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2024年5月の記事一覧
2分30秒小説『主題歌』
「おいお前!ルフランを見なかったか?」
「ルフラン?何の?」
「魂のに決まってるだろ!こっちに来なかったか?」
「ああ、魂のルフランならその角を曲がって行ったよ」
礼も言わずに男が駆け出す。角を曲がり消える。暫くして。
「もういいぞ」
ビルの隙間に話しかける。女が出て来た。辺りを伺い。
「有難う。助けてくれて」
「礼には及ばないその代わり、な、分かるだろ?」
男の口元が歪む。
「俺の魂を震わ
2分小説『泣きながらフライパンを振り回す女』
奇妙な卵だ。
鶏の卵より二回り程大きい。色は不自然な白。綿毛のような光を放っている。
私は泣いている。玉ねぎをみじん切りにしている。私は泣いている。玉ねぎに包丁を入れるよりずいぶん前から泣いている。
フライパンに油をぐるり、火を点ける。熱気が涙を温めるが、そんな小さな上昇気流では落下を阻止する事は出来ない。
フライパンでじゅうと鳴る、余りにも脆い調味料だ。
玉ねぎを入れる。冷蔵庫の
3分0秒小説『VTuberになって恩返しをするヒトデ』
コンサートホール喫煙所、煙が二筋男が二人、広告代理店の上司と部下、硝子の壁が一枚スライドし、痩せた男が入って来た。会釈をし――「お疲れ様です」。
「お疲れ様です。吉田君、この人が例の佐藤さんだよ。櫻木サクラちゃんのマネージャーの」
「初めまして、吉田と申します」
煙中名刺交換。
「佐藤さんのお噂は色々と伺っております」
「噂?どんな噂です?」
「非常にやり手だという噂です」
「はは、それはデマ
2分40秒小説『嘴と唇』
今から私の掌の中で一つの命が終焉を迎える。それは紛れもない事実である。明け方、陽の気配を察してレースカーテンが光を透かす準備をしている。
私の体温はどこに行ったのだろうか。掌で包み込んだタラコにすべて与えてしまいたいのに、肌は夏のフローリングのように冷たい。
タラコはセキセイインコ♂、元彼がそう名付けた。いや、名付けたというか、私の厚い唇を揶揄して、彼が「タラコ」を連呼するから――タラコが
3分0秒小説『イチジク』または『光源』
「ちょっと早くしてくんなーい?」
「え?俺?」
「アンタに決まってるでしょ?早くしなさいよ」
「いや、げほっげほっ、『早くしろ』って言われても俺、店員じゃないから」
「はぁ?分かってるわよそんなの」
40前後のおばさんだ。スナックのママかホステス?酒臭い。眼が充血してイチジクのようだ。
「私より前にアンタが並んでるんだからアンタが呼びなさいよ店員を」
深夜4:00のコンビニ。俺は風邪をひいてい