3分40秒小説『機種変』
「機種変更したいんですけど、カタログとか見せてもらえませんか?」
「有難うございます。しばらくお待ちください」
ショップのお姉さんが、カタログを持ってきた。
「差し支えなければ、おすすめの機種をご紹介させて頂いても宜しいでしょうか?」
「じゃあ、お願いします」
「まずは、こちらですが、F15-E、通称イーグルストライクです。マクドネル・ダグラス社の開発した戦闘爆撃機ですね。第4.5世代ジェット戦闘機に分類される直列複座の戦闘爆撃機となります。F-15B/Dとの外見の差はほとんどないのですが、搭載量の増強や確保や機体寿命の延長のための再設計は機体構造全体の6割に及んでおりまして、電子装置類の大幅な更新も考え合わせると、内部はほぼ別の機体となっています。色はブラック、シャンパンゴールド、ブルー、ピンクからお選びいただけます」
「え?」
「あ、お客様、普段は爆撃の方は?」
「……しません」
「でしたら、こちらの機種は如何でしょうか?日本・航空自衛隊の戦闘機になるんですが……」
お姉さんが、違うカタログをドシンと机に置いて広げる。
「F-2、こちらも第4.5世代ジェット戦闘機に分類される戦闘機です。F-16を大型化した機体に空対艦ミサイルを最大4発搭載という、戦闘機としては世界最高レベルの対艦攻撃能力と対空能力を兼備しており、『バイパーゼロ』という非公式の愛称を持っております。気になる爆撃機能ですが、F15-Eのように爆撃に特化した機体ではございません。とはいいましてもいざ爆撃というときにまったく爆撃できないということもなく、その性能や用途から、戦闘爆撃機やマルチロール機に分類される場合もある非常に使い勝手の良い機種となっております。色はブラック、シャンパンゴールド、メタリックシルバー、ピンクからお選びいただけます」
「あのですね。えーと、僕が欲しい機種はそのー、普通の通信器機というか……」
「通信器機ですか?オプションになってしまうんですが、暗号通信機能をお付けできます」
「い、いや……通信できるんでしょうけど、こんな巨大なものでは……」
「確かに一見重そうですよね。でもF-2は重量増軽減の為に、炭素繊維強化複合材による一体構造の主翼を世界で初めて採用しておりまして普段お使いになられるのに全然ストレスになはならないと思います」
「あの、そういう問題じゃなくってですね。もっと普通の一般的なやつをお願いしたいんですけど」
「ああー、そうだったんですねぇ。大変失礼致しました。もっとカジュアルで軽量なものでしたらジェネラルダイナミック社のF-16、通称ファイティングファルコンなんかがおすすめです。色はジェットブラック、パールホワイト、グリーン、ピンクから……」
「いい加減にしてください!!」流石に堪忍袋の緒が切れた。
「ど、どうなさいました?お客様……」
「僕の話を聞こうともせずに、戦闘爆撃機?意味が分からないですよ!これは素人ドッキリのTVかYouTubeかなんかでしょ?隠しカメラで撮影して、僕のこと笑うつもりだ!悪趣味だよ」
「いえ、そんな――」
「じゃあ本当に、ここで爆撃機売ってるって言うんですか?」
「ええ、そうです」
「そんなわけないじゃないですか!じゃあ幾らするんです?爆撃機って」「おおよそ100億円前後でしょうか?」
「100億……冗談でしょ?」
「いえ、適正な価格だと思います。ちなみに今でしたら、国防費として、月々税込み8億円お支払頂きましたら、機種代金は無料となっておりますが――」
「ふざけるな!」
そう言い放ち僕は、戸惑う店員を尻目に、川崎重工業の偵察ヘリコプターOH-1、通称ニンジャ(データ通信量10G/月まで無料)に乗って帰った。
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