黒い手塚治虫 その2『アラバスター』
では前回の続きで黒手塚の別の作品を紹介していきましょう。
前回の記事の3行まとめをすると
といったことを書いています。
今回はどの作品にしよっかなー、と考えて黒手塚の中で僕が2番目に好きな『アラバスター』の話をすることにしました。
この作品も陰鬱さがハンパじゃなくて、それなのにページをめくる手が止まらずに怒涛のラストまで駆け抜けた覚えがあります。
火の鳥→奇子→アラバスター、みたいな感じで読んでいったのかな確か。この流れあまりにも濃すぎるだろ……。といった感じがあるけど、火の鳥と奇子で黒い手塚への欲求が高まっていた時に見た、NHKの手塚ドキュメンタリーの1シーンで読むことを決めたんですね。
まずアラバスターのいくつかの場面が大写しにされ、画面を異様なものが覆いはじめます。脳をむき出しにした猿や、骨だけになった馬の大群、血管をむき出しにして呪詛の言葉を吐く人……。
そして原稿を手にした先生が「え?これ俺が描いたの?」とか「見てられない」と言い始めます。記憶力が超いいはずの先生が忘れている上にこの作品を描いたことを後悔しているような様子。
とにかくヤバい匂いをビンビンに感じてすぐに購入して読みました。
それで前述のようにラストまで手が止まらなくなる訳ですけど、こんな状態になったのはいくつか理由があります。
それはキャラクターも設定もみんなどうかしてること。なんやかんやあって復讐に燃える人は全身に血管が浮いてて、美しいものをすべて憎んでいるし
ヒロインは透明人間です。
悪役は息を吸うように差別するし
おまけにナルシストの変態です。
こんなに異常なキャラが集まって何が起こるかなんて誰にも予想がつかない。そりゃページをめくる手が止まらないよね、という感じ。漫画に読み飽きた人にはおすすめです。
「チェンソーマンよりファイアパンチが好きなんだぜ!」みたいな感じの人には合うと思いますよ。
別にアンリミで無料で1巻は読めるから、わざわざ解説するのも野暮かなーと思いざっくりとした紹介にとどめようと思うんですけど、この作品のテーマは「美醜などの外的価値に振り回された人間の悲哀」ってところでしょうか。
あとはこんな異常な作品が生まれた背景を語ると、虫プロ倒産で精神的にも金銭的にもどん底にあった手塚治虫のコンディションと呼応するように暗く、陰惨な内容になったんだとか。
全集のあとがきにも「単行本にはしたくなかった」「登場人物みんな嫌い」みたいなことが書かれています。
スクショを貼ったドキュメンタリーに当時の状況を語る場面があるんですけど、「ふすまの向こうに借金取りを30人待たせて原稿を描いていた」という驚きの証言が。
手塚治虫の聖人ではない部分に焦点を当てた『ブラック・ジャック創作秘話』や同時代の漫画家からの視点で描かれる『チェイサー』にもこの話は出てこなかったような。
まぁとりあえず先生の中では黒歴史になっているこの作品、全集の時に初めて単行本になる訳ですけど、その際に200ページもの書き直しをしています。あんたやりすぎだよ……。
そのあと書き直し前のオリジナル版が復刻しているので、アラバスターにドハマりしてしまった人はこちらも読みましょう。
黒人の主人公が顔に醜いアザがある男になっている大幅な改変があったり、変態の敵役の描写がねちっこくなってさらに変態でナルシスティックになっていたりするので見逃せない。
という訳でここまで読んで下さった方ありがとうございました。
下にアンリミのリンク貼って終わります。毎回言ってるけど手塚作品だいたい1巻無料になるので読みたい方はこいつで。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?