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ただのお話 ~ただの呪い~台本公開

2022/3/20に名前のない演劇祭で上演した一人芝居、
「ただのお話~ただの呪い~」の台本を公開します。

※こちらの記事は投げ銭形式のものです。無料で全文読めます。

父親と確執のある娘の、禊の話です。
何を言っても今更感のある、負け戦の話です。
愛していたから故の憎しみの話です。

よかったら読んでみて、感想など気軽にいただけましたら嬉しいです。
もしお気に召されましたら上演などもしてください。
その際にはDMでもなんでも連絡をいただけるとただただ喜びますし、行ける距離なら見に行きます。

では、以下のタイトルから始まります。
(フォーマットは割と適当です。)

ただのお話~ただの呪い~

【上演時間約30分】

(居酒屋のガヤが聞こえる。明かりがつくと、テーブル席に女が一人座っていて、スマートフォンをいじっている。待ち合わせの友人が来たことに気づき、顔を上げて話し始める。)

やーほー!久しぶり~!元気にしてた?
びっくりしたよ、急に連絡してくるんだもん。
何飲む?生?はーい。
すいませーん、生ビール一つと、カシスオレンジお願いします。
…え?うるさ。別に可愛くないです。言うやついるよなーカシオレ可愛い~ってやつ。
いいでしょ別に。甘いのが好きなんだって。飲みやすいじゃん。
逆に頼みづらいわ。
あ、どーも。はい。カンパーイ、お疲れ~。
 
(飲みながら)ん~?うん、別に普通だよいつも通り。結婚して…2年半かな?
子供はうち作る予定ないからね~…
いや~、私が、子供だからなあ。いやほんとに。子供に子供は育てられないよ。
ま~、親は子供と共に成長していくものとは聞くけどさ~…
ほら私人生悲観主義だし。いやマジで。生まれてくることって結構賭けじゃない?
幸せになれるかどうか…
まあ経済的にも厳しいしね。うちはどっちも実家と疎遠だからサポートも受けられないし。
 
…まー私の話はいいじゃん。
今日どしたの。なんかあった?
 
…………急に黙るじゃん……
 
…お、おー。いくね。おーおーおーそんな一気に飲んでだいじょぶか。うお。空いた。
生?はい。あ、すいません、生一つ。
 
え?…なんて?
…………彼氏と、別れた?
 
…………あ、それで。連絡。それで、お酒。
あー…なるほど、なるほど。
…えっ彼氏って、あの、あれ?前と変わってないんだっけ?
あの?えーと、一緒にね、住んでたもんね確か。今も?
追い出す?ってこと?出てく?
あーそれは、まだ。決まってない。
え、今日別れたの?ははー!
えー…と?どっちから?
あーあんたからね、はー、それはよかった。
よかったっていうか。
いや別によかないか?どっちでもいいか?
へええええ。
アンタまだ例のろくでなしと付き合ってたんだね~。
いや…前から言ってたじゃん、そんなやつ今すぐ別れたほうがいいって。
前の奴と変わってないんだったら、あれでしょ。
同棲してんのに家事とか全部アンタに任せっきりで、そのくせ文句は一丁前で週の半分は喧嘩して、お金も家に入れないで毎日一人で遊び回ってて、浮気もする、みたいな。
そんなん、ねえ?別れて正解よ?
おめでとおめでと!さっさと新しい男作って忘れよ。
 …聞いてる?…何見てんの?……なに?ツイッター?これそいつのアカウント?
…「本日パチンコ20連荘!勝った金で何して遊んでやろうかな~」…
え?今日別れたんだよね?たった今のつぶやきがこれ??
やっば…なんも響いてないじゃん、ウケるサイテー。
いやウケるしかないってこんなん。
でもやったじゃん。パチンコで勝った金で追い出せるんじゃね?
こいつも未練もないっぽいしよかったじゃん。後腐れなさそうで。

………え…泣いてる?
ちょっと……ええ?いや…じゃあなんで別れたの…?
追いかけてきてほしくて?うわ…試し行為だ。
自分のこと必要としてくれてるかどうか確かめるために別れ切り出したの?
…で、パチンコ…

………馬鹿だなあ。
え、じゃあ、あんた別れたくないの!?
ちょっと…どこがいいのよそんなサイテークズ男。
ふーん、いいとこもあるんだ。具体的には?
…ってこの話、前もよくしてたね。

ああ、もう、はい、ティッシュ。
………いや…なんか、いままでほっといてごめんね。
いやさ、結局私にはどーすることもできないんだなって思ってたから、触れなくなっちゃってたわけだけど…
でもさ、最初の思惑はどうあれ、もう別れたんでしょ。それは…結果的によかったって、私は思うけど。
  (しばらく沈黙。カシスオレンジを飲み干す。)

…しょーがないでしょ、あんたが好きでも、向こうが好きじゃなかったんだから。
……はあ、無償の愛?愛してもらうために愛してたわけじゃない?
いや、いままさに見返り求めて泣いてるじゃん。無償で愛せなかったから、別れたんでしょ?
…………違わないでしょ、どう違うの?
いやいや、見返りを求めることって、まずそんなに悪いことじゃないからね?
それが返ってこなかったから別れる選択をした、それも全然間違ってないからね?

