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黒い手塚治虫 その1『人間昆虫記』

手塚治虫を読み返している。

というか昔読んだやつもあるけど当時はよく分からなくてスルーしたやつを中心に読んでいる。

具体的には黒い手塚と呼ばれるダークな展開が多い作品がメイン。

漫画の神様的な扱いでテレビに紹介される時は鉄腕アトムやジャングル大帝、火の鳥やブラックジャックみたいな図書館に置いても大丈夫な作品が基本的に取り上げられる。

これが光属性の手塚治虫で、そういうメジャーどころの作品じゃないとこにヤバいものが眠っていますよ、というお話。

ただこんなのはちょっと漫画に詳しい人なら誰でも知ってることなので、わざわざ喧伝するまでもないけれど、自分の中でブームが来ているのと、まだ黒い手塚を読んでいない人たちにも読んで欲しいという気持ちがありキーボードをカタカタしています。

そもそも代表作の火の鳥やブラックジャックだって、鬱展開やグロシーン、倫理に反する描写なんてけっこうありますし。ただこれらの作品は人間賛歌やヒューマニズムで陰鬱な部分をコーティングしてるんで分かりにくいのかも。

黒手塚はそういう、毒薬を砂糖菓子で包み込むような真似はせずダイレクトにヤバいものを見せつけてきます。そのストレートさが好き。剣豪が抜き身で襲い掛かってきたような緊張感がある。

という訳で黒手塚で好きな作品をレビューしていきます。黒手塚に挙げられる作品は

奇子
ばるぼら
MW
きりひと賛歌
アラバスター

あたりですかね。ちなみに先に言っておくとこの中で僕は奇子がいちばん好きです。黒手塚の初心者から上級者まで奇子を読んでおけばとりあえず何とかなるという傑作です。

奇子に関しては黒手塚を5作品ほど紹介した後、最後にレビューを書こうかなと思っています。なんせ傑作ですから。フェスで言えば大トリの位置に来るのは必然なんです。

今回はサラッと2巻で完結する『人間昆虫記』を紹介したいと思います。

一言でいうならサイコパスの悪女の物語ですね。

人間関係のすべてが演技。才能のある人間、権力のある人間にあらゆる方法を用いて取り入って彼らの能力や作風を模倣し、全てを奪ってポイ捨てしていく。時には身体で誘惑することも厭わない……ってかそれがメインかもしれません。

空っぽなゆえの模倣力

男をとっかえひっかえしながら金銭的にも社会的にも高みを目指して昇り続けていきます。女版銭ゲバと言ってもいいでしょう。確かにこういう人、自分の記憶をたどると今までの人生で何人かいました。

サイコパスの人物造形に関する解像度が高いんですね。しかも悪にひた走るその姿が魅力的に見えてしまうこともある。ジョジョのDIOがかっこよく見えてしまうのと同じです。

小悪魔的な魅力を持っているから男たちも「へぇ、おもしれー女」といった感じでガンガン引っかかります。そしてちぎっては投げという感じで捨てられるのですね。

またポイ捨てされる男たちもきちんと背景が描かれていて感情移入できるところがいい。「負けた奴の話」としても読める。ウシジマくんとかナニワ金融道的な楽しみ方です。

ただ主人公も、いくら成功を重ねても空虚な心は満たされないということに薄々気付いてしまいます。

人間は疲れると母性を求める

SNSで求められるキャラクターを演じ、承認はされるけれどそれは私に向けられたものではないのでは……?という現代的なテーマで切ることもできるし、金か心かという普遍的なテーマで切ることもできます。

しかしまぁ固いことは考えずにこの物語を楽しむのがいいと思います。魅力的でリアルなキャラ、あっと驚く展開、政治や陰謀などが絡み合う世界観。ダークながらもただ面白い漫画ですね。

そして読み終わったらこうつぶやきましょう。

「やっぱ手塚は神だわ……」とね。


そういえばkindle unlimitedだと手塚作品のほとんど1巻が無料で読めるのでおすすめです。他にも無料で読める面白い作品けっこうあるしね。

※追記:黒い手塚治虫その2も書きました。


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