ハコラッシュのゲームデザイン(後編)
本記事は前後編の後編に相当します。
(関連:ハコラッシュのゲームデザイン(前編))
ゲームデザイン その2
前編で
『マウスで左クリックして宝箱を開ける』
『画面上の宝箱を全て開けるとステージクリア』
『ドラッグ操作で宝箱を連続で開ける』
という3つのルールを設定しました。
これだけでもゲームを作ることは可能ですが、
おそらく1~2分で飽きてしまいそうです。
『10分程度で終わるものしよう』という方針を立てた手前、
せめて5分ぐらいは遊べるようにしておきたいところです。
何かギミック(追加ルール)が必要かもしれません。
そこで、すでに決めたルールを深掘りしてみます。
1番目のルール『マウスで左クリックして宝箱を開ける』は、
下記のように分解できます。
・マウスカーソルを特定範囲まで移動させる
・その状態で左クリックをする
・宝箱が開いた状態になる
いわゆる「仕様」に落とす作業とも言えますね。
その上で、ギミックのバリエーションの広げ方も考えます。
・特定範囲(宝箱)が小さくなる=精密さを求める
・宝箱が移動する=正確な操作を求める
・マウスカーソル自体の移動量を変える=腕を動きを変えさせる
・クリックできる時間を限定する=タイミングを求める
・複数クリックで開ける=連打させる
・クリック長押しで何かを溜める=押し方で攻略を作る
・開ける順番が決まっている=手順を考えさせる
・ハズレ(ミミック)がある=開けた後の展開を考えさせる
などです。全てを使うわけではなく、あくまでアイデアとして、
なるべくシンプルな状態から柔軟に考えておくと、後々役に立ちます。
2番目のルール『画面上の宝箱を全て開けるとステージクリア』は、
操作面でのバリエーションを出しにくいので、
いったん横に置いておきます。
3番目のルール『ドラッグ操作で宝箱を連続で開ける』は、
下記のように分解してみます。
・いずれかの宝箱を開ける(ここまではルール1と同じ)
・左クリックをした状態で別の宝箱にカーソルを合わせる
・直前に開けた宝箱と隣同士なら、開ける
・クリックを離す/隣同士ではない/時間経過で無効化する
こちらもギミックのバリエーションを考えます。
・番人(敵)を無視できる=使わないと進めなくする
・ステージ全体で時間制限を設ける=時短のために使わせる
・短時間でドラッグ操作=素早く正確なマウス操作を求める
・ゆっくりドラッグ操作=ペース配分を考えさせる
・宝箱自体が動く=音ゲー的なリズムを取る遊び
・画面の一部が見えない=探す/記憶して攻略する
などを考えました。
これらのギミック候補を並べて検討したところ、
1番目のルール『マウスで左クリックして宝箱を開ける』を
拡張するには、『クリックできる時間を限定する』ギミックが、
『短時間で/ゆっくりドラッグ操作』にも応用できそうなので、
相性が良さそうです。
RPGの宝物庫という雰囲気に合うよう、
床から一定の間隔でトゲが生えてくるトラップをイメージしました。
しかしながら、ここで大きな問題にぶつかります。
「クリックした宝箱を開ける」ルールでは、床にトゲが生えていようが、
本来は関係ないハズです。
これを解決するため、宝箱を開ける際には、
「主人公のキャラクターが隣までワープして開ける」体にしました。
そして、『NGのタイミングで宝箱を開けると主人公が倒れてミスになる』
という4番目のルールを設定することにしました。
(このあたりはかなり強引に決めたものだなあと思いますw)
『マウスで左クリックして宝箱を開ける』操作があり、
それを1段階複雑にする(レベルアップ)する要素として、
『NGのタイミングで宝箱を開けるとミスになる』
というギミックがある…という関係性です。
さて、3番目のルール『ドラッグ操作で宝箱を連続で開ける』は、
そもそも使わなくてもクリアできるものなので、
使わないとクリアできないギミックを追加するのが良さそうです。
その観点から、
『番人が守っている宝箱を直接開けるとミスになる』
『ただし、ドラッグ操作中は番人を無視できる』
というギミックを追加することにしました。
ここで強調しておきたいのは、
各ルールやギミックは独立したものではなく、
それぞれが派生・レベルアップするような関係性だということです。
全てのケースに通用するものではありませんが、
個人的にはこういう考え方や作り方をすることで、
最終的なまとまりは良くなるんじゃないかなあと思っています。
いざ、実装
ルールを考える(ゲームデザインする)ターンはいったんここまでです。
文字にすると長いですが、もちろん考えている最中は、
もっとゴチャっとしたイメージで進めています。
(記事にするにあたり、記憶をさかのぼって整理しました)
何はともあれ、考えるのは0日目だけと決めていたので、
翌日から実装作業がスタートしました。
この記事では実装中のことには触れませんが、
やはり初心者にとっては思うようには進まないもので、
いくつもの軌道修正を強いられることになりました。
たとえば、「トゲが生えてくるトラップ」は