…ねえちょっとはさあ、自分の幸せってものを一番に考えなさいよ。
結局自分の行動を決めるのはあんた自身だよ。私にはどうすることもできないんだから。
……あんたは、本当は、どうしたいの?

……謝る?彼氏に?あんたが?………別れない…ってこと?
もう一回、見返りを求めずに、やってみる?
…はあ~…
……………好きにしたらいいと思うよ。

…まー、羨ましくもあるよ。そこまで人に執着…いや、人を好きになれたことって、私にはないからさ。
別に損得勘定してるつもりはないけど、どんなに傷ついて辛くてもやっぱり好きで離れられない、なんて、まあ、やっぱちょっとすごいなって思うよ。これは嫌味じゃなくて。
そう聞こえてもいいけど。…じゃあやめる?…やめないね。はいはい。
…落ち着いた?今日はもう出ようか…
すいませーん、お会計お願いします。
………でもさ、無償の愛、なんて無理なんじゃないかなって私は思うよ。
愛の定義は人それぞれかもしれないけどさ、やっぱ人間、愛してたら愛されたいって思っちゃうんじゃないかなあって私は思うんだよね。
だから…謝って復縁するのはいいと思うけど、言いたいことは全部言ってやったら?
あんたがいやだと思ってること、あんたがそれでも望んでること。全部伝えなよ。それだけは、やってほしいかな、私は。友人として。
 
(電話の着信)
 
あ、ごめん。電話私だわ。(ディスプレイを見て硬直。)…あー…先出ちゃって。今日はありがと、また。
 
(一瞬、間をおいて電話に出る。着信音カットアウト。)
 
はい、もしもし。
 
(照明が暗くなり、場面が変わる。やや暗い感じのゆったりめの音楽)
 
…思い出した、思い出してしまった。
私にも、一人いる。どんなに得がなくっても、どんなに傷ついて辛くても、どうしたっていまだに心のどこかで執着してしまう男が。
元気でいてほしいけれど、私の知らないところで私の知らない人たちと私と関係のないところで勝手に幸せでいることが、なぜだか悲しいと思ってしまう。
…それは、きっともう二度と会うことはないだろうと思っていた父のことだ。
 
(音楽のフェードアウトと共にまた照明が明るくなると、そこは自宅である。女はダイニングらしきところでぐったりと項垂れている。)
 
……おかえり。………え?電気?ああ、ごめん、忘れてた。
うん……………おみず、飲もうかな。ごめん…ありがと……
 
……お父さん、
お父さん、死んだんだって。
………うん、今日。
うん…………いや、わかんない。明日が通夜だって。
……どうしよう…
…行きたくない…
……行かなくていい…?……どうして?
だって…死んだのはお父さんで、私は娘なんだよ?
 
…………うん…そう…私を追い出したのは、お父さんなんだけど。
 
……ちがうの。ほんとは。私が家を出たの自分で。
お父さんは毎日毎日、出ていけ出ていけって言っていたけど。
最終的に家を出ることを決めたのは私なの。
………だから…お父さんを捨てたのは、私だったかもしれないなって思うときもあるんだ…
 
…酷い人だったな。
共働きなのに、家事は全部お母さんに任せきりで、
そのくせ文句ばっかり言ってて、
毎晩毎晩お母さんを詰ってて。

自営業なのをいいことに自分は遊びまわっててさ、
当然のように浮気もしてた。
しかもお母さんにも給料が出てるからって
自分の給料は家計に入れないの。
お母さんのお給料だって、普通のパートの人と全然変わらないくらいしか出してないくせに。

お母さん、可哀想だった。見てられなかった。
時々、お父さんがお母さんに怒ってるのを止めに入ると…お父さんは、お母さんが怒られてるのは全部おまえのせいだって言うの。
私のためにお金がかかっていて、
私のせいでお母さんは怒られていて、
私がいるからお父さんもお母さんもこんなに毎日喧嘩してても別れることもできずに二人とも我慢して我慢して一緒にいるんだって。
私のせいで、お父さんもお母さんも不幸なんだって。
…………別に、私、そんなこと頼んでないけどな。
そんな嫌々育てるみたいなことになるくらいなら、作らなきゃよかったじゃんって思っちゃうんだけど。

