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銃!ビール!スーパーパワー!狂人!死!アメコミ『HITMAN ヒットマン』では人が死ぬ。

実家の蔵を漁っていたら高祖父の書いた日記が出てきたので公開します

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銃!ビール!スーパーパワー!狂人!死!アメコミ『HITMAN ヒットマン』では人が死ぬ。

突然だが、男が銃を撃って人が死ぬ映画は好きか?もう少し具体的に言おう。サム・ペキンパー”ワイルドバンチ”とか、セルジオ・レオーネ”続・夕陽のガンマン”とか、ジョン・ウー”男たちの挽歌”とか…デスペラードとか…HEATとか…処刑人とか…

つまり、男がいて、酒を浴びるように飲んだり、友達と笑い合ったりして、そして激しく銃を撃ち、あっさりと死んだり死ななかったりする、そういう映画のことだ。俺はそういう映画がとても好きだ。

もう一つ聞くと、最近のスーパーヒーロー映画は好きか?キャプテンアメリカとか…スパイダーマンとか…アベンジャーズとか…あるいはスーパーマンとか…バットマンとか…ジャスティスリーグとか…

つまり、超人的なパワーを持った色鮮やかなコスチュームのヒーローたちが華々しく活躍し、しかも様々なヒーローがその世界を共有している映画のことだ。俺はそういう映画もとても好きだ。

もしあなたもそうなら…おめでとう。ヒットマンはあなたのためのコミックだ。

はじめまして、アロハ天狗の高祖父です。アメコミ ヒットマンがめちゃくちゃ面白かったのでそれの話をします。

<要約>
・男臭く馬鹿騒ぎしながら銃を撃って人が大量に死ぬ
・しかも色んな有名ヒーローも出る
・しかし後半はハードボイルド重点でクソクール
・ブロマンス
・独立性と完結性が高く読みやすい
・犬溶接マンとか気の狂ったキャラも多数
・ニンジャスレイヤーとか好きならオススメ

ヒットマン1 ガース・エニス  @amazonJPさんから

このヒットマンというアメコミは、いわゆるDCユニバース…バットマンとかスーパーマンとかジャスティスリーグとか、映画化どころだとコンスタンティンとかが共存している世界を舞台にした作品だ。(最近ウォッチメン時空と合流したってマジ?)

しかし、ヒットマンはヒーローコミックではない。なぜならこの作品の主人公、トミーはただの殺し屋だからだ。

それもこうしたコミック世界に存在する"世界最強の殺し屋"とか、"一匹狼の傭兵"ではない。小銭目当てにケチな殺しを請け負う、チンピラ、ゴロツキ、"ただの殺し屋"の類であって、スーパーヴィランですらない。(一応地味なパワーはある)

本作は連作短編の体裁を取っているが、大体の話において主人公トミーはヤバい依頼に巻き込まれたり、過去の因縁に巻き込まれたり、友の敵を討ったりして、その合間には常にたまり場の酒場でビールを飲んでいる。

つまり、男がいて、酒を浴びるように飲んだり、友達と笑い合ったりして、そして激しく銃を撃ち、あっさりと死んだり死ななかったりする、そういう漫画だ。

そして更に、この作品はDC時空が舞台で、更に言えばゴッサムシティが拠点なので、街はコスチュームを着てスーパーパワーを持ったヒーローとコスチュームを着てスーパーパワーを持った狂人ばかりだ。

コスチュームを着てスーパーパワーを持った狂人(orヒーロー)と金目当てに人を殺すチンピラが出会うとどうなるか?それはもうドタバタした展開になり…銃は撃たれ…人は死に…巻き込まれたまともなヒーローは頭を抱える…

そう、本作は人が死ぬ。それはそれは景気良く死ぬ。主人公が殺し屋であり、そもそも殺しに一切躊躇がないので、戦闘シーンは基本的に銃撃戦となり、数ページもすれば画面は死体の山となる(最高だ!)

しかも、この作品にはまともなヒーローもたくさん出る。DCユニバースとして世界観を一つにする、あの超有名ヒーローとか超大御所ヒーローとか、超人気ヒーローとか映画化ヒーローもゲスト的に登場する(最高だ!)

