであろう。
一方で、「子どもたちのタイピング力の差を埋める手立てが必要である」という課題が浮き彫りになっている。さらに、「調査人数の少なさ」も課題である。
今後は、この課題解決のための検討が求められる。
【追記】
3月下旬に今年度最終のタイピング確認を行った。実施方法等は、第4回タイピング確認と同様である。
キータイピング入力の平均速度は「1分間に40.9文字」となり、ローマ字表の使用率「0%(0/36)」となった。
第9回から3週間程度ではあるが、キータイピング入力の平均速度は9.2文字上昇している。また、2(1)で示した「キータイピング入力の平均速度1分間では20文字程度」という目安は、91.6%の児童が達成している。
【引用・参考文献】
佐藤和紀(2018).小学校段階でICT技能をどのように育成するか.
https://www.sky-school-ict.net/ite/infotech-education/k_satou/(2022.02.24最終確認)
文部科学省(2008).第3章 初等中等教育における情報教育.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/056/shiryo/attach/1244848.htm(2022.02.22最終確認)
文部科学省(2016).情報活用能力調査(小・中学校)調査結果(概要版)第4章
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/03/24/1356189_04_1.pdf
文部科学省(2017).平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針について.
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/12/26/1399908_01_3.pdf(2022.02.24最終確認)
文部科学省(2018).小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編.東洋館出版社.
文部科学省(2020).GIGAスクール構想の実現へ
https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf(2022.01.16最終確認)
橋本佳恵・押木秀樹(2012).小学生の書字における場面に応じた書き分け能力に関する研究-場面ごとの丁寧さ・速さ等のバランスと認識力・技能の把握から-.書写書道教育研究第第26号.
Ruth Stiles Ganett(1963).渡辺茂男訳,エルマーのぼうけん.福音館書店.
8 本稿を振り返って
11000字を超えるnoteをお読みいただき、ありがとうございました!御意見等お待ちしております。
ところで、令和4年度は、さらにバージョンアップして「子どものタイピング力向上」を目指しました。結果(違う学校の同じ3年生)としては、キータイピング入力の平均速度は「1分間に50文字以上」となりました。また、キータイピング入力の平均速度努力目標である「1分間に20文字程度」は、全員が達成しました!今回の示唆の有効性が示されたと考えています。
令和5年度は低学年での取組に奮闘しています。また、どこかでお伝えできればと考えています。
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