「ドラクエにありそうなダメージ床」になりましたし、
「番人が守っている」は、「落とし穴」になってしまいました。
いずれも絵素材の作成および実装コストが理由です。
それでも、その要素にとって重要なことは明確だったので、
修正するにしても最小限で済んだかなとは思います。
レベルデザイン
4日目くらいで各ルールやギミックの実装が完了したので、
5日目はレベルデザイン(ステージ設計)を行いました。
せっかくなので、各ステージの設計意図を紹介します。
(画像は開発作業中に作ったエクセルの資料です。
オレンジ色のマスが宝箱、黄色のマスがPLの初期位置、
赤いところはただの床、グレーが壁、
水色や黒のマスはトラップをそれぞれ意味します)
B1「アケル」
・ルール1『マウスで左クリックして宝箱を開ける』を伝える
・ルール2『画面上の宝箱を全て開けるとステージクリア』
※タイトル画面で宝箱をクリックして進んでいるので
「宝箱をクリックする」意識はできていると期待しています。
B2「ハコイリ」
・ルール1の補足説明
・壁に阻まれていても開けられることを伝える
※人間のキャラクターがいるゲームであれば、
そのキャラクター基準で操作することがベーシックなので、
本ゲーム特有の操作ルールを早めに伝える必要がありました。
B3「コンボ」
・ルール3『ドラッグ操作で宝箱を連続で開ける』
※1つずつクリックするのは面倒と思える数を並べることで、
ドラッグ操作に誘導することを狙いました。
B4「ヒトフデ」
・ルール3の補足説明
・縦方向でも、隣同士なら連続で開けられることを伝える
※ステージ名のように一筆書きができれば、
気持ちが良くなれる配置を目指しました。
漢字の「乙」っぽいのはちょっとした遊び心です。
B5「ワナ」
・罠床ギミックの紹介
・『NGのタイミングで宝箱を開けるとミスになる』を伝える
※宝箱の前にある2マス以外の罠床は演出用で、
数秒間隔でループしているとわかりやすくするためです。
B6「ギュウホ」
・罠床の実践編
・タイミングを計ってクリックしていく
・両サイド2個ずつ開ければ時短が可能(ちょっとしたテクニック)
※実質的な操作難度がグッと上がるステージです。
ここまで簡単めだったので、引き締める意図があります。
※ルール1の説明後に、罠床ギミックのステージを持ってくる
(B3&B4と、B5&B6を入れ替える)
アイデアもありましたが、
クリックとドラッグを交互に説明した方が間が持つのと、
ミスが発生するステージは後半の方が良いと考え、
この形に落ち着きました。
B7「アナ」
・落とし穴ギミックの紹介
・ドラッグ操作を使わないとクリアできない
※B3とほぼ同形状にすることで、
ドラッグ操作を思い出してもらおうとしています。
B8「ムシクイ」
・落とし穴ギミックの実践編
・縦方向にも行けることを補足説明している
※今にして思えば、ちょっと簡単すぎる設計で、
B10にそのしわ寄せが行ってしまいました。
B9「アナ ト ワナ」
・罠床と落とし穴の複合
・手前(下)から、
「ドラッグ開始のタイミングを計る」
「ドラッグ途中のタイミングを計る」
「タイミングを計りつつドラッグの間にクリックを挟む」
という感じで徐々に難しくなる
※ここに来てようやくゲームっぽいステージです。
難度の上昇が急すぎる(詰め込みすぎ)かと悩みもしましたが、
謎解きのような達成感につながることに期待して、
あえて突き放すことにしました。
B10「ラスダン」
・これまでの総決算
・見た瞬間にクライマックス感を伝える
・「短時間でドラッグ操作」「ゆっくりドラッグ操作」を駆使する
・左上から、渦巻き状に
「終点のタイミングを計ってドラッグ操作」
「短時間でドラッグ操作」
「ゆっくりドラッグ操作&クリックとの複合」
「最後に離れた宝箱をクリックで開ける(ルール1で〆)」
という要素への対応をそれぞれ要求する
※繰り返し遊ぶゲームではないので、
クリアすること自体に意味がある、達成感につながるような
難度設計を心がけました。
苦労された方も多かったかもしれませんが、
ここまでお付き合いいただいて嬉しく思います。
終わりに
そうやって完成したものが、この「ハコラッシュ」となります。
一見、独特なルールのゲームであっても、
それなりの理由があることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
(開発者たるものゲーム内でゲームを語るべし…
というご意見もあるかもしれませんが、
今回は実験的な試みということでご容赦いただければと思います)
さて、実際に1週間でUnityを使ったゲームを作ってみると、
肉体的には大いに疲れましたが、
自分のできること/できないことが明確に見えてくるので、
非常に有意義な挑戦だったと感じました。
何より大勢の開発者の皆さんと一緒にマラソンを走っているかのような、
不思議な一体感があって楽しかったです。
また機会があれば参加してみたいと思っています。
ご覧いただきありがとうございました。
2021/ 1/ 8 記事公開