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読01「特許破りの女王・大鳳未来/南原詠」レビュー

第20回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作が待望の文庫化!
型破りな女性弁理士の剛腕が炸裂! 特許をめぐるまったく新しいリーガルミステリー!
 
特許権を盾に企業から巨額の賠償金をふんだくっていた凄腕の弁理士・大鳳未来。
現在は「特許権侵害を警告された企業を守る」ことを専門にし東奔西走している。
今回のクライアントは、映像技術の特許権侵害を警告され、活動休止を迫られる人気VTuber・天ノ川トリィ。
調べるうちにさまざまな企業の思惑が絡んでいることに気づいた未来は、トリィを守るため、いちかばちかの賭けに出る――。
(Amazon販売ページ抜粋)


1.  知財部員へのおすすめ度?

☆☆☆☆☆(☆5つ)
 若手からベテランまで必読!エンタメとして楽しめるだけではなく、未来のクライアントへの向き合い方は知財部員としても学ぶ点あり!

2.  特許紛争のリアル手順を踏襲しながら、ストーリーとしても読みやすい!

 そもそも特許をネタにした小説や物語自体がそうそうない中で、珍しく世に出た本作。しかも、「このミステリーがすごい!」大賞の受賞作ということで、出版当初から大きな話題になりました。いまさら感のあるレビューではありますが、本ブログの書籍レビュー第1号にふさわしい(?)話題作ということで取り上げてみました。
 本作を読んで驚くのが、侵害立証や無効資料調査に関するリアルさ。それもそのはずで著者の南原氏は企業内弁理士だという。なるほど・・・
 一方で、日ごろの業務を下敷きにしつつ、ここまでエンターテイメント性のあるストーリーを作り出す創造性は本当にスゴい。登場人物のクセは強いものの、文体は読みやすく、(特許明細書とは違って)すいすい読み進められる。次はどうなる?と思わせる展開もあり、本当に一息で読み終わってしまう。通勤時間やお昼休みに息抜きとして読んでみることをおススメしたい。
 

3. 文句をつける点があるとしたら、ここまで感情的な権利者がいるかどうか・・・

 なぜ特許をネタにした小説や物語が少ないのか?それは、リアルとエンタメのバランスが極めて難しいからだと思います。完全なリアルを求めるには、裁判記録を読むのが一番いいのかもしれませんが、これではさすがに業務向け・・・(マニア向けともいえる)。
 一方で、エンタメを前面に押し出すと、脇役に追いやられてしまう(下町ロケットの実用新案扱い)。
 本作は、そういった意味では極めてバランスの取れた作品といえる(それでもAmazonレビューではマニア向けだったというレビューが散見される)んですが、それでも少々粗があるといえばある・・・。
 その粗というのが、権利者の態度。皆川電工についても、ハナムラにしても、権利行使を行うにあたっては得るべきメリットを見越した権利行使シナリオがあるはずなのですが、彼らはあまりそれが見えない。ハナムラは奇抜なシナリオで権利行使をしたので一定の納得もするのですが、とはいえ、掛けたコストに対する得るメリットが小さい気もする。皆川電工に至ってはどちらかというと感情的ともいえる権利行使。本作の主人公・未来がクライアントを守るストーリーがベースにあるため、権利行使をする側(敵)が怖くないと、エンタメとして破綻するのかもしれませんが、ちょっと知財部員としては、権利者側の態度には違和感があるなぁと思う次第です。
 

4.  大鳳未来は理想の知財部員?

 大鳳未来が所属するミスルトウ特許法律事務所の指針その三は「ミスルトウは、クライアントも相手方もなるべく円満に解決できる術を探す」は、ストーリー全体に通された指針だった。そして、未来は問題解決を特許法の範囲だけに限らず、ありとあらゆる手段を使う。クライアントを敵から守り、やりたいことを決して止めさせない姿が印象的だった。
 ただよく考えると、「企業を取り巻く特許リスクから、事業を守り、事業部のやりたいビジネスを決して止めない」、これは知的財産部が事業部門に果たす最も大事なサービスである。
 近年、知的財産部のサービスは多角化し、IPランドスケープなどをはじめとする新しいサービスも増えている。その中で、伝統的な知財部業務に情熱的に取り組んでいる大鳳未来は理想の知財部員なのかもしれない。
 本作を読んだ知財部員各位は、ぜひ、大鳳未来の情熱に感化されてほしいと思う。


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