【体験記】芸能オーディション受けてみた
少し前の話になるが、軽い気持ちで、
ある芸能事務所の新人オーディションを受けてきた。
今回はその模様を、事務所名等がばれない程度にレポートしたい。
きっかけ
僕がその事務所を受けようと思ったきっかけは単純明快。
竹内涼真になりたかった
うわ、何いっとんねんこいつ・・・って皆さん今ざわつきましたよね。
竹内涼真さんは1993年度生まれ。
実は僕と同い年なんですね。
僕は同じ年に生まれたのに身長は20センチ近く低いし、運動神経も顔面偏差値もキャリアも、すべて周回差をつけられている。(竹内涼真はサッカーもけっこうガチ勢だったらしく、運動もすごい)
僕はこの人をテレビなどで見るたびに、「なんで同じ時にこの世に出現したのに、こうも全て違うんやろなw」と、不思議な気持ちになったのでした。
まあ、ほかにも、舞台上で自己表現するのが楽しいっていうのもあるけど、学生のうちに一回くらいこういうの経験してみてもいいんじゃないかなと思って応募したらあれよあれよという間にオーディションの日程が決まった。
オーディション当日
会場に到着すると、椅子がずらりと並べられていて、20人前後の男女が座っている。高校2年生から、60歳近い人までいた。それぞれ割り振られた番号があり、その番号を胸につける。
前にはちょいギラギラしたおじさんが二人。この人たちがエントリー者を審査するらしい。
時間になると端っこから番号を呼ばれて、前に立たされる。審査員は終始和やかな雰囲気を作ってくれるが、緊張するもんはする。見たところたいていみんなガッチガチだ。というか、新人オーディションというだけあって、みんな人前に出て話すこと自体ほとんど慣れていないようだった。
審査員のお二人は、ギャグを言ったり、ちょっとためになるアドバイスや小話を話してくれたりして、ガチガチになった新人の緊張をほぐしてくれる。そうやって、それぞれのいいところを引き出そうとしてくれているのがよくわかる。
オーディションの流れは以下の通り。
・まずは自己PRをする。
・そのあと、あらかじめ与えられた課題(朗読、演技、ポージングなど)から一つを選択して行う。
・そのうえでニ、三審査員から質問があり、終了!
ある人は歌手志望で、有名な歌手のナンチャラっていう歌を披露。音感はよし。
カラオケでよく使われるような息遣いのテクニックが多用されていたが、専門のボイストレーニングを受けていない発声だった。この声を作り直すのは大変なんじゃないかな、と思った。
審査員曰く「歌を作詞作曲できない歌手はいま求められていない」とのこと。ただ、やれば伸びると判断されたのか、そこそこ評価を受けていたように見えた。
また、40~50代の女性のエントリー者が思いのほか多かった。多くは30年ほど前にモデルや舞台をやっていた経験者だったが、審査員は興味なさげ。
表情が全くないね、と言われた俳優志望の男もいた。
第一声に自分の意志ではなく、父が勝手に応募してしまったのだ、と言った人もいた。
また、エントリーこそしたが、今は気が変わって、自分は裏方の方が向いているような気がする、と言い始めた人もいた。
僕はほくそ笑んだ。
「ククク、みんなひよっこじゃないか・・・。俺、わりかしいい線いってんじゃないか・・・?」
僕は声の通りの良さと、舞台上での迫力には漠然とした自信があった。
僕の出番は15番目くらい。後半も後半だ。
場の雰囲気を掴んでから出られるこの打順も、僕の得意な形。
番号を呼ばれると、僕はどや顔で前に出て、おじさまたちをじっと見据えた。
素人がプロに自己アピールをする際、鉄則は
「これまでに何を成したか、ではなく、体験を通して何を感じたか」だ。
就活の面接官もそうだが、彼らはこっちの実績には一切興味がない。素人の実績なんてプロからするとたいてい大したことないからね。だから、自分がどんな人間か、というところをうまく伝えればいい。
「自己PRを」とおじさま。就活メソッドはここでも活きるはず。
「私は大学でカクカクシカジカ・・・その際に・・・」
あれ・・・?
「この経験をしたとき、・・・・・・と感じたんです。そこから・・・」
おろろ・・・?
「え~~、つまり~・・・・・・・」
おじさま・・・?
「・・・・・・というわけで志望いたしました。」
僕の話ぜんぜん聞いてなくねぇ・・・?!?!
そう、おじさまは終始、かなり飽き飽きした目をして僕を見ていた。
いや、僕を通して虚空を、どこか遠い宇宙の果てを見ていた。
ほかのエントリー者も含め、だれも僕の声を聞いちゃいないし、だれも僕を見ちゃいない。
うわ、すべるってこういうことかぁ、と思った。
そのあと、課題をやる。一番うまくできそうな演技をえらんだ。
・・・全くうまくできなかった・・・
あらかじめ考えておいた動きができず、惰性で漫然と台詞を読んでしまった。うわあ、やっぱ雑魚なんだなあ俺・・・と思った。
最後に、「今のあなたに足りないものは何だと思いますか?」と聞かれた。これは僕以外にも数人が聞かれていたことだ。演技の経験者が一律に聞かれる質問みたいだった。いちおう経験者とみなされたみたいだ。
「基礎です」
と僕は用意していた回答を即答した。
だから事務所で一から基礎を学びたいのです、と付け加えたら、おじさま、大きくうなずいた。
それで、終了。めっちゃ一瞬で終わった。
うわ、これ落ちたな・・・。というのが率直な感想。
あんなにアウェイな空気初めてでした。ほかの人にはたくさん質問したり、緊張をほぐすギャグとかを飛ばしていた審査員が、僕の時は一言もしゃべらない(笑)
完全に頭の中が宇宙だったような気がした。
いや、もしかしたら、審査員は全然対応を変えていなくて、宇宙を見つめていたのは僕の方だったのかもしれない。これが緊張というものなのか・・・?どんな舞台でも緊張したことない僕だけど、あの「審査される」という特殊な環境の中にあって、初めて緊張してしまったのだろうか?
