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2023年10月の記事一覧

散文詩『僕は永遠に右折できない』

散文詩『僕は永遠に右折できない』

 僕は永遠に右折できない。
 片側二車線、信号機は無い。手前の2車線、右から途切れることなく車がやってくる。多少途切れたとしても僅かな猶予しかない。左折は出来たとしても右折は不可能だ。向こう側の斜線もかなりの交通量。もうすでに3年は、中央分離帯の植え込みの隙間を睨んでいる。
 手前の車線と、向こうの斜線。僕の車が右折できるタイミングは、永遠に来ない。そう、永遠に――。
  
 永遠なんて存在しない

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散文詩『横猫が背を反らし伸びた』

散文詩『横猫が背を反らし伸びた』

長い横断歩道
スーツを着た男が渡った
自転車を押した女が渡った
乳母車を押す女が渡った
カートを押す女は背が曲がっている
信号が赤に変わった
女の手に力がこもり皺が一層寄った
カートは動かないタイヤが窪みに嵌っている

車から男が降りてきた
別の車から女が降りてきた
渡り終えた女が自転車を置いて引き返してきた
女が乳母車とカートを交互に見て半歩進んで止まる
ランドセルを背負った子供が3人走って来た

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詩『未送信カイロ』

詩『未送信カイロ』

知っていますか?
ホッカイロのカイロって
”懐炉”って書くそうです
寒さを凌ぐために懐に入れる炉
なるほどねという気がします

私はいつもカイロを持ち歩いています
あなたの言葉がそうです
私の懐炉です
いつも胸の内にあって
熱を失わずに
私を温め続けています

私の言葉があなたにとっても
懐炉であればいいなと
願っています
その願いがまた
私を温めてくれる懐炉にもなっていて
今年の冬は
あなたのせ

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散文詩『言葉を段ボールに入れる』

散文詩『言葉を段ボールに入れる』

 引っ越しの前に言葉を整理しようと思う。
 美しい言葉は右の段ボールに、汚い言葉は左の段ボールに、時間が無い、さくさく入れていこう。その前に段ボールに書いておこう。「美しい」「汚い」。こうしておいて「汚い」に入れた言葉は、ごみの日に棄てればいい。ん?言葉って可燃ごみだっけ?ま、いい後で調べよう。
 
 ”愛していた”を右の段ボールに、”笑顔”もそして”口づけ”も。
 ”悲しみを手に取って迷う。中原

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