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超親切解説で中国史SFを楽しもう~藤井 太洋 × 豊崎 由美、『移動迷宮』(中央公論新社)を読む~

2021年6月の月刊ALLREVIEWSフィクション部門のゲストはSF作家の藤井太洋さん。2019年11月に奄美大島で行われた月刊ALLREVIEWS以来の顔合わせです。海外作家と積極的に進める藤井さん。今回の課題本『移動迷宮』は中国史SFのアンソロジーですが、収められた作家にはお友達も多いとのこと。
豊富な注釈と親切な解説が特徴の本書、中国史に疎いあなたにも大丈夫!ゴキゲンなお二人が解説していきます。2021年6月の新刊なので、早めに読んだら友達に自慢できます。
※対談は2021年6月30日に行われました。下記リンクよりアーカイブ視聴が可能です。

注釈・解説・ルビが素晴らしい

『移動迷宮』は若手の中国研究者・翻訳者の大恵和実さんが現代の中国『史』SFを八本選りすぐって編んだアンソロジー。中国史SFというと、中国史に関する最低限の知識が必要なのではと心配な方、この本は初心者のための配慮が満載です。
まずは豊富な注釈。例えば、タイトルにもなっているフェイダオの『移動迷宮』。愛新覚羅・弘暦にはちゃんと「清朝第六代の皇帝」の注が。愛新覚羅というと愛新覚羅溥儀しか知らない筆者は助かりました。次に、的確な解説。1980年代以降の改革開放とともに急速に発展する中国のSFの流れが簡潔にまとめられています。ルビも多め。漢字表記が多い中国文学にルビは必須ですが、本書の特徴は同じ漢字に複数回ルビを振っていること。一回しかルビを振ってないとどうしても忘れてしまう筆者にとっては、有難い心遣いです。
行き届いた翻訳者・編集者の仕事に豊崎さんも感服しています。このアンソロジーには、若手の大恵さんを応援するかのように、中国語翻訳の重鎮、林久之さん、立原透耶さんのお二人も参加。『折りたたみ北京』、『三体』で盛り上がった中国SFをさらに盛り上げていこうという、翻訳者たちの意気込みが感じられます。


偽史マニア必読!『南方に嘉蘇あり』

アンソロジーになると自分の好みとは異なる作品が普通は入ってしまうが、このアンソロジーは八本全部好き!と豊崎さん。対談ではすべての話に言及しました。

ここでは、豊崎さんの特にお気に入りの馬伯庸『南方に嘉蘇あり』を紹介します。中国のコーヒーにまつわる「偽史」の話で、コーヒー以外のエピソードが意外と史実に基づいている、でもコーヒーにまつわる話は全部嘘、という、「偽史」好きにはたまならない作品です。諸葛亮(諸葛孔明)がコーヒー中毒だったという設定のこの作品では、有名人登場という歴史SFの醍醐味を味わえます。日本人であれば、中国史を知らないといっても、諸葛孔明くらいはどんな人物か思い浮かべられる、そのことは、中国史SFを楽しむアドバンテージと、藤井さん。
中国史がぐっとつまったこの小説はまさに「コンデンス・ノベル」と豊崎さん。アニメ化してほしい!

対談中は終始笑顔、藤井さんの「推す力」に注目!

豊崎さんと藤井さんは2019年11月に、月刊ALLREVIEWSの活動の一環として、藤井さんの故郷の奄美大島で地元の高校生を対象に島尾ミホについての講演を行いました。対談の模様はYouTubeで無料公開中です。この時もお二人は初対談とは思えないほど息が合っています。

それから1年半を経て、再び対談したお二人。奄美大島の幕末ものを執筆中の藤井さんは、登場人物にちなんで髪を伸ばしているところで、見事な銀髪のロングヘア。「綺麗な髪で羨ましい」と豊崎さん。

動画では、藤井さんが「カバーの下の装丁も素晴らしい」とカバーをとった本も見せるなど、大宣伝!アンソロジーの中国人作者にはお友達もいるそう。でも贔屓目ではなく、本当に面白いと、自信をもって推しています。

対談中、お二人は終始笑顔。見ているこちらも楽しくなります。さらに、お二人ともはっきりした発音で、ラジオとして聞いてもとても楽しい。そんな楽しい対談を味わいたい方はぜひアーカイブ視聴を。『南方に嘉蘇あり』だけでなく全作品について語っています。


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入会すると、日本を代表する書評家、鹿島茂さんと豊崎由美さんのお二人がパーソナリティーをつとめる、書評YouTube番組を視聴できます。
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さらに、Twitter文学賞の志を継承した「みんなのつぶやき文学賞」では、友の会会員有志が運営にボランティアとして協力。若手書評家と一緒に賞を作り上げていく過程を楽しみました。
2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
ALL REVIEWS友のTwitter:https://twitter.com/a_r_tomonokai


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