いずれにせよ、就活ならまず受かってないパターンだ。
結果
帰りのエレベーターを待っていると、オーディションを終えたさっきの審査員と偶然すれ違った。
すれ違いざまに、肩をドカン!とたたかれ
「君!!いい声してるねえ!!!」
と言われた。あまりに突然のことだったので
「ぇ、ぁ、ぁりがとぅゴザイマス。。。」
といかにも素人な言葉しか出てこなかった。
いや、素人でいいんだ、僕の竹内涼真への道はもう閉ざされたのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夕方、電話で結果が届いた。
「合格ですよ!声もいいし存在感がある。すごく素質があると感じました!!」
ええ?!私が?!?!合格???!!!
さっきあんなにつまんなそうな顔してたのに、、、(笑)
まさかの合格。
あれで受かるのか・・・
自分が強みだと思っていた声と存在感が評価されたのは普通に嬉しかった。
考察
実はオーディションのあと、合格連絡の仕方など、事務的な説明がされたのだが、最後に「何か質問ありますか」と聞かれたので、ずばり「審査基準」を聞いた。
曰く、「一番見ているのは、将来性と人間性。これまで何をしてきたかは関係なくて、ひとりひとりの個性、強み、それから人との接し方を重視しています。」とのこと。
ああ、やっぱり就活と一緒だ~~。
オーディションのエントリー者のことを思い返してみる。
性別も年齢も経歴も千差万別で、それぞれなりたいもの(モデル、俳優、声優など)も違った。
しかし彼らのほとんど(僕も含めて)に共通していることがある。
どことなく、自分ならそこそこまあまあなんじゃないか?という
絶妙な自信があること。
自分のトークや見た目や歌声
テレビ番組にたまに出て座っているタレントや俳優と比べてみる。
あのイケメンには勝てないかもしれないが、
このくらいのタレントになら勝てるんじゃないか?と、無意識に自分の芸能界での立ち位置を妄想している。
友達とかから褒められたり、仲間内で人気者だったりする。
それはお世辞や、内輪ノリに過ぎなような気もするんだけど、そうは思いたくなくて、芸能の世界でも評価されるのではないかと期待してしまう。それが最高潮に達したとき、新人オーディションに応募してしまうらしい。
前に立っているほかのエントリー者を見ていると、よくわかる。自分の性格やこれまでの実績を得意げに語る姿。根拠薄弱な自意識以外に、特別な才能があるように見えない。
そして、自分も前に立ってみてよくわかる。
自分もまた、根拠薄弱たる自意識の塊に過ぎないのだと。
ほかのエントリー者がどのくらい受かったかわからないけど、全員合格だったとしてもおかしくないな、と思う。
オーデイション自体は無料で、合格者は受講料を払って養成所でしばらく訓練を受ける。
そうなると、わざわざお金を取れないオーディションをやって、あんまり合格率が低いと採算がとれないのではないか。
高めの自己評価をもった素人は、業界人がちょっとほめて認めてあげると舞い上がる。「わしも行けるかも!」と。そうして、養成所へ行って、お金を落とす。落とされたお金で事務所は維持され、トップの芸能人たちの活動が支えられる。という構図。
筋書としてはいかにも、ありがちだ。
別に僕は、事務所がお金儲け目当てで素人の自意識に付け込んで搾取しているなんて思わない。
たぶん、ちゃんとやればみんなテレビなり舞台なりに出られる素質があるんだろう。だって「仲間内だけで人気者」「根拠薄弱な自信がある」って、
それ自体ちょっと稀有な特性ですからね。
フツーの人にはあんまりない。
そして、そのうえでオーディションを受けてみようという「行動力」まで持ち合わせている。口先だけじゃなくて、ちゃんと動ける。
その時点でもうただの素人とは一線を画している、と言って間違いないんじゃないかな。
その一線が素人に生えた毛の一本に過ぎなかったとしても。
まあつまり、養成所に行って訓練を受けて、ちょっとテレビに出るだけの素質はきっと受けていたみんなにあったように思うわけだ。
けど、例えば、キー局のレギュラー番組の司会をしたり、大河ドラマで主演したり、
そのレベルの活躍って、果たして、可能だろうか。
僕は業界のこと、全く詳しくないが、学生時代一緒だった人で今芸能界の最前線で活躍して有名になっている人が何人かいる。
彼らは、デビュー前から周囲とは、集団の中での動きも、見ている世界も、そして容姿も、ぜんぜんモノが違った。残念ながら。
スターを夢見てオーディションに出るエントリー者の「スター」がどのレベルかはわからないが、もし、最前線で日本全国、世界を股にかけるスターをイメージするのであれば、よほどなことがない限り厳しいんじゃないかなあ。
すくなくとも、自分の能力では厳しいという事実を自覚して、全身全霊努力できる人でないと、ギャップに苦しむことだろう。
まずは自分が特別だ、という考え方を捨てること、これってもしかしたら、芸能界に限らず、どの世界で生きていくにも大切な考え方なのかもね。
現時点の自分が代替可能な弱い個性しか持ち合わせていないこと。
このことに自覚できて、かつそれで腐らずにまい進できる人が、どの世界でも活躍して行ける人なのかも。
おーそれっぽいなww
まあ、そんな感じの気づきを得られたオーディションでした。
うまくまとまらなかったけど。
いろんな体験をするのは楽しいですねえ。
というわけで、失礼します。