感謝しなくちゃ、いけないんだけどね。大人になるまで育ててくれたことには。
 
…わからないんだ。
…お父さんがどっちを望んでいるのか。
お葬式に、私が、来てほしいかどうか。
 
お父さんは、見栄っ張りだから、
「お葬式に来ない娘」がいることを恥じるかもしれない。
うちは田舎の居酒屋だから。お葬式にはきっとお父さんの知り合いがたくさんくる。
おばあちゃんの時がそうだったもの。
お父さんに娘がいることももちろんみんな知っているから、私がいないことをきっと変に思う。
娘なんだから葬式ぐらい来るのは当たり前だろって、お父さんは言うかもしれない。
 
でも、お父さんは意地っ張りだから、
勝手に家を出ていった薄情な娘が、葬式にだけ顔を出すのを嫌がるかもしれない。
 
…でもきっと、お父さんはどっちでもいいのかもしれないね。
こんなに、どっちがいいのか、なんて気にしてるのは私だけで、完全に無関心かも。
……………それがいちばん…キツイな…
 
……私?私がどうしたいのか…?
…そんなの…わっかんないよ…
 
……好き?私が?お父さんを?
冗談やめてよ。
なんで家を出たと思ってるのさ。
お父さんにずっとずっと家に住ましてやってるのを恩着せがましく言われるのがいやで、
毎日毎日顔色窺って生活してるのがいやで、
怒られて詰られて散々…散々…私のこと好きじゃないって…私のことちっとも愛してないってことを…証明するみたいな言葉が降ってくるのが耐えられなくて………

…ほんとだ…私…お父さんのことが…好きだから家を出たんだ…

ふっ…試し行為………
 
…………私、行くよ。お葬式。お父さんのこと、見送りにいってくる。

(場面が変わる。しばらくするとお経が聞こえてくる。
お経のフェードアウトとともに明かりがつくと、そこは葬儀場である。女は喪服で黙って座っている。
俯いて大人しく和尚の法話を聞いているようだったが、
突如笑い出し、話始める。)
 
ふっ、ふふふ、あははははは!あはははははは!
あ~はっはっはっは!!

あー、すみません。すみません。
どうしても、耐えがたかったものですから。

和尚さん、本当ですか。
お葬式に参列した人の数というのは、故人が生前積んできた徳そのものだと?
勿論数がすべてではなくとも、これだけの人が参列してくださったのは、この人の人柄、人徳によるものだと?

どうでしょうね?
少なくとも私は、彼の積まれた徳としては数えられたくありません。
寧ろ大きくマイナスしてほしいくらいです。

ああ、例えば彼、あの人、確か商工会議所で知り合った父の友人で、大変に可愛がられてあっちこっち飲みに連れまわされていた人みたいなのですが、
昨晩偶然、お見掛けしましてね、実家への帰路の途中の親不孝通りで大変酔っ払った様子で、父の名前を呼んで、
「死んで清々した、地獄へ落ちろ」と叫んでおられましたよ。
そんな人の葬式にも顔を出さねば面子が立たないのですから、田舎のコミュニティって本当にめんどくさいですよね?

(商工会議所の友人に向けて)いえ、あなたを咎めているわけじゃないんです。
父はものすごく面倒な性格でしたし、
気性も荒くて声も態度も大きくて恐ろしい人でしたから、そう思っている人はきっとあなただけではないと思いますよ。
ただ―家族の面倒を見る金と時間を削りに削ってあの人と飲んで回ったお酒というものは、さぞ美味しかっただろうなと、嫉妬がましい思いがあるだけですよ。

せっかくなので、この場を借りて最後に父に言いたいことを言わせてください。
 
お父さん、あなたは本当にクズでした。
私は家を出て正解だった。
あなたのもとを離れて大正解でした。

家を出て自分で家賃を払って家を借りて住んでみて初めて、自分の家というのは心を落ち着けて休息する場所であるということを知りました。
誰かの顔色を窺わず安心して眠りにつくことが、どんなに安らかで幸福であるかということを知りました。

