【エッセイ】登山者の鞄の中に入りたい

登山者が背負う鞄の中身の一つになりたい。
鞄の大荷物の中には、様々な対策品が入っているのだろう。
本格的な山登りをした事が無いから全くの想像となってしまうが、防寒具に、傷用スプレー、非常食、タオル等。全くの想像過ぎて、具体的な物はだいぶ違うとは思うが、それでも、自らの身を守る為の、色々な物が入っているのは分かる。

そんな中、僕もそこに、ちょろっと入りたい。
勿論、何も登山者の身を守らない。
ただただ、重たくて、邪魔なだけだ。
僕が鞄に入る事で、およその物は、しまう事が出来ず、家に置いてくる羽目になるだろう。

それを、ワガママな愛として、抱きしめてほしい。

突然気色悪い事を言ったが、登山者が歩く、一つ一つの足音に、僕は鞄の中でホイッスルを吹く。
登山者が疲れて一旦座る時に、鞄の内側からドンドンとパンチをする事で、マッサージチェアのような役割を持つ。
そのような、僕を、愛してくれるだろうか?

狸が山の中に出てきた時、僕は鞄を食いちぎって無理やり出て、狸を捕まえてこう言うだろう。

「狸と私、どっちが大切なの!!!!!」

僕はそれを、無作為に選んだ、知らない登山者の鞄の中に入り、やりたいのだ。

君の部屋は、そんな、薄暗く、怖く、寂しい風が、上流に向けて吹いてないだろうか。
本棚に、買ったけれど読んでいない、切なさそうな漫画を、土で汚す、そんな、侘しい風は、吹いていないだろうか。
家の外で流れている、架空のアニソンが、耳を苦しませる、そんな風は、吹いてはいないだろうか?

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