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2023年8月の記事一覧

散文詩『合金とアルミ』

散文詩『合金とアルミ』

 透明な箱に緑の文字が張り付けられているそのすぐ横で、僕は千円札を店員に渡しコンビニの喧騒に耳を傾けていたのだが、ふと、透明な箱の中で小山を築いている惨めなジャックポットに視線を取られ、そこに一枚の異質な硬貨を認め息を飲み、鼠のような笑みを口端に浮かべ「誰だこんなところにスロットのメダルをいれたのは?」と辺りを見渡しこそはしなかったが、X氏の後姿を脳裏に描いて、このメダルが――その見たような見ない

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詩『この人生から俺を追放する』

「この人生から俺を追放する」
今さっき自己判決を下した
無罪という罪状
罰は×
つまりミッフィーの唇
化繊糸で絶叫封印
(俺はもうこの人生にはいない!)
0㏈の叫びが傍聴人の鼓膜を揺らす

++++++++++
廃楽園のはずれ
幹の腐った林檎の木から
熟した蝉が地に落ちた
水で研磨されたような黒曜石の瞳
それはレンズ
カラスという映像記録装置の
ちなみに取説には落書きがある
簡素な女性器の
+++

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詩『Siri滅裂』

詩『Siri滅裂』

ボクの神経は花瓶だ
誰か花を挿してくれ
対空マカロンが火を噴く前に
小さい前倣えの大を実演する
最後尾のパンダいやアレは・・・
汚い白熊だ騙されるな!
ヤギとヒツジのあいのこを飼っている
八木という執事を知りませんか?
僕は知っています
月の裏側にびっしり
笑い茸がはえていることをそれは
それは間違いなく
養殖されたあの子の笑顔
ホクト
いや南斗
いやポット
ぱっとサイケデリックな
シャニスとモリ

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詩『すてねこ』

詩『すてねこ』

捨て猫が歩いている
防波堤の上
空の青に背を擦りながら
てくてく歩いてる

たった今彼の小さな心は
肉体以外すべて
思い出も執着も
隠れ家も縄張りも
柔らかい手もしわくちゃの笑顔も
足跡の向こう側に捨ててきた

なにもかもすべて
捨てた猫

防波堤の上
捨て猫が歩いている

彼はこれから
何か大事な物を見つけては一つずつ
拾っていこうと思っている

散文詩『モラトリアム定食』

 時が止まった。
 窓から差し込む光、舞う埃の粒子をプリズムに、お盆の上に色彩を付与する。

 サバの塩焼き、その焼け爛れた鱗の連なり、滲んだ脂が、背骨の辺りから差し上る太陽の微光を受け、冥王星にて未だ命名されぬ丘陵の佇まいで皿の上に転がる。

 箸の先に十穀米が乗っている。その一粒一粒、小規模なビッグバンを準備している生命の核のよう――
「こんな莫大なエネルギーを口中に受け入れて、僕は無事でいら

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散文詩『筆影山』

 暗いアスファルトに目を凝らす。心が水筒の闇に同化してゆく、もはや2cm、遠足の目的地まで足りるはずもない麦茶。帰り路もあるのだ。笑いながら薄ら返事。異変に気付いた友が顔を覗き込む。
「お茶もう無いの?」
 水色の水筒を掴みシェイクするとちゃぷと弱弱しい音が一度したきり。
「まだ着いてもなぁのに、お茶がこんだけしかないど」
「飲みすぎじゃ」
 皆が笑った。僕にはそれが嘲笑に聞こえ――
「朝飯に塩昆

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散文詩『九十九足』

 百足は思った。
「脚が痛い」
 でもどの脚か分からない。
 右か左かも分からない。
 前か後ろかも分からない。
 ただただ鈍やかな痛みがしんしんと続いていて、百足を苦しめる。
 百足は思った。
「分からないからなんだと言うんだ?」
 分かったところで、どうしようもないのだ。
 ああ、痛いのはここだと分かったところで、いったい何になる?そう決め込んで、ぞろぞろと歩き出したのだが、やはり痛い。
「俺

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詩『19頁に挟まってる口づけ』

人生の一頁に口づけが挟まっている
栞のように
もう読み終えた筈なのに
抜くことのできない

あの人との口づけ
手探る
まだ前半部分
物語がうねりだす地点
だけど私にとって
そこが最終頁なのかも

あの人との口づけ
何度も同じ頁をめくり
そこから再開したいと
願う
もう一度読み返せば
物語が変わるのではないかと
でもその先に
あの人は登場しない

口づけ
輪郭のない花のよう
大丈夫
ちゃんと今

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散文詩『コンクリートの地平線』

 枕に涙腺を埋葬した。もう泣くことなんてないだろうから、涙腺は死んでいい。笑顔が浮かぶ――

 小さい頃砂場で遊んだ友達皆の笑顔。水色やピンクのスコップで、穴を掘り、山を盛り、あれはまるで……一人一人が自分の墓を作っているようだった。緑に塗装されたコンクリの壁が砂場を囲っている。塗装はでこぼこしていて、所々剥げていて、でも僕らにはそれが地平線だった。実際にそこに陽が沈んでいくのを何回も見たからね。

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散文詩『Coffee diver』

散文詩『Coffee diver』

飲みかけのまま冷めている
踊らない会議
人生が50分失われた実感
マスクに滞留する溜め息
走塁拒否のボールペン
全身の細胞が複数個壊死
葬列するゴルジ体

飲みかけのまま冷めている
置き去りの缶
スペースコロニーの模型
缶の中透かし見れば
三分の一が黒く
三分の二が黒い
その境目に国境はなく
シームレスな闇
夜と宇宙くらい馴染んでいる

『えー、ですから来期こそは』

喉を焼き尽くすほど
熱い闇

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散文詩『未熟な永遠』

 アイスキャンディの棒を伝って指にオレンジの冷たさが流れた。
 キミは手の甲に舌を這わせ、悪戯に笑う、上目遣いで。
 晴天の下っ腹にもくもくと雲が立っていて、風は乾いて清々しい。
 なのにボクは、勃起をしている。鼓動が蝉よりも早い。
 甘い風にほのかにキミの唾液の匂いが混ざっている。

詩『猫の手も借りたいほど君が好き』

詩『猫の手も借りたいほど君が好き』

優しく包み込むんだ
両頬を手のひらで
そしたらあの子
ニッコリ首傾げ
僕の親指を握り
「なぁに?」と
ため息のように囁く

##########

そこで妄想から覚める
手を見る
はぁー
僕はあの子の最愛にはなれない
だってあの子は猫に夢中
筋金入りの肉球マニア

どんなに鍛えて血管浮かせど
プニプニからは遠ざかる
男らしい手は目指せるけど
猫らしい手は目指せない
だから祈るしかない

「神よ!与

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散文詩『臨時ニュース―100年後の人類はジョン・レノンを聴いていない模様です』

散文詩『臨時ニュース―100年後の人類はジョン・レノンを聴いていない模様です』

 南アフリカで確認された新型コロナウイルスの変異種、ついに国内でも初めて感染が確認されました。

 じわりと皆既日食のようにじわりと、国内でも感染者が増えている新型コロナの変異種。それは正常であることを担保するギャンブラーの戯言。
 厚生労働省の発表によりますと、28日だけで明らかとなった変異種に、雲母の原石を砕けば飛び散るであろう色彩に憧れつ感染した人数は、曇天に映写(図2)。
 そのうちの1人

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詩『ナドナド』

詩『ナドナド』

などなどなーどーなーどー
仔牛などをのーせーてー
などなどなーどーなーどー
荷馬車などがゆーれーるー