それはね、異常なことなんですよ。

本来それらは、普通に享受できるべきことであると、私は家を出て初めて知ることができたんですよ。
毎日毎日毎日あなたの機嫌に振り回されていた。
声をあらげる日がほとんどでしたね。毎日叩いたテーブルが割れたこともありましたね。
あなたはずっとずっとなにかに苛立って怒ってばかりでした。
あれは教育でもなかった。
私があなたから教わったことと言えば、
「警察の世話にだけはなるな」
「他所で子供を作ってくるな」
あとは勝手にやってくれと、ただ俺の気に入らないことだけはするなと。
…それはあなたが面倒に巻き込まれたくないからだ。
それは教育とは言えない。
ただの無関心だ。
 
あなたはしょっちゅう言っていましたね。
「俺の家に住まわしてやっている」
あの家は私の家ではなく、私はあなたの家族ではなかった。
 
(参列者のひとりに呼びかけられた声に反応して)
…なんですか?ああ、…ああ、先生、お久しぶりです。
…………父が?
そう言っていたんですか?
「娘を愛してない父親なんていない」と?
 そんな言葉を、信じるのですか?なぜです。
便利な魔法の言葉ですね。
家でどんなふるまいをしていようと、その言葉をよそで言ったら、愛していることになるのでしょうか。
ああ、そうですね。そういえば父親らしいこともしていたかもしれません。
「家族サービス」という名目の食事や外出も時々ありました。
…だからなんですか。
さあ、これで父親の役割は果たしたぞって?
家に住まわしてやっていて、
時々義務的に「家族サービス」に連れて行ってやり、
女の子だから、暴力は、ふるわなかった。
だから??
 
……私だってね、愛されたかったんですよ。
 
チェックボックスを埋めるように「父親の役割」を果たしてくれればいいってもんじゃなくて
私と遊ぶことを楽しいと思ってほしかったし、
私と一緒にいることを幸せだと思ってほしかったし、
私と離れて暮らすことを寂しいと思ってほしかった。
 
世の中に溢れてる、親子のいい話みたいに、
ドラマや映画やアニメの物語みたいに、
 
私だって… 
愛されたかったんだ…
お父さんは、私を愛してはいなかった……
何を思い出して、どう考えてみても…私にはそうとしか思えないんですよ…
 
……愛せないなら…作んないでよ………
…私は子供を作らない。
 
(女、あらためて父に向き直り、最大限の呪いの言葉をぶつける。)
 
もし今度生まれ変わったら、
お前は絶対子供作るな
子どもなんか作らずに
友達と一緒にすきなだけ遊べ
それがお前のやりたいことなんだから
大人になるまで子供の面倒なんて見なくていい
誰もそんなこと望んでねーもん
だから
もしも生まれ変わっても
お前は絶対子供を作るなよ
少なくとも私だけは作るな
お前が死ぬまで一生呪っちまうんだからな
一生…忘れることも許してやることもできねえんだからな
私が生まれない世界で幸せになってくれ
頼むよ

……ごめんね、最後のお葬式でこんなこと言って。
でもあんた、それだけのことしたんだよ。
…反省してよね。

言いたいことは全部言ったよ。
これでもう安心して、"極楽"でもなんでも行ってくれ。
おつかれ、大好きだったよ、お父さん。(棺桶を蹴る)
 
(和尚さんを一瞥して、少しバツが悪そうに、再度父に向って)
…ご冥福をお祈りします。
 
…お母さん、この度はご愁傷さまでした。
私帰るわ。
ごめん、じゃあ。
(女、葬儀場を去る。外に出ると、電話が鳴る。居酒屋で話していた女の友人である。)

もしもし。え?言いたいこと全部言ったら、結果的に別れることになった?
あはは、ま、そんなこともあるよ。
よし、今夜は朝までカラオケだ。うん、いまからそっちいく。待ってて。(電話を切る)

…生まれてきちゃったからには、今世は死ぬまで暇をつぶすか…
(騒がしめのロックナンバーと共に暗転して終幕。)

あとがき?

お疲れ様でした!!
ここまで読んでくださってありがとうございました!!
今回のお話は割と笑いどころがなくて、ずっとシリアスでしんどい話だったでしょう。ほんとにすみません。

12月の台本はできる限りもうちょっとポップでコミカルな部分も入れていく予定です!

でもこのお話はこのお話で私自身は割と気に入っています。
再演にもチャレンジしたいなと思ってますので、よかったら応援をお願いします。
この記事にスキしていただいたり、拡散やご意見ご感想が励みになります!!

※また、こちらの記事は全文公開していますが最後に投げ銭を設定しています。

12月公演予定の『夜更けの陽だまり』公演資金にさせて頂きますので、記事を気に入って頂けた方で、応援いただける方、もしよろしければ投げ銭にてご支援をお願いします。

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