それが誰かは初読時の楽しみとして欲しいので、全て明かす野暮はしないが、ほんの一例を挙げるとバットマンも出てくる。バットマンと、金で人を殺す殺し屋が出会った時、どんなことが起きるか想像してほしい。(しかもお互い、別口で厄介な事件に巻き込まれているので更に頭を抱える羽目になる)

様々なヒーローたち(≒被害者の会)はそれだけで紙面を華やかに盛り上げてくれるが、更に面白いのはヒーローたちの、殺し屋であるトミーに対するリアクションだ。

「もともとダーティなキャラなので特に違和感なく付き合う奴」「事情が事情なので已む無く組む奴」「完全に主導権を取られてチンピラたちの場に呑まれまくってる奴」「本人が理想としてのアメリカン・スピリットを体現しているのでめちゃくちゃ公正に接してくれる奴」や
「最初から手足ヘシ折る気満々でやってきて一切話の通じないウルトラクソ野郎(これはバットマンのことです)」などがいて、ヒーローたちからは完全に離れた男にどう接するか?というのが却ってゲストヒーローの個性を際立たせている。

アウトサイダーであり、犯罪者であり、人殺しである主人公・トミーが反射板となることで、そのヒーローの個性…コスチュームやスーパーパワーといったものではなく、一つの人格としての個性が引き立つのだ。

あと犯罪者目線だとバットマンがマジで最悪にやっかいなクソ偏執狂野郎というのがよ〜〜くわかります。話聞けよお前マジで!

また、本作独自のキャラクターたちもスラップスティックでバイオレンスでアンダードッグな、本作のトーンにあった連中ばかりで、主人公の飲み仲間である気のいい殺し屋達は最高の連中だ。

だが、本作で更に忘れられないのはスーパーヒーローチーム『セクション8』の面々だろう。

※セクション8とは軍事用語で「精神的問題で任務に不適」を意味する。
犬溶接マンはその存在そのものの圧倒的インパクトで、作品を超えて知名度が広がった節があるが、その他の連中も、酔って人を酒瓶で殴るシックスパックや、人を窓から投げ捨てる能力者など、強烈な異常者揃いだ。

本作オリジナルのコスチュームヒーロー・ナイトフィスト。セクション8とは関係ないが登場シーンが全て面白い奇跡の存在

エピソードも、正当派とは程遠いものが多く、例えば『クリスマススペシャル:放射能ゲロサンタクロース退治』や、『セクション8対宇宙テキサス暴走族』とか、『未来にタイムスリップしたトニーの底抜け!ドタバタ大騒動(人は大量に死ぬ)』とか、他の作品では中々見れない強烈なシチュエーションが多い。

ここまで読んだあなたなら当然予想ができたと思うがゾンビ=ペンギンちゃんもでる

#妥当
#当然の流れ
#これでゾンビペンギンチャンが出ないほうがありえない

なんと驚くべきことにニンジャもでる

#出なかったらどうしようと思ってた
#サメも出る
#ゾンビも出る
#あほのお子様セット

こうした愛すべき馬鹿達と馬鹿騒ぎしながら酒を飲み…銃を撃ち…悪党が死ぬ…それが本作の魅力だが、それだけではただのスラップスティック・バイオレンスだ。

しかし、本作のトーンは中盤以降に大きくその色を変える。具体的には、死の匂いが濃厚に漂ってくるのだ。

その死の匂いとは『モブ悪党がバカスカ景気良く死ぬ』とか『クソ野郎のヴィランが派手にくたばる』と言った陽性の死ではなく、自分自身の足元ににじり寄ってくる生々しい死臭の類だ。

例えば、ある時は愉快なドタバタギャグとして気軽に処理されていた殺しが、濃密な復讐として立ち返ってくる。過去の因縁に足首を掴まれ、世界に自分の居場所がなくなってくる圧迫感に追いつめられていく。

俺が冒頭に挙げた映画の多くにもそうした要素が含まれている。本作は漫画という媒体で尺もたっぷり取れるので、追い詰められ感とか、一手ずつ世界がドン詰まりになっていく感覚は二時間の映画よりもむしろ強烈だろう。

では後半はひたすらに重苦しいのかと言えば全くそんなことはならず、異次元肛門から沸いてきた宇宙的邪悪存在と対する我らがセクション8とかゴッサムシティにタイムゲートが!ジュラシックパーク・inゴッサム!(人は大量に生きたまま食われて死ぬ)とか、顎の抜けるようなエピソードもたくさんある。

ただ、それらを合間に挟みつつも死と喪失、因縁と復讐の薄暗い雰囲気が作品全体に漂っているのだ。それが苦手な人は二巻までを読めばそれでも本当に楽しい作品だし、その価値は保証する。

だが、もしあなたがそうした薄暗さや重さにむしろ何らかの美徳、ハードボイルドとか滅びの美学とか、様々な言葉で語られてきた何らかの価値を見出すのならば・・・ヒットマンはより素晴らしいエンタメ体験になるだろう。

また、本作の良いところは独立性・完結性が高いところだ。

邦訳アメコミを複数冊買っていると、例えば冒頭時点での既存キャラの関係性や立ち位置を把握するまでに相当時間がかかったり、話が盛り上がってきたと思ったら次のビッグイベントにそのまま連結したりといった出来事には一定の確率で遭遇する。

