5月16日「まだ歯医者に苦手意識はある、だがしかし」

およそ5年ぶりに連絡を取るようになった友人がいる。その友人が覚えていた5年前の私の言動の一つが「歯医者行くの、しんどい」である。一言一句同じかどうかは自信がないが、「歯医者行くくらいなら死んだ方がマシ」的なことはよく言っていたと思う。特に受診日前は。

なぜ「歯医者行くくらいなら死んだ方がマシ」なのかというと、歯医者に行っても嘔吐反射(口の中を開けていられない事態)になって先生に迷惑をかける(先生は迷惑とは思っていないと思うが、それにしても…である)し、治療は静脈麻酔(※要は眠った状態になる)で行うが、数時間前から始まる絶飲絶食がつらく、そもそも静脈麻酔を行ってくれる大学病院が遠く、「最寄り駅までの車内で過呼吸が起きたらどうしよう」と不安の種が尽きないからである。あっ、あと、前の日ちゃんと眠れるかどうかも。

歯科恐怖症と不安障害のハイブリッドは、本当に、つらい。

今日16日、昨年からかかりつけになった近所の歯科医院に定期健診に行ってきた(※十年近く通っていた遠くの大学病院は主治医が退職し、途方に暮れていたが、頑張れば歩いていける距離にある歯科医院がこの十年の間に歯科恐怖専門外来を設けていた)。

前日15日、冒頭で記した友人に電話をした。5年前であれば、「明日歯医者だよ。つらいよ。つらたんだよ」と言っていただろうが、バスの待ち時間を活用して「GWで調子崩していたみたいだけど、最近はどうよ」と訊きたかっただけである。治療ではなく健診というのもあるが、病院が近所になったこと、この半年で6回も受診していること(※数年前は「お久しぶりです、2年ぶりです」ということもあった)、5年前とは違って抗不安薬のアルプラゾラムを処方されていることを考えれば、歯医者への苦手意識は薄れていた。

とはいっても、今日16日の目覚めは悪かった。睡眠導入剤のゾルピデムを中途半端に2分割して飲むのではなく、1錠飲めばよかったと後悔。というか、生活リズムを普段から整えられないから、肝心な時によく眠れないというのもある。あぁ、後悔、後悔。

アルプラゾラムは結局1.5錠(0.6mg)を服用し、歯科医院へ。抗不安薬は1.5時間もすれば効いてくる。その間に30分仮眠したり、シャワーを浴びたりして、できる限り心身を整えた。

健診は歯石を取る→フロスを通す→歯磨き粉で磨くという流れ。担当してくれる先生の「きつかったら手を上げてくださいね」「なるべく椅子を倒さないにしますね」「こまめにうがい休憩入れますね」の言葉が染みる。染みるといっても、心に、である。言葉も痛みも歯に染みが来ないことを祈るばかりである。

嘔吐反射、器具が口の奥に入るなどして「おえっ」となることは、「受診を重ねる」「担当する先生の理解がある」「抗不安薬の服用でぼーっとなるように仕向ける」という条件が揃えば、だんだん大丈夫になってくる。いっぱいに口を開けるのはしんどいが、(先生が見やすく・治療しやすくなるので)結果的に楽になることも経験で学んだ。

過去のnoteで「毎日はギリギリの繰り返しなのかもしれない」と書いたが、今日の健診中も、途中で手を上げて「ちょっと休みたいです」と言うか言わないかを考えるくらい、ギリギリといってもいいくらいのしんどさはあった。嘔吐反射と歯磨き粉の相性はおそらく悪い。前の大学病院での健診中に「歯磨き粉はえづいてしまいます」と正直に言ったことを思い出したが、今日はなんとかやり過ごせた。えらいぞ、自分。

歯医者の椅子に座っている時点で、歯科医院に行けている時点で、えらいぞ、すごいぞ、とも言えるのだが。

歯科麻酔医の資格も「やさしさライセンス」も持ち合わせている担当の先生からは「きれいに磨けていますよ」「三カ月ぶりですが歯石もないですよ」と褒めてもらった。虫歯になるのが怖すぎて、毎日寝る前に歯垢染色液で歯磨きをし、2種類のフロスで隙間もきれいにし、仕上げに歯科で売られている虫歯予防ジェルをつけて歯を磨く私である。これくらいのマメさを人生の他の場面でも発揮したいものである。

「この歯、大丈夫かな」ともやもやした気持ちもあったので、先生に話し、改めて見てもらって「もし痛みがあるようなら連絡してください」という回答を得て、すっきり。次の健診は4カ月後。4カ月先の予定が入るということは、メンタル弱々の私からすれば、プレッシャーでしかない。本当に尊敬しかない。私も頑張らないとな、と思う。

まだ歯医者に苦手意識はある。しかし「歯医者行くくらいなら死んだ方がマシ」的な発想はだいぶ薄まってきた。今は死ななくて良かったと思う。疎遠だった友人と久しぶりに話せることができたし、何より歯医者のことで不安になる時間が明らかに減って、食べる時間が楽しくなった。食べたいものがあるのに、それを食べたら歯が染みるかもと心配しなくていいのだから。

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