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花譜の邦楽サブカル・名Cover 5選

 最近はそうとも限らない気もするが、古来より”歌ってみた”と言えばボカロ曲のカバーのことである。代表的なバーチャルシンガー・花譜も例外ではなく、数々のボカロ曲をカバーしている。(個人的には、『回る空うさぎ』と『さようなら、花泥棒さん』のカバーが大好きである。)
 彼女はおそらく、彼女自身の好みで歌ってみたの選曲をしている。そして彼女は時折、めちゃめちゃサブカルな選曲をしてくる。それもサブカル邦楽好きのツボを狙いすましたかのようなチョイスをしてくる。言葉を選ばない表現かも知れないが、花譜を単なる歌い手ではないアーティストたらしめている ”深み” は、彼女のこうしたバックグラウンドから来ているのだろう。
 今回はそんな花譜のサブカル邦楽Coverたちの中から、特に私が素晴らしかろうと思うものを5つ、紹介したいと思う。


ミッドナイト清純異性交遊 (原曲:大森靖子)

 大森靖子×花譜の組合わせが正解なのは、組曲『イマジナリーフレンド』でも証明されているが、このカバーも素晴らしい。大森靖子の詞とメロディを花譜というフィルターを通して聴くと、ここまで異なる物になるのかと驚かされる。
 面白いのが、この歌ってみたで一番リプレイ回数が多い部分が曲の真ん中くらいの「めんどくさい夢 しょうがないファックユー」のところなこと(2023年6月現在)。みんな花譜ちゃんが「ふぁっきゅー」って言ったことに驚いて巻き戻したんだなと思うと面白い。
 秀逸な編曲についても言及したい。原曲と異なる、オリジナリティあるアレンジメントとなっている。ダブステップっぽいドラムに、レトロゲームのようなピコピコ・ピュンピュンした音が可愛い。
 特にアレンジの差異が顕著なのは間奏の部分。原曲が叫び声やシンセのノイズっぽい音が満載の病み感ある編曲なのに対して、(妙に具体的な喩えだが)「'10年代初頭の少女向けアニメの主題歌」を彷彿とさせるようなサウンドにキュートなメロディが乗っかる可愛げな編曲となっている。

五月雨 (原曲:崎山蒼志)

 花譜の歌声を他のアーティストで喩えるとしたら、なるほど、崎山蒼志かも知れない。であれば、花譜が彼の楽曲をカバーしたら素晴らしいのは当然である。「五月雨は崎山蒼志が歌わなきゃダメだろ」と言う我々の厄介オタク的な思いを見事に納得させてくる。
 このカバー、ギターの編曲が素晴らしい。私はギターを弾いたこともなければ音感もないので正確には分からないが、原曲とは違う編曲になっている気がする。単純に弾いてるギターが違うからそう聴こえるだけかも知れない。分からん。
 特に冒頭部分のコードの上がり方が気持ち良すぎる。ボーカルに”ハモっている”感じ。概要欄を見ると「ギター:umichang」と書かれているが、色々検索してみてもこの方に関するそれらしい情報が出てこない。『Lemon』『打上花火』のカバーでギターを弾いているのもこの方である。

ラムのラブソング (原曲:松谷祐子/アニメ『うる星やつら』OP)

 サブカル…かどうかは若干怪しいが、このカバーも挙げざるを得ない。ご存知、1981年のアニメ『うる星やつら』のオープニング曲である。昨年(2022年)のリメイク版アニメでも劇中歌として使用されている。
 この記事で紹介している中では一番新しいカバーで、2022年12月18日投稿。ORESAMAでもお馴染み、Utomaru先生のアートワークが光る。リメイク版の方のED曲 (ご存知『テイキョ…『トウキョウ・シャンディ・ランデヴ』) を花譜が歌っているので、当然それきっかけで歌ったのだと思う。
 このカバーは投稿からすぐにTikTokでバイラルヒットを記録。うる星やつらも花譜も知らない人でも、このカバーは聞いたことがあるだろう。
 今まで聴いたことのないような、キュートな花譜である。こんな声も出せたのかよ花譜ちゃん。ボーカリスト・花譜の、ある意味で得体の知れない多面性の、その片鱗が見えるというか…。

気になるあの娘 (原曲:相対性理論)

 カレーとライス、ヨーグルトと蜂蜜、ウイスキーとチョコレート…。そんな黄金の組み合わせを見つけてしまった気分である。あまりにも正解。なので語るべき事がむしろ何もない。花譜と相対性理論、合うことは自明である。アートワークも素晴らしい。
 イントロで流れている印象的なギターのメロディ、サビでも後ろで鳴っているが、実は原曲には出てこないフレーズである。それなのに原曲でもこのフレーズがあったかのように思えてしまう。以前の項でも話したが、こういう独自の編曲たちも花譜のカバーを聴く際の一つの楽しみどころである。
 伸びやかでありつつも、我々の感性を巻き取って食い散らかすようなこの歌声。言われてみれば、やくしまるえつこと花譜のボーカリストとしての性質は似通っているかも知れない。

透明少女 (原曲:ナンバーガール)

 邦楽ロック史に燦然と輝く金字塔にしてナンバーガールの代表曲『透明少女』。聴いたことがないのであれば、まずは原曲を聴いてほしい。
 とにかく情熱的な原曲である。「歌詞が聴き取れない、そしてそこが良い」なんてのはよく言われることだが、とにかくひたすらな情熱。そこに表現されているのは完膚なきまでの”夏”。夏と言えばこの曲。夏にはこの曲を聴きながら炎天下で見知らぬ住宅街でも散歩したい、そんな曲である。
 そしてそれに対照的なのは、花譜の歌ってみたである。歌詞の発音が明瞭だという差異は些細なこととして、かの情熱的な原曲を、これほどまでに爽やかに歌い上げられるものなのか。原曲の、蒸しかえるような暑さの中、自転車を押して坂を上る夏とは何か別の…暑さの中、時折涼しい風が吹き抜け、片手にはサイダー。そんな夏である。原曲とこのカバーには、まさに対照的な魅力があるのである。

一人踏切に佇む、ピンク髪の女の子がいましてねぇ…。
あの娘って誰?
そう、それが例えば、透明少女。

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