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今日、どこかの教室で #8

新型コロナウイルスで休校になった学校を舞台にした創作ストーリーを会話形式で綴っています。2000文字ほどですぐ読めます。

※完全一話完結です。この記事だけでも是非読んでください。

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3月11日と聞くと今日を生きる日本人なら誰もが思い出すあの大災害。最近の自粛ムードや日本全体を包む不安がなんだか重なりますね。

3月11日 ⁂÷×中学校・2年1組
生徒・蒲生譲(14)と先生・木嶋栄治(39)の場合。

ウーーーーーー

譲「・・・・」

木嶋「・・・・」

ウーーーーーーゥゥ

譲「黙とうなんてわざわざしなくても静かなんですけどね」

木嶋「特に今日はな」

譲「にぎやかな場所も日本のどこかにはあるんでしょうけどね」

木嶋「案外ないんちゃうか?こんなご時世やし」

譲「あのときはむしろにぎやかでしたね。悪いにぎやかさでしたけど」

木嶋「そうか」

譲「津波が来るぞ!逃げろ!あれもったか?これ持ったか?って」

木嶋「そのときは?五歳か」

譲「はい。家族と一緒に逃げてました。高台から自分の家が流されるのを見てました。それが9年たった今も一番脳裏に焼き付いています」

木嶋「大丈夫?それPTSDってやつちゃう?」

譲「突発的に思い出して不安になるとかはとりあえずないので大丈夫です」

木嶋「よかったわ」

譲「すいませんね。共感できない話ばっかり一方的にしちゃって」

木嶋「かまへんかまへん。どうせ家おってもひとりなんやろ?」

譲「はい。両親とも働かないといけないみたいで、病院だから」

木嶋「せやったな。友達は?羽島とか榎本とか連れてきたらよかったやん」

譲「彼らは親亡くしてるので養護施設です」

木嶋「そっち行ってもよかったんと違うの?」

譲「施設は施設で人手が足りてないみたいなんで、僕みたいな部外者が押しかけて迷惑かけるわけにもいかないですよ」

木嶋「ほんまやな。せやったら俺みたいに暇なやつとっつかまえてしゃべっとったほうがええやろ」

譲「せっかく無事両親ともに生き残ったのに、帰って寂しい気持ちになるとはおもってなかったです」

木嶋「まぁみんなそれぞれ寂しい気持ちはあるやろ」

譲「そうですね。そういえば、先生はどうして県外から?」

木嶋「当時高校生持ってて、この時期はもう生徒おらんかったから休みもろボランティア来とって、そのまま帰るに帰られへんくてそのままこっちで教師やってくことになったって感じかな」

譲「そうなんですね、なんかすいません。残ってもらっちゃって」

木嶋「帰られへんって気持ちの問題やから、心配せんといて」

譲「どうしてそういう気持ちになったんですか?」

木嶋「掘り下げるねぇ」

譲「暇なんでしょ?教えて下さいよ」

木嶋「うーん。あんま言いたないけど、暇やから教えたるわ」

譲「どうぞ」

木嶋「実は俺も親亡くしてるねん、震災で」

譲「ご両親東北に住んでたんですか?」

木嶋「ちゃう、1995年の話や」

譲「1995年・・・関西弁・・・そういうことか」

木嶋「蒲生はまだ生まれる前の話やな。当時はちょうど蒲生と同じ中二やったな」

譲「僕より全然辛い体験してるじゃないですか。今までどうして黙ってたんですか?」

木嶋「どっちの方がつらいとかないねんこういうのには。黙ってたのはそれとこれとは違う話やと思ってるからや」

譲「でも僕たちに同情して残ってくれたんじゃないんですか?」

木嶋「同情って、それもあるかも知らんけど。俺みたいな気持ちになる子供を一人でも支えられたらなって気持ちでこっちでやっていこうと思った」

譲「同情じゃないですか」

木嶋「そうなんかな」

譲「今まで大変だったんじゃないですか?ここぞっていうときにも気持ちのわからない部外者みたいな扱いされてきて」

木嶋「それは心の中の問題や。俺の中でどうともできる。部外者は部外者やしな」

譲「そんな・・・大変じゃないですか」

木嶋「それに、俺みたいな人一人おるだけで他のみんなの団結力が高まってるような気がしてな」

譲「もうやめてくださいよ。そんなこと」

木嶋「いいよ。俺のことは気にせんで」

譲「誰も部外者なんて心の底からはもともと誰も思ってないですよ。みんな先生のこと仲間だと思ってますよ」

木嶋「ありがとうな」

譲「みんなには自分から話してくださいね。次会うの当分先ですけど」

木嶋「覚えてたらな」

譲「また・・・」

木嶋「久しぶりに地元帰ろうかな」

譲「先生・・・」

木嶋「もう、下校時間だから帰ってくれ」

譲「え、でもまだ」

木嶋「蒲生、察してくれ」

譲「え、ちょっとなんのことか・・・」

木嶋「一人になりたいってことや、このドアホ」

譲「先生・・・すいません」

木嶋「じゃあな。明日も来いよ」

譲「ハンカチ持ってますか?」

木嶋「やかましいわ。さっさと帰れ」

譲「それじゃあさようなら。ありがとうございました」

木嶋「おう・・・」

ガラガラガラ

ー了ー

生徒たちは登校できませんが、僕は毎日投稿していくつもりです。

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