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池上さんのわかりやすさの奥に

池上彰さん「伝える仕事」を読みました。

池上彰さんが幅広いニュースをわかりやすく解説される姿を拝見しては、「このわかりやすさって何だろう?」「この方は一体何者なのだろう?」「この方はどういう立場(意見)の方なのだろう?」と密かに疑問に思っておりました。

この本を読んで、なるほどーと腑に落ちた箇所を少し引用させていただきます。

NHKでのキャリアの中で「こどもニュース」という番組を担当された時の気づきをこう語っておられます。

ニュースをわかりやすく解説する際、たとえば、ごく基本的な用語の説明から始めたとしたら、「それくらい知っているぞ。視聴者をバカにするな」と怒り出す人もいそうです。
でも、スタジオに小中学生がいて、その子たちに向かって私が説明しているのなら、視聴者は、「これは子どもたちに説明しているのだな」と納得。プライドが傷つかないのです。むしろ知らなかったという人にとっては、恥をかかずに理解す
ることができます。
「視聴者の気持ちに配慮したわかりやすさ」とはこういうことだ、と気づいたのです。

番組の原稿を作るときには、出演の子どもたちにも「わからないところは言ってね」と何度も語りかけ、はじめは黙っていた子どもも『何がわからないか』を話してくれ、そこから原稿を直したそうです。(そのエピソードは子育て全般にも活かせそうな気がしたので、また改めてまとめさせていただきます!)

何がわからないか、わかった。
これが「こどもニュース」でも民放の番組でも、「わかりやすさ」につながったのです。

「こどもニュース」を11年務めた後、NHKを早期リタイアされました。
その契機となったのは、一ジャーナリストであるために解説委員を希望していたけれど、専門性がないと評されたことだったそうです。

専門性がない、という評価はショックでしたが、しばらくして考え直しました。
専門性がないというマイナス面は、考え方によってはプラスになると気づいたのです。
それは、あらゆるジャンルにわたってニュースを解説することのできるジャーナリストになればいいのではないか、ということでした。
ものごとをわかりやすく説明することが自分の専門性なんだ、と思ったのです。

こういう考えは逆転の発想というのでしょうかね。

それまでのニュースでは、解説者は、それぞれの分野の専門家でした。そのため「ニュースをわかりやすく解説する」という仕事はいわばニッチな仕事でした。ニッチとは隙間のこと。つまり隙間産業を見出したのです。

専門家たちの研究成果を、どのように噛み砕けば一般の人に理解してもらえるか。
そこに、自分の取材成果をどう組み合わせるか。ひたすら専門書を読みながら工夫を続けることで、自分の役割が見えてきました。

テレビで拝見する「わかりやすい解説」の奥にこのような背景があったとは‥小さな驚きと納得感がありました。「このわかりやすさって何だろう?」「この方は一体何者なのだろう?」‥この2つの疑問が繋がった気がしました。

NHK時代とフリーランスにおいて違いとして「自分の意見」との向き合い方があったそうです。(NHK時代は「自分の意見は言ってはいけない」という教育が徹底されていたそうです。)

フリーランスになって以降、密かに「自分の意見」を持つように努力を始めました。
もちろん「自分の意見」を放送で披瀝することはありませんが、それなりの考えを持つようにしているのです。

また、「自分の意見」を持つように努力することは、どうすれば「偏らない伝え方」ができるかを考える上で、大いに役立つことに気づきました。「自分の意見」を持ち、それが何であるかの自覚があれば、その部分を極力排除して伝えればいいのです。

いつもテレビを拝見していて、「この方はどういう立場(意見)の方なのだろう?」と感じていた理由はここにあったのかもしれません。

ただし、ジャーナリストとして言論の自由を抑圧したり制限するような動きがあれば意見しなければいけない。民主主義の根幹を守るのはジャーナリストとして最低限努力しなければならないことだといいます。

健全なメディアは民主主義の基盤となります。そんな民主主義のインフラづくりに関わっていきたい。
「わかりやすい解説」を通して、考える材料を提供する。その積み重ねを続けていく
――それが私の果たすべき役割ではないかと改めて思うようになったのです。

「わかりやすい解説」の奥底にある、ジャーナリストとしての深い信念を感じた一冊でした。

池上彰さんの著書、また色々と読んでみたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。


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