(長大な歴史を持つ大量のキャラクター達によるサーガなので、それ自体はやむを得ないことだ)

ただヒットマンに関していえばその懸念は不要だ。メインキャラクターの大半は本作オリジナルのチンピラで、例えばバットマンの様な既存のDCヒーロー達の登場はあくまでゲストキャラとしての一線を保ったものだ。

更にいい事に、例えば本作連載中も宇宙規模の大型クロスオーバーが発生して、ヒーローが大体巻き込まれとかしているが、本作にはさほど関係ない
#留守番
#そもそも声をかけられないので引きこもって酒飲んでるだけ
#テレビでスーパーマンを応援しながらダベる

そして、全5巻というまとまりで完結しているのもオススメできる所以だ。最終巻の巻末には、本編終了後の言わばボーナス・トラックのような短編エピソードがあるが、これがまた余韻を引き立てる絶妙な作品で、私はとても好きだ。

本作の方向性を一番表しているのは、巻末の作品解説をニンジャスレイヤーの作者が書いているということだろう。

実際、鼻水の出るような気の狂った馬鹿展開と、心臓がヒリつくようなドシリアス展開が予備動作なしに移行する点や、偉大でも無ければ善人でもない小悪党たちが一抹の矜持を見せる美学などは、ニンジャスレイヤーのファン層にはほぼ確実にブッ刺さるだろう。

日本の漫画で例えれば、秋田書店とか少年画報社のコミックが近く、そうした出版社の作品が好きな層にも自信を持ってオススメできる作品だ。

あと巻末に、奇天烈アメコミキャラ名鑑という、ほとんど本作と関係ないはずなのにめちゃくちゃ本作のトーンとマッチした面白いコラムをサークル肉雑炊の藤井三打さんが書いており、これも相当に笑える。

本作は基本的に短編〜中編のエピソード仕立てであり、一つ一つの話が比較的短くバシっと終るのも良い。バシッと終るのは本当に大事で、ヒットマンのめちゃくちゃいいところに、どのエピソードのラストのコマもめちゃくちゃカッコいいところも挙げられる。

映画でもラストカットさえカッコ良ければだいたいなんとかなるものだが、この作品もラストカットで+5万点されてる話が多い。

特に好きな話を挙げると…

Ten Thousand Bullets 1巻収録序盤の山場 大量の銃撃戦、異様に濃く笑えるゲストキャラ、ブロマンス、濃密な復讐と、ヒットマンの魅力が凝縮されたエピソード


that stupid bastich 1巻収録 クソ強い宇宙テキサス賞金稼ぎ”ロボ”と例によって一悶着起こしたトミー一行。街全体を股にかけた大騒動と痛快なラストが最高。

A Coffinful of Dollars 1巻収録 セルジオ・レオーネ映画(というか続・夕陽のガンマン)への直接的なオマージュが捧げられている

Local Heroes 2巻収録。トミーを巻き込む巨大な陰謀。そこにうっかり絡んでしまった正当派ヒーローがひどい目にあう。

Of thee I sing 3巻収録。トミーととある超超大御所ヒーローのほんの僅かな邂逅。全エピソードで一番好き。

殺し屋たちの挽歌 4巻収録 ジョン・ウー映画への直接的なオマージュが捧げられている

老犬―オールド・ドッグ― 4巻収録 エピローグの「見開き」が宇宙一カッコいい。

月の裏の闇にて 5巻収録 ボーナス・トラック的なエピソードだが、これこそが本作の締めくくりとして相応しいラストカットだ

俺はこの作品がとても好きなので、俺と趣味の近しいどこかの誰かに届くことを祈ってこうしたオススメを書いた。うっかりどこかの誰かが俺に騙されてこの作品を買い、気に入り、インターネットにバットマンの悪口を書いたりしてくれたらとても嬉しい。

また、この作品に直接的に引用されている作品群、例えば男たちの挽歌や戦略大作戦、続・夕陽のガンマンなどもとても素晴らしい作品なので、この作品をキッカケに俺が大好きなそうした作品に出会うキッカケにもなれたら本当に素晴らしいことだ。
(続・夕陽のガンマン?50年前の西部劇だろ?とか油断していると面白すぎておまえは死ぬ)

「おまえの趣味ならこれも合うはず」と推薦してくれてもとても嬉しい。俺は自分を曝け出した。あとはあなたに委ねて、おれはヒットマンを読み返すとしよう。さらばだ。 1927年9月 横浜にて

(おわりです)

高祖父はこの手紙を書き残した3日後に狂い死んだと伝えられています。

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