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【前編】2022年度、海士町未来共創基金では2つの事業が採択されました

2022年度、海士町未来共創基金では21件の応募があり、2つの事業が採択されました。1つは、中ノ島マリタイムの「海の魅力と安心をつなぐマリンサービス事業」、もう1つは、株式会社まきはたの「近くで作って近くで飲む牛乳生産事業」です。

この記事では、「海の魅力と安心をつなぐマリンサービス事業」を紹介していきます。

海士町未来共創基金(運営:一般社団法人海士町未来投資委員会)とは、島の未来につながる事業への投資・共創を行うため、2020年に設置された基金です。日本全国のみなさんから応援いただいた海士町へのふるさと納税(年間全納付額の25%)を活用し、新たな挑戦を支援します。

安心をつなぐマリンサービス事業とは、海洋設備のメンテナンスや漁業に関する管理を行い、観光・旅行で海を訪れた人や漁業関係者などがそれぞれ安心して、レジャーを楽しんだり、業務に携わることができるようなサービスを提供する事業のことです。

中ノ島マリタイム 向山淳一さん

この事業を提案された向山淳一さんは、海士の海で働くことが一つの目標で、高校卒業後、広島の専門学校に進学し海の技術を学んでいたそうです。卒業後は尾道海技学院に就職。船舶免許講習やマリンスポーツの指導員、指導助手、それらに使用する船舶や器材の保守整備の仕事をしていました。2001年に海士町にUターンしています。

ーー未来共創基金に応募を決めたきっかけを教えてください。

向山さん:
「海士町に船を修理するための鉄工所がない」
これが海士町にとっての課題の1つであることを認識していたけれど、今は会社員だし、定年を過ぎてから何かをはじめれば良いかと思っていました。しかし、ある日、「船が壊れてしまった。島外から人を呼んできてでもどうにかしなければ・・・」という声を耳にして以降、「定年を過ぎてからじゃ遅いな。今すぐ動かなくては」と、強く考えるようになりました。そんな中、たまたま自宅のポストに未来共創基金の募集要項が記載された手紙が入っているのを見つけ、「これだ!」と思って、応募したことがきっかけです。

ーーマリンサービス事業とはどんなことをするのか、事業内容を具体的に教えてください。

向山さん:
簡単にお伝えしますと、漁師さんや漁業関係者など海に携わる人の安心・安全を守る事業と海に携わる人を増やす事業を行う予定です。
具体的には、船の整備・修理の他、レンタルボートの受付や船舶免許取得支援、船舶年間管理サービスなどの対応が可能な海の相談窓口の設置です。将来的に、作業場をオープンな場所にし、海に関わる人たちが集まり、船や海に関する情報交換ができるような場をつくれたらと考えています。また、その店舗を運営する正社員・アルバイトの採用を行って人員を増やし、整備事業を安定化させる予定です。

ーーマリンサービス事業を通じて、やりたいことは何でしょうか?

向山さん
大きく分けて3つあります。

1つ目は、安心して海と関われるための船の修理です。

近年、漁業従事者から「船が故障して島外の業者に頼んでいるけれど、もう数カ月も待っている。今すぐ直してもらわないと漁期に間に合わない。修理できるなら直してくれないか。」「生活がかかっているから、少々船に不具合があっても操業を止められない。何とかしてもらえんやろうか。」といった依頼を何度も受けてきました。
さらに、移住者の方からは「船をもらったのは良いけれど、壊れてしまって乗れない。どうしよう。」という相談を受け、修理したこともあります。

そのような方が安心して海と関わることができるように、船に不具合が起こったら島内ですぐ修理でき、整備・メンテナンスの行き届いた船にいつも乗ってもらえるような環境づくりを行っていきたいと思っています。


2つ目は、情報が集う場「マリーナ」づくり

現状、海や船に関する相談ができる場所がないため、オープンな作業場や店舗を設置することで、海や船の事について少しでも疑問が生じたことを相談し、情報を得ることができる場をつくっていきたいと思っています。

将来的には、マリーナのような場所、海と陸との接点であり、人、モノ、情報が集まる場所をつくりたいです。

海に興味を持っている人はもちろん、海に興味がなくても気軽に立ち寄ることのできて、マリンカルチャーに触れることのできる場所をつくることで、人々の繋がりを築きたい。そして海の魅力と安心を未来につなぎたいと思っています。

3つ目は、知識と技術を受け継ぎ、次世代に引き継ぐことです。

先輩整備士の松本さんが働いていらっしゃるうちに、彼の豊富な知識と技術を私が受け継ぎたいと思っています。そして、それを次世代を担う意志のある若者に伝えることもしていきたいです。

海士町の船の整備士の人数は年々減少し、現在、1人になってしまいました。その最後の1人の整備士、松本さんは「誰かに引き継がなければ」と責任感を抱きながら働いていたようです。一方で、向山さんは「誰かがやらなければ、近い将来、船の修理・整備をできる人がゼロになってしまう」という強い危機感を感じていたようです。そんなお2人が思っていたタイミングが奇跡的に重なり合い、今回、向山さんが起業をすることとなりました。

「今」事業が継承されたからこそ、海の安心安全がつながったと感じました。もうあと1年遅かったらつながっていなかったかもしれない。「今」の熱量に投資をするという未来共創基金の想いが、まさに反映された事業だと感じました。未来を繋いでいくということはこういうことかと、心が温まりました。

向山さん
まずは、点検、整備、修理が島内で完結できるような環境をつくること。そうすることで、点検整備の行き届かない状態で操業やレジャーなど海に出て不安を抱えながら作業をする人を減らすことができるだろうと考えています。そのためにも、松本さんよりしっかりと技術を継承し、後世のために海の安心安全を守っていきたいと思っています。松本さん、松本さんの技術・想いを必ず引き継ぎます!よろしくお願いします!


左:松本さん 右:向山さん

【後編】はこちら


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