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【短編小説】船から降りる事、降りない事

吾輩が乗っている船が、島に到着した。
島では「おいで わたしたちのもとへ」と書かれたアーチが設置されており、観劇ムードって事だ。
船に乗っていた11人の内、吾輩以外の10人はそそくさと船から降り、島の住人の元へ歩いて行った。
吾輩だけ、吾輩だけが、船から降りずに、自室にこもっていた。
何故降りなかったのか。
それは、吾輩にもわからない。
予感、のようなものだろうか?いや、そうではない。
不安?特に不安は無い。
何度もこの島には来ており、住人はその度に温かく迎えてくれている。
体調不良?金縛り?何者かの力?
いや、体調は万全だ。
金縛りも、何者かの力もありえない。
何故なら吾輩はサイボーグで出来ており、左目にはカエルの目玉、右目にはウサギの目玉がはめ込まれており、その二つの目玉の特殊な視力によって、あらゆる見えない妨害をキャッチする事が出来る。
この部屋には、透明なコウモリが次々と自らの喉に筋力を込めて破壊し自殺している現象しか起きていない。
床にバタバタと落ちていくコウモリ、その数はもう千匹は超えるだろうか。この3日間の内、2日目の夜から始まった。まったくもって目障りで、3日目の昼にようやく慣れてきた。
それでは、なんなのか?何故、島に降りたくないのか?
わからない・・・どうしてだ・・・。
私は、途方に暮れる。
この世界が誕生してから今までを、浮遊感を伴いながら、巡って想像する。
吾輩がこのまま永遠に船から降りれないでいる事が、この世界にどのような変化をもたらすのか、いや、何ももたらすまい。
そうして、吾輩は、いつも、一生、いつまでも、この船から降りないでいた。

骨になってからが本番だ。

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